古今亭志ん朝の落語の枕で、飲食店(実際の話では、廓だが)で一番いい客は、飲み食いで気前よく大金を使う客かと思いきや、そうではない、というのがある。その上のもっといい客は、「来ず」だというのだ。どういうことかというと、「忙しくて行けなくて、悪いね」と、お供の者にお金を届けさせるという客が一番だというのだ。「来ず」だが、金だけは出す、ということである。
この話の真偽は分からない。だがしかし、一番いい客は、「来ず」だというのは、現在のコロナ危機でも当てはまる。
みんなが店に行けば感染のリスクは増大する。行かなければ、リスクはゼロである。行かないで、お金だけは届ける。つまり、飲食店に対する直接支援をすればいいのである。そしてこれは、実際に行われている。例えば、未来の食事券を先に購入するなどの支援である。確かに、国もいくらかは直接支援する救済金などの支給をしている。しかし、大規模に行っているのは、GoToキャンペーンの方である。人の動きを活発にするGoToは、一時しのぎの収入をもたらすが、客が来ない原因である感染の拡大を招く。それが、今の現状である。
GoToは、例えれば、病人が病気が治っていないのに、カネがないから働きに行けというのに等しい。働きに行けば、病気は悪化する。そうなると、まったく働けないので、さらにカネはなくなる。病気の時の第一の選択肢は治療に専念することである。そうしなければ、さらに困難な状況になるだけである。
飲食店のみならず、経済の回復を阻むのは、感染の拡大である。経済回復のためにやるべき第一の選択肢は感染を押さえ込むことである。しかし、国は、感染の拡大を呼び込むGoToという本末転倒策を実施している。それによって、経済回復はかえって遅くなる。堂々巡りの悪循環に陥るだけである。
飲食店や旅行業界への支援は、「来ず」に徹するべきなのだ。国は、GoToの予算を、困窮者への直接支援や医療、PCR検査の拡充に使うべきなのである。