マスクについては、コロナ危機の初期には専門家の間でも予防効果を疑問視する意見が多かったが、最近では、トランプですら着用するほど、感染予防の効果が認められるようになった。しかし今でも、どう考えてもおかしいマスクについての認識がまかり通っているように見える。特に、日本では。
ニュースで見るマクロンもメルケルもジョンソンも、議会やメディアとの会話では、ほとんどマスクをしていない。相手と2メートル以上の距離があるからである。しかし、日本の政治家は相手との距離に関係なく、ほとんどの場合マスクをしている。これはマスクの意味はないのだが、日本の政治家は、「一生懸命コロナ対策をやってるポーズ」が大事なので、それを出すためにマスクを着用しているのである。日本では、政治家は実際に何もやっていなくとも、「やってる感」が支持率に影響するので、まあ、仕方がないとは言える。
しかし、街中の暑い最中に、ジョギング、犬の散歩、自転車乗り、人の少ない公園等、これらの場合でもマスクをしている人を見かける。彼らは政治家ではないので、「ポーズ」は必要ない。ジョギングは、対人距離を10メートルとらなければならないが、それ以外は、2メートル離れていれば、マスク着用の必要はない。これには、外出の際は必ずマスクをして出るので、途中で外すのが面倒、という理由が考えられる。
もっともな理由だと思われる。しかし、そこには隠れた理由がある。マスクはウイルスに汚染しているので、手で触りたくない、汚染しているものをポケットやカバンにじかにしまいたくないという心理である。
これには、明らかな理由がある。例えば、環境省の「ご家庭でのマスクの捨て方」に、「マスクを捨てる際は」「ごみに直接触れない」「ごみ袋はしっかりしばって封をする」そして 「ごみを捨てた後は手を洗うことに心がけましょう」と書いてあるからである。マスクにはウイルスが付着している可能性があるので、気をつけろという意味である。しかしこの文章には前段があって、「新型コロナウイルスなどの感染症に感染した方やその疑いのある方などがご家庭にいらっしゃる場合」ときちんと書いてある。どういうことかと言えば、マスクがウイルスに汚染されている可能性があるのは、家族に感染の疑いのある人がいる場合、つまり、マスクの着用者が感染している可能性があり、その時は、着用者がウイルスをマスクに大量に付着させているので、捨てる際はウイルスを拡散させるな、という意味である。それでも、ほとんどの人は前段を読まないか、忘れてしまう。だから、いつの場合もマスクは汚染されているかもしれないと、思い込むのである。
さらに誤解を生むのは、テレビに出てくる「専門家」がマスクの扱い方として、表にウイルスが付着しているので、表を触らず、表側を中にして捨てろなどと、意味不明のことを真顔で言うからである。
表側に多くのウイルスが付着している場合とは、感染者と極めて近くで会話等をした後が考えられるが、その時はウイルスが付着しているのはマスクだけではない。おでこにも、耳にも、目にも、髪にも、衣服にもほぼ全身に、既にウイルスを浴びているのである。マスクだけをどう捨てるかなどと言っている場合ではない。マスクはゴキブリホイホイでも、ウイルスホイホイでもないので、周りからウイルスを呼び込み吸着する機能はない。ウイルスを正面から浴びた場合、マスクだけが、ウイルスを吸い取る、そんな機能はない。ウイルスの感染が心配ならば、マスクを丁寧に捨て、衣服を脱いで洗濯し、頭から全身を洗わなければ意味はない。正面からウイルスを含む飛沫を浴びた時、最も可能性が高いのは、マスクを含む顔、髪、上半身の衣服へのウイルスの付着であり、それらに触った手で口と鼻を触らないことが重要だ。心配ならば、家に帰ってなるべく早く、全身を洗うことである。
環境省のマスクの捨て方で言っているのは、着用者が感染していれば、マスクの裏にも表にも大量のウイルスが付着していると考えられる、ということである。逆に言えば、着用者が感染している可能性がゼロに近い場合、マスクもマスク以外も汚染度は同じだ。マスクは、ウイルスホイホイではないのである。
ちなみに、マスクを数日間同じものを使用していると、危険性はある。自分の口からの雑菌が増殖することと、マスクに僅かながらのウイルスが付着している場合、それをずっと呼吸しているので、感染するほど吸い込む危険性である。