明日は数人の客を招いたパーティだった。グラスセットだけ出すのを忘れていた手羽崎は、夜中にベッドを抜け出すと、暗闇の中を物置へ分け入った。明日の朝では…と思えたのだ。手探(てさぐ)りで棚を弄(まさぐ)っていると、歪(いびつ)な形の収納品があった。モノは何だか分からなかったが、新聞紙に包(くる)まれたそのモノは、どうも貰いものの調度品のように思えた。懐中電灯もなく手羽崎が物置へ分け入ったのは、飽くまでも思い込みだったが、特定した場所にグラスセットがある自信があったからだ。以前、グラスセットを仕舞った記憶が鮮明に残っていたのである。それでも暗闇の中では手探りで探す他はない。自然と、おぼつかない動きになったが、手羽崎は仕舞った記憶がある付近の場所を、くまなく探った。すると、それらしいモノが手に触れた。
「これだな…」
手羽崎は意気込んで、そのモノを棚から下(お)ろした。そのまま家の中へ持ち帰り、明るいキッチンのテープルで梱包(こんぽう)した新聞紙を取った。中から出てきたモノは残念ながらグラスセットではなく皿セットだった。新聞紙に同じように包んで収納したのがいけなかったのだ。手羽崎は、また物置へと分け入り、同じように探したが、とうとうグラスセットは見つからなかった。掛時計を見ると、すでに夜中の3時は回っていた。手羽崎は後ろ髪を引かれながら、ベッドへ戻(もど)った。
グラスセットはキッチンにすでに出ていた。手羽崎は出していないと思い込んでいたが、忘れるだろう…と思い、実は昼間、出していたのである。しかも、過去の収納した思い込みが重なり、二重の間違った思い込みになったのである。
次の日、手羽崎はパーティの準備を始めた。が、それは手羽崎の思い込んだ間違いで、パーティは翌々日だった。
思い込みは、飽くまでも思い込みで不確かだ。確認が絶対、必要である。
完