集中力を欠くと、うっかりミスが起こる。これが度重(たびかさ)なると、ガサツな人…と思われがちで、人の信用は失墜(しっつい)する。このような人物は人の上には立てず、精神の修養が必要となる。会社とかの研修は、こういう場合に備えるためのものだ。対応する相手は所属する組織外の人や世間の事物だから、好印象、好結果となることが組織としては必要不可欠となる。
「底穴君、明日の資料は大丈夫だろうね」
「はあ、それはもう、万事(ばんじ)手抜かりなく!」
「君は、よく手抜かるからねえ…。いや、君を信用しない訳じゃないんだよ。信用しない訳じゃないんだが、一応、私も目を通しておこうと思ってね…」
部長から役員待遇に昇格目前の我功(がこう)は底穴を部長席から見上げながらそう言った。
「はあ、そういうことでございましたら、お持ちいたします…」
底穴も課長昇進の時期だったこともあり、胸を張って返すと、急いで係長席へ戻(もど)った。だが、出来た書類には表面上では分からないうっかりミスがあった。ただそれは、書類枚数の末尾近くで、枚数が多い書類では、見逃しがちな程度のものだった。
書類に目通しし始めた我功だったが、枚数が多かったため、うっかりミスをし、前あたりで目通しをやめた。
「まっ! これなら大丈夫だろう…」
我功は大丈夫と思ったが、ちっとも大丈夫じゃなかった。だが先方の会社も、そのうっかりミスをうっかりミスで見落とした。双方、1勝1敗で痛み分けとなった。その後、我功にも底穴にも先方の会社にも、…という結果が待っていた。…については、敢(あ)えて吉凶は、さし控(ひか)えたい。^ ^
完