警察が自治体職員を伴い、「夜の街」飲食店の立入調査をすることが横行している。政府も、西村康稔経済再生相が27日の全国知事会とのテレビ会議で「あらゆる法令を駆使して(感染防止の)取り組みを進めていければと思う」と、風営法や食品衛生法 などを根拠に「夜の街」の飲食店に対し、「感染予防の徹底を促す」方針を表明した。
本来、風営法も食品衛生法もCovid-19とは無関係で、それぞれの法の趣旨は別なものである。日本共産党の小池晃書記局長 が「風営法上はコロナ対策実施の有無を取り締まる権限はない。警察が威嚇をして休業させるという、まるで犯罪者扱いするようなやり方は許されない」と批判 したが、日本共産党ならずとも、趣旨とは異なる法を根拠にした権力行使によって威圧することが批判されるのは当然のことだ。
「あらゆる法令を駆使して(感染予防に)取り組む」と言うと、さも政府は感染の拡大予防に努めているふうに聞こえるが、実態は逆である。むしろ政府は、「Go To」などによって、全国に感染の拡大リスクを高めているのである。単に、「夜の街」をスケープゴートにして、「対策を一生懸命やってる感」を宣伝し、政府に降り注ぐ批判の目を逸らすためである。
確かに、外国でも酒を主に提供する店には最も厳しい制限措置がとられている例はある。しかし、それはすべて、法令によってであり、感染リスクを説明した上での話であり、ほとんどの休業命令は、夜・昼にかかわらず、すべての飲食店に対し、命令されている。日本のように、「夜の街」だけを目の敵にしたものは稀である。では、なぜ「夜の街」だけが、ことさら標的されるのだろうか?
政府の持続化給付金も当初、性風俗店を対象から除外していた。そして「夜の街」である。
そこには、それらの従事者が、「普通の人」ではない、という意識が潜んでいる。「普通の人」ではない、といっても歴史的な意味を持つやといった差別問題とは異なる。ここで言う「普通の人」ではない人とは、いわゆる公序良俗の「善良なる風俗」に反しているのではないかというイメージを持たれる人びとのことである。実際に良俗に反しているかどうかとは別で、何となくいかがわしい、何となく怪しいということである。地域で言えば、新宿歌舞伎町という街のイメージがそれであり、実際に歌舞伎町で働く人びとが良俗に反するということではない。
2019年に、元通産省の上級技術官僚の経歴を持つ者が起こした交通死亡事故では、上級国民という言葉がネット上で出現した。上級があれば、中級も下級もあることになる。その言い方にならえば、「普通の人」ではない、かつ上級ではない、ということは下級国民ということなる。勿論、上級国民と言ったのは、法の下の平等がなされていないのではないか、という批判を込めたものである。それと同様に、国民を格付けすれば以下のようになるだろう。
上級国民=高級官僚、与党政治家、大企業役員またはそれに準ずる地位にある者
中級国民=普通の人びと
下級国民=上記の怪しい人びと
非国民 =お上にたてつく不逞のやから。即ち、ネトウヨが「反日」と定義する人びと
「夜の街」の下級国民だけを標的にすることが、どのように働くかというと、「普通の人」だと思っている多くの人たちは、自分たちとは異なる人たちが標的とされているので、痛みを感じづらいということになる。何となくおかしいと思ったとしても、他人ごとである。また、そういう人たちのせいで、感染が拡大していると宣伝されれば、そうかもしれないと思い込みやすい。政府がそこまで計算しているかどうかは分からないが、「夜の街」を標的にしたところで、感染は一般の人びとの間で既に広がっているので、感染拡大を止めることにはならないのは、残念ながら確かである。