水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

連載小説 幽霊パッション 第三章 (第四十一回)

2012年02月19日 00時00分00秒 | #小説

 幽霊パッション 第三章  水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    
    
第四十一回
「よし! 世界中の科学者に能力を与えるよう念じてくれ」
『能力を与えるとは?』
「だから、発明、発見の潜在能力を、だよ」
『課長、それだと人工重力以外の分野も含まれますが…』
「ああ、だから人工重力の発明と念じりゃいいじゃないか」
『はい…』
 幽霊平林は訝(いぶか)ったが、上山に従って如意の筆を胸元から引き出した。その後の所作は、いつもと同じである。如意の筆が振られると、幽霊平林はその筆を元の胸元へ戻して挿した。
『終わりました…』
「おっ! ご苦労さん。結果が楽しみだが、いつ頃、分かるかだな…」
『今日、明日という訳にはいかないでしょう。恐らくは一週間、いや、一か月、数ヶ月、一年のスパンで考えねばなりません』
 幽霊平林の言葉は、いつになく妙な荘厳さを含んだ説明口調だった。
「…、そうだな。少し疲れたよ。今日は、これまでにしよう。動きがあれば、こちらから、また呼びだすから…」
『はい。それじゃそういうことで…。僕も結果が楽しみですよ』
「そうだな…。今回はストップが、かからなかったし、今後はこの程度だな」
『ですね。それじゃ…』
 幽霊平林は、いつもの格好よさで、スゥ~っと消え失せた。上山は肩を軽く片手で摘(つま)むと、揉(も)みほぐした。
 結果が表れ始めたのは、それから僅(わず)か四日後だった。上山が、いつものように出勤準備を整え、食事の後片づけも澄ましてテレビをつけた時である。目に飛び込んだ場面はニュース番組で、その最初の世界変化を報じていた。読み上げるアナウンサーの声も、心なしか興奮で震えているように上山には思えた。


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連載小説 幽霊パッション 第三章 (第四十回)

2012年02月18日 00時00分00秒 | #小説

 幽霊パッション 第三章  水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                     
    
第四十回
「だろ? 現実は、宇宙ステーションを含めて、プカリプカリだわな」
『ええ、それは云えます。1Gの人工重力を生み出す発見、発明は、されてません』
「私は正に、こういうのがノーベル賞だと思うんだよ。最近の賞の軽いこと、軽いこと。もらった人が悪いとは云わんがな。私の後輩の塩山がもらったTSS免疫ワクチンの開発貢献とかだつたら分かるんだがな…」
「塩山さんは偉い方なんですねえ」
「偉かぁ~ないだろうが、まあ稀有の優秀な男であることは疑う余地がない」
『それはともかく、課長のその発想、いいですよ!』
 幽霊平林は久しぶりにニンマリと陰気に笑った。
「だいいち、帰還したあと、機能回復訓練をするそうじゃないか」
『ええ、無重力では筋肉とかが弱りますからねえ』
「そうそう、生理的に無重力ゾーンでの長期滞在は、よくないわな」
『確かに…。僕も課長が云われるとおりだと思います。夢を人々に与えてくれるのはいいんですが、なんか、やってることが上辺だけのような気がしますよね。この発想は、いいでしょう』
「で、だ。そうなると、問題は、どう念じるか、だわな」
『そうなんですよ。少し詰めますか?』
「ああ、そうしよう」
 車が上山の家へ着き、上山はドアを開けて入り、幽霊平林は壁からスゥ~っと透過して入った。その後、二人は居間で詳細の詰めを語り合った。
「結局は、小難しく念じるのは駄目だということか…。シンプルに念じた方が上手くいくと…」
 上山と幽霊平林は、あれこれと内容を詰めたが、どれも帯に短し襷(たすき)に長しで、すべてを纏(まと)めるには決定力に欠けた。人工重力発生装置は、念じたところで即、完成するものではない。要は、科学者へのモチベーションを与えることに尽きた。科学者が俄かに閃(ひらめ)いて機械を開発、設計し、詩作をし、そののち完成させたなら、ひとまず成功したと云える話だった。


