夏原 想の少数異見 ーすべてを疑えー

混迷する世界で「真実はこの一点にあるとまでは断定できないが、おぼろげながらこの辺にありそうだ」を自分自身の言葉で追求する

「ウクライナの反転攻勢は進展せず。戦争は長期化」は西側の共通認識となった

2023-09-30 11:00:07 | 社会
西側メディアの報道 
 ウクライナ政府高官は「ウクライナ軍は領土を奪還している」と公言し続けているが、その言葉とは裏腹に、多くの西側メディアはウクライナの反転攻勢が遅々として進まず、領土を奪還していないことを認め始めている。日本のマスメディアは、国際関係には「周回遅れ」の記事しか報道しないが、2月19日に英国BBCは、客観的な情報から反転攻勢は進んでいないと報じ、9月28日には、ニューヨークタイムズが同様の記事を配信した。
 ニューヨークタイムズは、9月28日に「今年、誰が領土を得たのか? 誰でない」と上記の記事を載せた。記事は「両軍とも野心的な攻撃を開始しているが、前線はほとんど動いていない。18か月にわたる戦争を経て、突破口はこれまで以上に困難になりそうだ。」と言う。


 この中で、ロシア・ウクライナ双方が獲得した領土を表す図を載せているが、これを見ると、今年の6月からのウクライナ反転攻勢以降、双方とも獲得した領土面積はほとんど変化が見られないことが、一目瞭然で分かる。1月以降で見れば、ウクライナは143平方マイルを得たが、ロシアは331平方マイルを得ており、むしろロシア側が支配した面積の方が大きいのである。といっても、その大きさの規模は小さく、せいぜいニューヨーク市の面積程度だというのである。そして記事は、次のような文を載せている。
「キングス・カレッジ・ロンドンの戦争研究の博士研究員マリーナ・ミロン氏によると、ロシア軍は急速な利益を求めるよりも、すでに支配している領土を維持することに満足しているようだ。」
「戦場ではロシア軍の兵力はウクライナ軍のほぼ3対1を上回り、より多くの人口を補充することでロシアは防衛の長期化が自国の利益にかなうと考える可能性がある。」
「ウクライナにおける全体的な戦略は、ロシア人がウクライナ人をこれらの防御に逆らわせ、できるだけ多くの人を殺し、できるだけ多くの西側の装備を破壊することだ、と彼女は付け加えた。」
 この文面を読めば分かるが、ロシア側は、ウクライナ軍がある程度の西側最新鋭兵器を伴って攻撃しているが、それは織り込み済みで、それに備えて防御を固め、攻撃してくるウクライナ兵を撃破するという戦い方をしているのである。そしてそれは、BBCの報道内容とも合致している。そしてこのことは、ジョン・ミアシャイマーが言うように、ウクライナ兵の消耗率(戦死、損傷率)の方が、ロシア側よりも高いことを示唆している。単純化すれば、攻撃してくるウクライナ兵を、ロシア軍は待ち構えて殺せばいいからである。現在の消耗戦は、ロシア側に有利に動いているのである。それだからこそロシア側は、いくらかの余裕を持ち、ラブロフ外相は9月23日にゼレンスキー大統領が提唱する「10項目の和平案」について「完全に実現不可能だ」と拒否したのだ。 
 
 9月23日の英国エコノミスト誌は、次のような記事を載せている。
 「再考の時。ウクライナは長期にわたる戦争に直面している。コース変更が必要。速やかな勝利を祈るが、長期にわたる闘争を計画すべき」というものだ。要するに、ウクライナが短期に勝利することはあり得ず、西側支援国は、
「ウクライナが長期にわたる戦争を遂行するための持続力を確保 」するために、さらなる強力兵器の供給などの軍事支援と経済再建のための多額の財政支援を継続して行うべきだ、ということである。

「戦争は長期化」は西側の共通認識
 しかしこのウクライナ戦争が長期化するという見方は、もはや西側の共通認識と言っていい。 9月19日、ロイターは「主要7カ国(G7)はロシアがウクライナ戦争の長期化を想定しており、ウクライナへの持続的な軍事的・経済的支援が必要なことを認識していると、米高官が19日、G7外相会合後に述べた。 」という記事を配信している。そしてこのことは、西側が大量の最新兵器をウクライナに供与しても、1,2年でロシア軍を排除できるとは考えていないということも意味している。
 当然、この「長期化」は、西側のウクライナへの軍事・経済支援も長期化することを意味している。既にNATOは、これまで軍事費をGDP比率2%を上限目安としていたのを、それを超える軍事費支出を各国で目指している。ウクライナへこれまでとは比較にならないほど大量に兵器・弾薬・砲弾を送らなければならないし、軍事力には軍事力で対抗するという方向に向かい、自国の軍事力をも強化しなければならないからだ。これには、バイデンの言う「民主主義対権威主義」の闘いから、中国に対する予防的軍事力強化も求められ、際限のない軍事力強化に進みざるを得ない。

「懸念は、支援疲れ」
 この戦争の長期化とは、5年なのか10年なのかは分からないが、それまで西側が結束してウクライナ支援を継続できるのかは疑わしい。上記のエコノミスト誌の記事も、既に起き始めているNATO諸国の「支援疲れ」を念頭に書かれていると思われる。2024年のアメリカ大統領選で共和党が勝てば、アメリカの支援は減ることはあっても増えることはない。また、今までの軍事支援積極派のポーランドやスロバキアでは、軍事支援を停止する動きも出ている。エコノミスト誌は、そのような「懸念」を払拭し、西側を鼓舞する目的もあって書かれていると思われる。
 だがしかし、土台、そのような戦争「支援」は極めて困難なのである。原料値上げ、食料不足に見舞われているグローバルサウスは、もとより西側に同調していないし、西側社会自体も特にインフレで多くの生活困難者が出ているなど、経済の弱体化に見舞われている。そこに、膨大な額の軍事費支出が加われば、政治的混乱は避けられない。
 経済もBRICSに抜かれつつある西側の「地盤沈下」が、このまま行けば、さらなる深みに嵌っていくのは、もはや避けようがない。
 
ウクライナ人とロシア人の大量死だけは確実
 しかし、西側メディアは、さまざまな情報を流しているが、そこでは決して触れられないことがある。ウクライナ人と強制的に徴兵されるロシア人が被る死と傷である。「いつ終わるかわからない戦争のために、また、本当に勝つかどうかも分からない戦争のために、ウクライナ人やロシア人が何人死ねばいいのか、何人傷つけばいいのか?」ということである。
 現在行われている消耗戦は、双方の大量の死傷者に、精神的、物理的に持ちこたえられるかどうかも大きな問題である。
 ウクライナもロシアも死傷者は公表しないが、堅固なロシアの防衛線突破を目論むウクライナ側の方が死傷者が多いのは、容易に想像できる。そもそも、戦地はウクライナ領土であり、破壊と殺傷はウクライナで行われているのである。そして、人口はウクライナの方が少ないのであり、同胞の死傷はロシア側より身近に感じられる。例え、ウクライナ側にロシアに対する憎悪がどんな大きくても、ロシアとの戦い拒否は「非国民」の扱いを受けようとも、恐らくはウクライナの方が先に忍耐の限度を超えるだろう。ウクライナの悲劇は、「支援疲れ」の西側どころではないからである。
 

 

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