水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

分析ユーモア短編集  <82> あの頃

2019年02月20日 00時00分00秒 | #小説

 年齢を重ねると少しづつ、過去のよかった頃の姿が見え隠れするようになる。あの頃・・である。あの頃を分析すれば、どういう訳か悪い記憶は薄れ、あるいは消え失(う)せていて、脳裏(のうり)を掠(かす)めるのは、あの頃はよかった…という、いい記憶が多いことが分かる。では、悪い記憶はどこへ消えたのか? だが、記憶に残っていることは残っているのだ。ただ、思い出さないよう、深層心理で脳が思い出さないようストップさせている訳だ。これ以上は医学で専門としている先生方にお訊(たず)ねいただきたい。私のようなド素人(しろうと)には皆目(かいもく)、分からない話である。^^
 とあるレトロな喫茶店で、いつも寄る顔馴染(かおなじみ)の老人二人が話をしている。
「いやぁ~最近は買い物袋も有料でしょ?」
「そうそう! つい、あの頃の癖(くせ)が出て、忘れてしまいますなっ、ははは…」
「はいっ! あの頃は世の中、まだ活気がありましたっ!」
「あの頃でしょ?」
「ええ、あの頃ですっ!」
「バブルの頃の」
「いやいや、1ドルが360円当時の…」
「ははは…随分(ずいぶん)、古いあの頃ですなっ!」
「ええええ、なにせ、あの頃はまだ紙袋でしたからなっ!」
「ははは…私のあの頃はポリ袋です」
「孰(いず)れにしろ、あの頃はよかったですなっ!」
「ははは…それは言えます」
 二人は席を立ち、レジで支払いを済ませると、あの頃からあるレトロな喫茶店を出ていった。
 分析の結果、あの頃は一人一人、違うことが分かる。^^

                                  


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