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ジョークでビジネスを円滑に 【連載】藤原雄介のちょっと寄り道(54)

2024-05-25 04:45:34 | 【連載】藤原雄介のちょっと寄り道

【連載】藤原雄介のちょっと寄り道(54)

ジョークでビジネスを円滑に

呉(日本)、カンヌ(フランス)

 


 今回は国と文化によって違う冗談と小咄について書いてみたい。英語では「ジョーク」、ロシア語では「アネクドート」、スペイン語では「チステ」、イタリア語では「バルゼレッタ」、中国語では「笑話(シャオホワ)」と言う。

 日本には昔から数多くの素晴らしい笑い話があるのだが、日常会話の中ではオヤジギャグのような駄洒落や言葉遊びは飛び交うものの、ストーリー性のある笑い話を披露し合う習慣がないのは何故だろう? 

 まずは私の体験談を披露したい。1977年のことだ。呉の工場で建造中だった浮体式パルププラントと発電プラントの品質検査のため来日した米国とブラジルの検査官達をアテンド(同行してお世話すること)する機会があった。
 このプラント工事は「U Project」と呼ばれ、巨大な浮体(バージ)の上にプラントを搭載してアマゾンまで曳航し、浮体ごと設置して稼働させるという世界でも初めての画期的なプロジェクトである。今ならNHKの「新プロジェクトX」に取り上げられてもおかしくはないだろう。

▲アマゾン川を曳航される浮体式パルププラント

 

 来日した検査官の多くは夫人を帯同していたので、入社2年目の私が、ご夫人方の案内を仰せつかることになったのだが……そこで予期せぬ出来事が起きたのである。それも笑い話になるような出来事が。一体何が起こったのか。 

「あの、トイレに行きたいんですが…」
 パルププラントを建造しているドックに差し掛かったとき、夫人の一人がモジモジと言った。
「あ、分かりました。ちょっと待ってくださいね」
 私は、そう言って案内してくれていた総務課の人にトイレの場所を尋ねた。
「エーッと…困りましたね…ここには男性用トイレしかないんですよ…」
 彼は、申し訳なさそうに呟いた。
 仕方がないので、一番近くのトイレに案内したのだが、当時、製造現場のトイレは奥の壁に向かって座る形の和式便器だった。便器は、膝ほどの高さの壇上に設置されている。

 しばらくすると、「キャー!」という悲鳴が聞こえた。「キャー!」に続いて、作業員のうわずった声が響いた。「サ、サンキュー、ベリーマッチ!」そして、荒々しくドアを閉める音…。一体何が起こったのか。
 現場の作業員の一人が、トイレに駆け込もうと勢いよくドアを開けると、目の前に白人女性の巨大なお尻があった。その夫人も驚いただろうが、ドアを開けた作業員の驚きも察してあまりある。

「サンキュー」、それは彼が唯一知っている英語だった。普通、一生遭遇することはないであろう光景に出くわしたのだから「ソーリー」より、「サンキュー」の方が気の利いた言葉選びだったかも知れない。不謹慎にも私は、笑いをこらえながら、そんなことを考えていた。幸いにして、この「事件」は大事には至らず、呉工場の伝説として語り継がれている。

 海外との仕事に不慣れな人が多かった昔、英語に係わる失敗談や冗談が沢山残されていた。酒の場でよく聞いた与太話を紹介しよう。

「いちゃもんをつけてくる相手を黙らせるのに『四の五の言うな』と言いたいときは‘Don’t say four or five!’だ」「図に乗って、高飛車に攻めてくる相手には、'Don’t stand on the drawings!’で決まりだ」「おととい来やがれ!は、'Come back the day before yesterday!’」
 今なら、三流漫才師のネタにもならないような話だが、不思議なことにスマホもグーグルもなかった昔は、こんなつまらない話で結構盛り上がったものである

 最近、「会社で電話の受話器を取るのが怖い」と訴える若い社員が多いそうだ。昔は、英語でかかってきた電話に対応する秘技というのがまことしやかにささやかれていた。
 それは、「‘Wrong number!(番号違いです)'」と言って速やかに受話器を置く、というものだ。

 初めて海外に赴任する駐在員からアドバイスを求められた時に必ず伝える事が二つある。一つは、その国の歴史と文化を勉強すること、そして二つ目は、笑い話の鉄板ネタを最低3個は用意しておく、ということだ。
 英語が苦手でも、笑い話を暗記しておけば、スラスラとしゃべることができ、「何も話題のないつまらない日本人」と思われなくて済む。
 食事や雑談中に会話がふと途切れた時に、「ところで、こんな話、知ってる?」とやれば、自然に相手との距離を詰めることができるだろう。
 
