本書は、月刊誌『創』2005年7月号から2010年4・5月号までに連載されたものが収録されている。内容は「極めて私的なメディア時評」(6頁)である。
テレビなどのメディア関係者の心持ちとして、「人を傷つけないのではなく人を傷つける覚悟。開き直れという意味では決してなく、その覚悟をまずは」することが必要であるという(107頁)。誰も傷つけずに済めば一番よいが、例えば、死刑制度や原発に関する論争などでは、そうはいかない。でも、互いに利益や信念が関係しているので、それでもそうしなければならない状況があるのが現実である。
森さんは、あとがきで、「メディアはこの社会を、より理想に近い形にするために、大きな役割を果たす」ことができなければ、日本はメディアによって滅亡するという。そうならないようにするには、わたしたちがそうならないようにするしかないという(284頁)。あくまでも、メディアは道具であって、主体ではないが、私たちがそれを使いこなせなければ、主客が逆転するような状態が発生するかもしれない。