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汝、転ぶなかれ! 【新連載】岩崎邦子の「日々悠々」①

2018-09-20 17:08:45 | 【連載エッセー】岩崎邦子の「日々悠々」

【新連載】岩崎邦子の「日々悠々」①

汝、転ぶなかれ!  

          

 出かけるとき、「行ってきます」と私が言う。すると夫は「転ぶなよ!」と返す。これが最近の我が家の会話である。以前は出かける私に向かって、夫はいつも「走るなよ~」という言葉で送り出したものだ。というのも、私がせっかちだからである。でも、なぜ「走るなよ~」から「転ぶなよ!」に変わったのか。

 2カ月ほど前のことだ。午前中、船橋に用があって出かけた。午後にはコーラスの練習があるので、用事を済ませて帰りを急ぐ。駅に着いた。電車の発車時間にはなんとか間に合いそうだ。改札を過ぎると、荷物を抱えながらも、ついつい急ぎ足に。案の定、体はどんどん前に行くのだが、足元が付いていかない。

(あああ~! 転ぶぅ~)

 と思った途端、ドデ~ンと見事に転んでしまった。

 みぞおちをしこたま打ったらしく、痛さで「うっ、ううん~」と唸るような声が出てしまう。恥ずかしいのに、しばらく起き上がることもできない。大半の人がそ知らぬ顔で通り過ぎたが、50代とおぼしき女性が「救急車、呼びましょうか?」と声を。有難かったが、大袈裟になりそうなので、「いえ、結構です!」と丁重に断った。

 転んでも荷物をしっかり持っていたことに気づく。それに手も足も顔もどこも怪我はしていない。起き上がって、ゆるゆると歩き、エスカレーターに乗り、ホームに向かった。ふと振り返ると、先ほどの女性が心配そうに私の後ろから付いてきているではないか。「すみませんでした。ありがとうございます」と再び礼を言うと、黙って会釈を返された。いい人だ。

 乗る予定の電車に間に合わなかったものの、次の電車に乗り込んで予定通りコーラスの練習に。みぞおちは痛かった。でも、歌うのに支障はなかったので、ひとまずホッとした。家に帰っても痛みはとれなかったが、医者に行くほどでもないと判断。ただ、転んだことを夫に言うべきか、と迷いに迷う。結局、「駅で転んじゃった」と軽く言ってみた。すると夫に「走るからだ!」と一喝された。さすが長年連れ添った夫である。私のせっかちな行動をよくご存じだ。

 先日、関東地域に住む故郷の同級生たちと1泊のバス旅に出かけた。家を出るとき、私は元気よく「行ってきます!」と夫に声をかけたが、そのときの返事も「転ぶなよ!」である。旅先での友人たちとの会話だが、お互いに年齢を重ねての失敗談などに花が咲き、楽しいものだ。ちなみに他人の成功談なんて、面白くも可笑しくもない。誰が聞くものですか! 

 さて、元気なつもりの仲間なのに、「もう齢だから」と「いや、まだまだよ」の気持ちが複雑に行き来しているようだ。私の駅での体験談を話すと、みんなも同じような経験があるらしく、しきりにうなずく。そんなわけで、「やっぱり転ばないことが大切ね」と一同の意見が珍しく一致した。

 

【岩崎邦子さんのプロフィール】昭和15(1940)年6月29日、岐阜県大垣市生まれ。県立大垣南高校卒業後、名古屋市でОL生活。2年後、叔父の会社に就職するため上京する。23歳のときに今のご主人と結婚し、1男1女をもうけた。有吉佐和子、田辺聖子、佐藤愛子など女流作家のファン。現在、白井市南山で夫と2人暮らし。

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