さて、どうしたものか…と棚牡丹(たなぼた)は腕を組み、考えていた。中途半端な時間で、今からやれば昼は回ってしまうことは目に見えていた。かといって、昼を回れば具合が悪いのか? と考えれば実はそれほどでもなく、昼食が遅れる・・程度のことだった。天気予報は明日の午後から降る・・と伝えていたから、やるとすれば、今日なのだ。降りだす明日では具合が悪かった。掛時計を見ると11時半ばである。やればできる! と意気込み、家の中の雑事は後回しにして棚牡丹は剪定作業の準備を始めた。よくよく考えれば、剪定を今日、必ずしなければならない・・ということでもなかった。だが、棚牡丹は道具を出し、作業を始めた。棚牡丹の読みでは小一時間かかるだろう…だった。案に相違して、剪定作業は15分ほどで片づいた。なんだ、やればできるじゃないか…と棚牡丹はニタリとし、道具を仕舞い始めた。そのとき、ふと棚牡丹の目に樹木の幹(みき)にこびり付いた苔(こけ)が目にとまった。放っておいても取り分けどうということもないのだが、そこから朽(く)ちる・・ということも有り得ない訳ではない。腕を見ると、まだ昼まで15分ばかりあった。やればできる! と棚牡丹は意気込み、水バケツとブラシを準備して苔を取り始めた。すると妙なもので、10分ばかりで幹にこびり付いた苔は、綺麗に洗い流された。なんだ、やればできるじゃないか…と棚牡丹は、ふたたびニタリとした。腕を見ると、昼にはまだ5分ばかりあった。そのとき、ふと棚牡丹の目に、浮き上がった塀(へい)板が見えた。一ヶ所、釘(くぎ)が抜け、浮き上がっていた。棚牡丹は、やればできる! と1本の釘と金槌(かなづち)を出し、板に打ち込んで修理した。腕を見れば昼にはまだ2分ばかりあった。なんだ、やればできるじゃないか…と棚牡丹は、またまたニタリとした。
昼になったが、取り分けてどうということもないまま、棚牡丹は昼にした。
なにごとも、やらなければできず、やればできる・・のである。
完