 私の鉄板ネタの一つは、スペインの闘牛に関するモノだ。ただ、これは少々下品なので、親密な相手と酒が十分回った時にしか言えない。そのネタとは――

 アメリカ人の観光客が、闘牛で有名なスペインの田舎町のレストランに入って、ウエイターに訊いた。
「何かウマイものが食べたいんだけど、この店のスペシャルメニューは何?」
「セニョール、それなら、なんと言っても、牛のコホネス(○○玉、睾丸)ですよ」
「エーッ、睾丸? それ、美味しいの?」
「セニョール、最高ですよ。今日は、昨日の闘牛で仕留められた牛の新鮮なヤツがあるんです」
 男は、運ばれてきた大きな丸い物体をナイフで一口サイズに切り取り、恐る恐
る口に運んだ。
「ウ、ウマイ!」
 彼は、コホネスを残さず平らげた。
 その味が忘れられず、次の日も同じレストランに足を運んだ。
「今日も、コホネスをくれ」
 ウエイターは、にこやかに「シー、セニョール」と言って、引き下がった。しばらくして小さな玉が2つ乗った皿を持って来た。
「どうしたの、今日のコホネスはどうしてこんなに小さいんだ?」
 アメリカ人が尋ねた。
「セニョール、いつも闘牛士が勝つとは限りませんので…」
 
 笑い話ではないが、フランスのカンヌで開かれた「日米欧物流三極会議」に出席した時のエピソードを紹介しょう。会議の前夜祭のカクテルパーティーで、主催者の一人(名前を覚えていないので、ミシェルと呼ぼう)と雑談中に何故か天国(極楽)と地獄の話になった。
 そこで、たまたま聞きかじっていた仏教の「三尺三寸箸」の逸話を披露した。ご存じの方も沢山いるだろうが、概略次のような話だ。

「天国でも地獄でも同じ食事が供される。しかし、天国の人たちは、満ち足りて健康そうなのに、地獄では皆、険悪な表情でガリガリに痩せ細っている。何故か? 天国でも地獄でも、食事をするには三尺三寸箸(1メートルの長さの箸)を使わなければならないのだが、天国では、長い箸で食べ物を挟むと向かいの人に食べさせてあげる。今度は、相手が『あなたは、何がお好き?』とお返しする。ところが、地獄の住人達は、長い箸でごちそうを自分の口に運ぼうとするが、とても届かない。更には、隣の人の料理を奪おうとしさえする。こうして彼らは飢えていく」
 私は、続けて言った。
「どうですか、この話。日米欧で協力し合えば、天国の住人達のように、素晴らしいビジネス関係を築けると思いませんか?」
 日本語では、なかなか言えない気障な台詞だが、英語でならシレっと言えるのが不思議だ。

▲カンヌの日米欧物流三極会議に出席した筆者はどこにいるでしょう?

 

 私の話を聞いていたカトリック教徒のミシェルはいたく感動したようである。
「この話、是非、今回の会議のクロージングの席上で披露してくれませんか?」
 幸い、スピーチは大受けして、何人もから握手を求められた。自慢話のようで恐縮だが、ストーリーを語ることの大切さを語りたかった。
 今回は時間切れになってしまった。次回は、他の国のジョークについてお話したい。(つづく)

 

             

  

【藤原雄介(ふじわら ゆうすけ)さんのプロフィール】
 昭和27(1952)年、大阪生まれ。大阪府立春日丘高校から京都外国語大学外国語学部イスパニア語学科に入学する。大学時代は探検部に所属するが、1年間休学してシベリア鉄道で渡欧。スペインのマドリード・コンプルテンセ大学で学びながら、休み中にバックパッカーとして欧州各国やモロッコ等をヒッチハイクする。大学卒業後の昭和51(1976)年、石川島播磨重工業株式会社(現IHI)に入社、一貫して海外営業・戦略畑を歩む。入社3年目に日墨政府交換留学制度でメキシコのプエブラ州立大学に1年間留学。その後、オランダ・アムステルダム、台北に駐在し、中国室長、IHI (HK) LTD.社長、海外営業戦略部長などを経て、IHIヨーロッパ(IHI Europe Ltd.) 社長としてロンドンに4年間駐在した。定年退職後、IHI環境エンジニアリング株式会社社長補佐としてバイオリアクターなどの東南アジア事業展開に従事。その後、新潟トランシス株式会社で香港国際空港の無人旅客搬送システム拡張工事のプロジェクトコーディネーターを務め、令和元(2019)年9月に同社を退職した。その間、公私合わせて58カ国を訪問。現在、白井市南山に在住し、環境保全団体グリーンレンジャー会長として活動する傍ら英語翻訳業を営む。


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