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連載小説 幽霊パッション 第三章 (第三十九回)

2012年02月17日 00時00分00秒 | #小説

 幽霊パッション 第三章  水本爽涼
                               
    
第三十九回
『それで、どうだったんですか?』
「ああ…、早い話、私と君が目指していたのは、大きな影響を与えることだということさ。大きな影響を与えなければ、霊界からストップもかからないと、こうなる」
「はあ、それはまあ、そうですよね。で?」
「だから、教授が云うには、小さいことから始めれば、問題はないだろう、ということなんだ」
『…、なるほど、そういうことですか』
 幽霊平林は、上山に軽く丸め込まれた。
「そうなんだが…。何かコレ! ってのは、ないか?」
「訊(き)くばかりじゃなく、課長も考えて下さいよ」
「ああ…」
 一時停車し、二人は癖になった腕組み姿勢で考え始めた。
『宇宙方面で何か、いいのありませんか?』
「宇宙と幽霊じゃ、コントラストが、きつ過ぎるんじゃないか?」
 上山は笑いながら云った。
『ああ…! 課長は、いつも茶化すんだから…』
 幽霊平林は膨れて不平を吐いた。
「すまんすまん…。宇宙か…。そういや、SF映画じゃ宇宙船の中でプカリプカリ浮かんでないよなあ」
 上山は幽霊平林を、じっと見つめた。
『…僕を見て云わないで下さいよ。僕は幽霊なんですから、浮かんでいて当然なんです』
「いや、いやいやいや、そういう意味で君を見た訳じゃないんだ。マジで、そう思えたからさ」
『…そういや、そうですね。SF映画じゃ、無重力って設定されてません』


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連載小説 幽霊パッション 第三章 (第三十八回)

2012年02月16日 00時00分00秒 | #小説

 幽霊パッション 第三章  水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      
    
第三十八回
「ありがとうございます! 貴重なご意見、感謝致します。今日、教授を訪ねてよかったですよ」
「そうかあ? なら、いいがのう…」
 その後、しばらく世間話や佃(つくだ)教授のその後のことを訊(き)いたりして、上山は時を過ごした。教授の研究所を出ると、すでに昼間になっていた。上山はこの時、はじめて空腹に気づいた。外食は滅多としない上山だったが、この日は妙な具合に耐えられないほどの空腹感に苛(さいな)まれ、滑川(なめかわ)研究所近くの中華飯店へ駆け込んだ。急いで頼んだラーメンや餃子を食べると、やっと腹も満たされ落ちついた。すると、先ほどの滑川教授が云った言葉が上山の脳裏を過(よぎ)った。
━ ひとつ云えることは、小さいことから始めりゃ、苦情は出ないだろう、ってことだな… ━
 上山は、幽霊平林を店を出たら呼び出そうと思った。
 店を出た上山は、歩きながら左手首をグルリと回した。幽霊平林を呼び出す常套手段である。当然ともいえる早さでパッ! と幽霊平林は格好よく湧いて出た。
『どうでした? 教授は』
「ああ、上手い具合に、いいヒントを下さったよ。さすがは心霊学の権威者だけのことはあるな」
『ど、どんなことです? 早く聞かせて下さいよ』
 上山は歩きながら話し、その横を幽霊平林はスゥ~っと流れるように移動している。上山は、チラッ! と横を垣間見て、楽そうでいいなあ…と一瞬、思った。
「まあ、そう急(せ)かすなよ」
 上山が俯(うつむ)きながらボソッと漏らすと、もう元の駐車場へと来ていた。中華飯店が駐車場からそう遠くない距離にあった、ということもある。車が発進し、上山はハンドルを自宅へと切った。幽霊平林も車内でプカリと浮かびながら助手席で漂い、しばらくは両者とも無言だった。


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連載小説 幽霊パッション 第三章 (第三十七回)

