水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

分析ユーモア短編集  <67> 不朽(ふきゅう)

2019年02月05日 00時00分00秒 | #小説

 不朽(ふきゅう)という、いい言葉がこの国にはある。不朽の名作・・などと使われる言葉だ。この不朽という言葉をじっくりと分析して味わってみるのも一興(いっきょう)というものだ。暇(ひま)なヤツだな…と思われる方もあろうが、そこは正月の餅(もち)でも焼いて、「お前は醤油? ああ、そうか、甘いのはダメだったな…俺は断然、砂糖醤油!」などと、どうでもいいことをネチネチ食べながら言い合い、テレビの漫才中継でも観ていて下されば、それでいい。^^
 不朽という言葉を分析していると、なかなか味わい深い言葉であることが分かってくる。普遍(ふへん)不朽の名作などと言われ、永久(とわ)に変化しない絶品の執筆だと強調する言い回しにも使われる。料理の場合でも、継ぎ足し継ぎ足して作られるタレのように不朽の味・・などと歴史に引き継がれる場合がある。孰(いず)れも、後世に伝え残したいという願望が深層心理に込められているのである。
 正月で賑(にぎ)わう、とある商店街である。その一角に、50年以上、変わらず出し続ける昆布の元祖(がんそ)を売り言葉にした老舗(しにせ)があった。この老舗は、人々から不朽の味っ! と絶賛され、人気があった。ところが最近、この老舗の道路を挟んだ対面に新しく昆布の店が出来た。この店も老舗と同じように昆布の本家(ほんけ)を売り言葉にして商売を始めた。数年が経ち、次第に客足は新しい店へと動いていた。少しずつ減る客に、老舗の店主は「?…」と首を傾(かたむ)け、調べてみようと客に紛れて本家の昆布を買ってみた。持ち帰って味わってみると、驚いたことに自分の店の昆布の味(あじ)と同じではないか。店主は益々(ますます)、原因が分からなくなり、首を傾け過ぎ、倒れそうになった・・ということはなく、両腕を組んで考え始めた。そのときだった。老舗の番頭が暖簾(のれん)を潜(くぐ)って戻(もど)ってきた。
「旦那さまっ! 訳が分かりましたよっ!」
「どういうことだね?」
 店主は朴訥(ぼくとつ)に訊(たず)ねた。番頭の説明によれば、本家は元祖が売った商品を密(ひそ)かに買い漁(あさ)り、また売っていたのである。
「… ということは、本家の品はうちの品(しな)だったのかい?」
「ええ! ほんとにもう! しかし、そんなことで儲(もうけ)けが出るんですかね?」
 番頭も分からなくなり、店主と同じように両腕を組んだ。
「分からんっ!?」
 店主は、益々腕を硬(かた)く意固地(いこじ)に組んで、考え始めた。番頭も同じように、益々硬く腕を組んで考えた。
 分析の結果、不朽が激動する世の中の重要なブレーキ役になっているという事実だろう。ブレーキが利かないと、激突して、チィン~~~!! となるから、用心したいものだ。^^

                                 


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