7月27日、菅官房長官は政府の「観光戦略実行推進会議」で「休暇を楽しみながらテレワークで働く『ワーケーション』の普及に取り組む」(NHK)などと言い出し、29日の記者会見で「国内観光を楽しんでもらう環境作りが重要だ」と強調した。つまり、観光業界が疲弊しているので、「ワーケーション」で利益を上げるよう政府が支援するということである。
1.ワーケーションとは
work とvacationを組み合わせた造語であるワーケーションは、2000年頃からアメリカで始まったものである。その背景には、アメリカは先進国で唯一、法律での有給休暇の規定がなく、有給取得率も日本よりも低く、先進国中最低の(エクスペディアジャパン「有給休暇の国際比較調査」)の国という事情がある。そこで、仕事もやるのだから休暇の申請もしやすくなるだろうという制度が導入されたのだ。確かに、仕事もするのだから、雇用する側はどうぞ、ということになる。当然、旅費も労働者の自腹である。手っ取り早く言えば、本来、有給休暇は自由なはずなのに、わざわざ仕事もついでにやります、ということである。そこに、いくらかの賃金は支払われるが、自由な時間と旅行の楽しい気分は犠牲にせざるを得ない。
日本でもJALが導入しているが、JALは旅行代理店も兼ねる航空会社であり、ワーケーションは旅行を促す一種の広告宣伝であり、一般企業とは異なる極めて特殊な企業なので、参考にすることはできない。
2.「つながらない権利」
フランスでは、2016年労働法典の改正があり、従業員50人以上の企業に「個人や家族の生活を守り、休息や休暇の時間を尊重するために、つながらない権利を労働者が完全に行使する方法及びデジタルツールの利用を規制する企業による措置」を話し合うことが義務づけられた(三田評論Online)。近年、労働者の勤務時間外に、デジタルツールでの会社とのやりとりが増えたためである。そこで、労働者の自由な時間に仕事を持ち込むことを禁止するという動きが現れたのである。この動きはヨーロッパを中心に、イタリアでも同様の法整備がされるなど、世界的にも広がりつつある。
3.ワーケーションは、労働者の自由時間への雇用主からの浸食
休暇中に賃金がまるまる支払わられ、かつ旅費も労働者の負担でなければ、それは労働時間である。だから、仕事をやれというのは問題はない。しかし、そうでなければ、休暇中は勤務時間外であり、労働者の自由な時間である。休暇中は上記の「個人や家族の生活を守り、休息や休暇の時間」なのである。そこに仕事を強要されないのは、労働者の根本的に正当な権利である。そのために、多くの国で「つながらない権利」が労働者に保障されつつあるのである。
つまり、菅官房長官は、世界の動きに真っ向から逆行することを提唱しているのである。