2012年02月15日 00時00分00秒 | #小説

 幽霊パッション 第三章  水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      
    
第三十七回
「ほう…、何をされた? 実に興味深い話だ。どんな暗示かね?」
「いや、暗示というより、私の身に危険を及ぼした、と云った方がいいでしょう。分かりやすく云いますと、私をゴーステンの時よりさらに一歩、霊界の狭間(はざま)へ近づける暗示をしたのです」
「そりゃ君! 危険じゃないか。下手すりゃ、完璧に君は死んじまって霊界入りだな」
「はい、そうなんですよ」
 上山は、少し事の仔細が話せたので落ちついてきた。
「で、今日は、どういう用件で?」
「ええ、それなんですが、今云いましたように、私と平林君が活動危機になってるんですが、教授に何かいいアイデアはないかと、ご相談を…」
「ふ~む。しかし、命じたのは霊界のお偉方で、そうなるのを妨(さまた)げるというのも霊界のお偉方だというところが、今一つ、私には分からんのう」
「はあ、それは如意の筆のせいなんです」
「如意の筆? なんだね、そりゃ?」
「はい、幽霊の平林君が霊界番人さんから授かった霊験あらたかな筆なんです。荘厳な霊力を有し、願ったことは叶う、というもの凄い筆なんです」
「その筆のせいで、君達の活動が危機だと…」
「はい! 事情は先ほど話したとおりなんです。私もこの世に未練は、まだまだありますから、アチラへは…」
「だよな。ははは…」
 滑川(なめかわ)教授は呑気に、また笑った。そして、「いや、失敬!」と、すぐに謝った。
「どうでしょう。何か手立ては?」
「そうだな。ひとつ云えるのは、小さいことから始めりゃ、苦情は出ないだろう、ってことだな。武器輸出禁止条約だって、ニュース的に大きいと云やあ大きいが、直接、人類がどうこうなる、ってことでもない。もちろん、効果は絶大なんだろうがな。そういうやつを活動の軸にすりゃ、どうかね?」


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連載小説 幽霊パッション 第三章 (第三十六回)

2012年02月14日 00時00分00秒 | #小説

 幽霊パッション 第三章  水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      
    
第三十六回
「滑川(なめかわ)教授か…。そういや、ゴーステンのとき以来、お会いしてないな。そうしようか…」
 ようやく二人(一人と一霊)の話に結論が出て、この日は解散となった。
 上山が滑川教授の研究所を訪ねたのは、その二日後である。丁度、田丸工業が創業記念日でオフだったから、都合よく休めたのだが、教授にアポを取らず、直に訪れたから、果して教授がいるかどうかは不透明だったが、幸いにも教授は以前とちっとも変わらず存在していた。
「おおっ! 上山君か、久しいのう。なんだ! 何か急用かな? 電話もかけず、やって来るとは…」
 相変わらず薄汚れた研究所で、教授は霊動探知機の針に目を凝らしながら、そう云った。
「いやあ、急用じゃないんですが…。近況報告を兼(か)ねまして…」
 近況報告という訳でもなかったのだが、上山はお茶を濁してそう云った。
「どうだい、その後、幽霊君の調子は?」
「はあ、平林は変化なく幽霊のままです。私も変化なく彼が見えてます」
「なんだ! それじゃ、ちっともゴーステンの効果がないじゃないか!」
「いや、教授。それは違います。ゴーステンの霊磁波を受けたマヨネーズで、私は霊界との狭間へ迷い込んだんですよ。周りの人の姿は見えなくなるしで大変でした。あのう…、この話は、しましたっけ?」
「いや、どうだったかな。忘れちまったよ、ははは…」
 この日の教授は、どういう訳か頗(すこぶ)る機嫌がよかった。
「今、私と平林は、地球上で正義の味方活動をやっております。これも云いましたか?」
「んっ? さて、どうだったか。歳を取ると、忘れっぽくなっていかん。ははは…」
 滑川教授は、ふたたび豪快に笑った。
「その後は武器売却禁止条約を…。これも?」
「いや、聞いたかも知らんが、もういい! ごく最近の話だけ聞こう!」
「すみません。で、今は活動危機に陥ってるんですよ。というのも、私らの与える影響が余りに大きいので、霊界の方で私にストップをかける暗示をしたんです」


