久坂が明日の天気予報を調べると、どうも昼頃から降りそうだ…と判明した。となれば、明日にしよう…と思った外の消毒作業は前倒しで今日やってしまわねばならない。雨の日に消毒をしても無駄になる。よし、やろう! と思った久坂だったが、いや、いやいやいや…と、すぐ、そう思う気持を否定した。最近の天気予報は強(あなが)ちピッタリ合うというものでもなかったからだ。一週間ばかり前もこの日と似たようなことがあった。というより、現実の次の日の天候は真逆で、降るといっていた空から、こともあろうに日射しまで照りつけ、まったく降らなかったのである。あくまでも予報ですから・・と気象庁に言われればそれまでだが、ならば天気予報などいらないじゃないかっ! と怒れることにもなりかねない。久坂は、いや、いやいやいや…その手は桑名(くわな)の焼き蛤(はまぐり)…と訳の分からないダジャレを頭に浮かべながら、逆に今日やってしまおうと決断した。外(はず)れると思わせておいて、実は降る・・という逆の逆も考えられたからだ。逆の逆は予報どおりである。
少し遅(おそ)めだったが昼までにはまだ小1時間があったから、久坂は消毒を無事、済ますことが出来た。曇(くも)っていた薄墨(うすずみ)色の空から晴れ間さえ出て、まあまあ、だな…と久坂は溜飲(りゅういん)を下げた。
案の定、次の日は朝からシトシト雨が降り出した。このシトシトは長引くな…と、久坂は地面に落ちる雨粒を見ながら思ったが、すぐ、いや、いやいやいや…そう思わせておいて、明日はいい具合に晴れる・・ということもアリだ…とそう思う気持を、すぐ否定した。ならば明日は、外で美味(うま)いものでも…と浮かび、久坂はそのつもりになった。が、次の日も春の雨は降り続いた。眺(なが)める灰色の雨空が、いや、いやいやいや…そうは問屋が卸(おろ)さない・・と言っているように久坂には思えた。
完