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連載小説 幽霊パッション 第三章 (第三十五回)

2012年02月13日 00時00分00秒 | #小説

 幽霊パッション 第三章  水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      
    
第三十五回
『長居は、すまい…。もうちと熟慮して事をなせ! ではのう…。数分後には、そなたの上司、元へ戻るであろうよ…』
 それだけを云い残すと、霊界番人の声は途絶えた。
「なんだって!?」
 上山にすれば気が気ではない。自分の身が危ういのだからそれも当然で、声もどことなく、か細く不安げだった。
『大丈夫です、課長。数分経てば、戻るとのことです』
 それを聞いて、上山はフゥ~っと安堵(あんど)の溜息を一つ吐いた。事実、そのとおり、上山の狭間異変は数分後に解かれ、元どおりの人間界へと移行した。上山にも戻ったことは、辺りの景観がカラフルなので分かった。
「やれやれ、だよ。うっかり、結論は出せんぞ、こりゃ」
 上山は、自分の声が霊界へ伝わってることに気づき、辺りをキョロキョロと見回しながら云った。
『そう神経質になることはないと思うんですが、軽々しく念じられないのは確かです』
「そうだな…。私と君の地球への影響力は、余りに大き過ぎるということか」
『はい…。まあ、この如意の筆を僕が持っているから、ということでしょう。これが、なければ、そう大したことは出来ないですよ、僕と課長は』
「…だな」
 上山は冷静になろうと腕組みした。当然、幽霊平林も追随する。このパターンは、二人の間で、いつの間にか定着していた。
「私と君とで出来た具体的成果は、武器売却禁止条約だけだな…」
『いや、課長。他にもアフリカ等の内乱、紛争をなくしましたよ』
「ああ、あったあった! 今となっては遠い昔か…」
 上山にしては珍しく、弱音をひとつ吐いた。
『そうだ! 一度、滑川(なめかわ)教授に会われれば? 何か、いいアイデアが浮かぶかも知れませんよ。それに、あれでどうして、教授は想定外のお話もされますから、参考になるかも、です』


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連載小説 幽霊パッション 第三章 (第三十四回)

2012年02月12日 00時00分00秒 | #小説

 幽霊パッション 第三章  水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      
    
第三十四回
「食糧増産は飢餓に喘(あえ)ぐ民族の救いにもなるしな。ただ、地球に生存する人間すべての発想をそうするとなると難しいぜ」
『衣食住は人類に不可欠ですが、今は食が弱ってる時代ですしね』
「そうそう…。有る地域にはあるが、無い地域にはない。総じて、足らんな。世界人口は増加の一途を辿(たど)っているが、食糧自給率は各国とも低下傾向だそうだからな」
『まあ、如意の筆の荘厳な霊力なら、この程度のことは容易(たやす)いでしょうが…』
「そうだったな。霊界のお偉方がお認めなんだろうから、大丈夫だろう。どれ、念じる内容を纏(まと)めるとしようか」
『はい…』
 二人(一人と一霊)は、世界の産業構造の発想転換を大命題において考え始めた。その時、急に激しい震動が起こり、上山は立ち上がった。
「おい! 真っ暗になったぞ!! 君!」
『えっ!! どうしたんです、課長!』
 上山の眼前は、いつやらと同じように暗闇に閉ざされていた。震動は、すぐ止まったが、辺りは灰色の、色彩が消えた世界に変化していた。
『霊界の意志が、また示されたようです…』
 幽霊平林の声も、少し震えていた。興奮のためか、青火も頭上に蒼白くポワ~っと灯り、漂い方も、いつもの穏やかさは失われていた。
『そのとおりじゃ! お前達の考えは軽はずみで、いかん。霊界司様も、いたくお嘆(なげ)きのご様子じゃったぞ』
『いつぞやと同じく、やめよと?』
『そうじゃ。人間界が乱れることを、のめのめと看過出来ぬと仰せでな。この儂(わし)にお命じになったのよ』
 この声は幽霊平林には聞こえていたが、この前と同様、上山には、まったく何も聞こえていなかった。


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連載小説 幽霊パッション 第三章 (第三十三回)

2012年02月11日 00時00分00秒 | #小説

 幽霊パッション 第三章  水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                       
    
第三十三回
「出来るだろうかね?」
『如意の筆の霊験なら、何の問題もないとは思うんですが…』
「ですが…とは?」
『ええ、念じ方が問題になると思うんですよ。詰めないと…』
「ああ、そりゃそうだな。少し考えようや」
 そういうと、腹が空いたのか、上山は立って厨房の方へ移動した。当然、幽霊平林も、あとを追う。
『地球語とかは、どうなんでしょう。世界が一つに結ばれますよ』
 幽霊平林が思いついたように唐突に云った。
「あっ! 地球語か…。いつやら、私の後輩の塩山も、そんなこと云ってたなあ」
『例のノーベル賞の?』
「ああ、元大臣で社長の後輩だ」
『課長は、それほどでも…なんですがねえ?』
「ははは…、やかましい! 大きなお世話だ」
 上山は大笑いしたが、すぐ、「しかしそれも、内容としては、いいかも知れんぞ…」と、加えた。
『じゃあ、地球語に的(まと)を絞りましょうか?』
「…、でもなあ。奴の真似っていうのも、どうかと思えるしなあ。奴に迷惑はかからんが、やめよう。私達はオリジナルを考えようや、オリジナルを!」
『はい…。僕は、それでいいんですけどね。コレッ! てのは、ありますかね?』
「世界の人々の発想を機械から自然へ戻す…ってのは、どうだろう?」
『産業構造を、ですか? 多次から一次産業に回帰すると?』
「ああ…。田丸工業は、さっぱりになるがな、ははは…。簡単に云やあ、文明からの脱却だわな」
『それだと、食糧増産とか地球環境回復にも繋(つな)がりますしねえ…。そりゃ、いい!』
「人類は文明進歩を一端、止めて、真摯(しんし)に地球と向き合う必要があると思う。これだけ文明が進歩すりゃ、そういう時代って、あっていいんじゃないか?」
『ええ…』


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連載小説 幽霊パッション 第三章 (第三十二回)

2012年02月10日 00時00分00秒 | #小説

 幽霊パッション 第三章  水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                       
    
第三十二回
「本格的に考えないと、私の身も危ういからなあ。実は、社長に会って、会社を辞めさせてくれと云ったんだよ」
『ええっ! それで?』
「結論から云やあ、慰留されて、撤回したんだがな…」
 上山は事の仔細を話した。
『まあ、よかったですよ、辞められずに。課長が辞めりゃ、なんか、僕の責任みたいになりますしねえ』
「そんなこたぁ~ないがな…。しかし、私が身の危険を感じないでも済むような、いい発想はないかなあ」
『僕と課長、割りと、いい線までいってるんですけどねえ』
「そうだよなあ~。武器売却禁止条約を世界各国に批准させたんだからなあ。並みの大統領や首相以上だよな」
『ええ、それだけでも充分、ヒーローだと思うんですよ、僕は』
「ああ…。私と君は多くを期待し過ぎたのかも知れん」
『そうです。地球環境とか独裁者とか云ってきましたからねえ。霊界のトップは、その辺りがカチン! ときたんですよ』
「余り調子に乗るな! ってか?」
『ええ、そんなとこだと思いますよ』
 二人(一人と一霊)は自己反省から、やり直しの発想を探っていた。
『課長! 環境と独裁者は一端、白紙にしましょうよ』
「いや、そらそうだよ。私も白紙で考えてるよ。なにせ、待った! が、かかったんだから」
『ですよね…』
 二人(一人と一霊)は、また意気消沈して黙り込んだ。
「そうだ! 世界中の難病撲滅ってのは、どうだろうな。これが出来りゃ、正に正義の味方だぜ」
『エイズ、癌、それにウイルスとかの病気ですか?』
「ああ、抗生物質が効かない結核とかもあるしな」
『まだまだ今の科学では治らない病気があるんですよね』


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