【連載エッセー】岩崎邦子の「日々悠々」㊳
「歩こう会」からお誘いのメールが届いた。この会のことは以前にも書いたことがあるが、もう10年程前に通っていた生涯大学の同クラスだった仲間で作っているウォーキングの会である。今回の行先は「八国山緑地公園と北山公園の菖蒲まつり」だ。行先の殆どを考えてくれるリーダーの人がいるので、日程さえ都合がつけば喜んで参加している。それにしても、「一体どこ?」である。
武蔵野線の新秋津駅に午前9時49分に到着し、そこで12人全員が集まった。10時発の池袋線で秋津へ。秋津で西武池袋線に乗り換えて所沢に、そして西部新宿線で最寄りの東村山駅と1駅ずつを乗り継ぎ、リーダーに案内されてたどり着いた。駅周辺にはシャトルタクシーが待機していたが、もちろんウォーキングの仲間であるので、私たちは駅からは住宅街を歩き、八国山緑地に向かう。
途中で「ふるさと歴史館」に立ち寄る。板碑や小さな地蔵などを見たが、後で行くことにもなる正福寺地蔵堂の下勉強にもなるということだった。八国山は埼玉県所沢市に接する東京都東村山市にある緑地で、東京都立公園となっている。かつては、上野・下野・常陸・安房・相模・駿河・信濃・甲斐の八つの国を望むことが出来たことに由来するそうだ。山と言えないほどで標高も低く、頂上地点もない。
緑地内をしばらく歩き住宅街を見下ろすが、その中に病院が見えた。宮崎駿のアニメ映画「となりのトトロ」に登場するのは七国山となっているが、主人公のサツキとメイの母が入院している病院のモデルとなった「新山手病院」である。ちなみにトトロのふるさと基金では、ナショナル・トラスト活動(市民や企業から寄付を募って、美しい自然や歴史的建造物の買い取り、将来に引き継いでいく運動)を始めている。トトロの森・狭山丘陵を守るためには、長い時間とお金がかかるからだ。
園内は武蔵野の面影が残り、クヌギやコナラなどの雑木林や原っぱとなっている。散策すると、かなり汗ばむ。でも、日差しは強くはなく、吹く風も気持ちが良い。ひだまり広場に辿り着くと、よく管理されているのか、目立った雑草はなく、ベンチもある。持参したお弁当を広げるには絶好の場であった。
八国山緑地の南側を東村山駅から西武園駅をつなぐ、西武園線の電車が走っており、そこに隣接して北山公園(菖蒲苑)がある。緑地から踏切を渡って線路沿いを歩いて公園へ行くと、菖蒲まつりが開催されている。家族連れの人や、私たちと同年配の人たち、中には若いカップルも、菖蒲の花を愛でながら散策している。まだ蕾のものもあるが、紫・薄紫・ピンク・白・黄色の花と色合いも豊富だ。
ところで、「菖蒲とあやめ」は花の形や色合いが似ているが、違いはどこなのか。それは、群生している所である程度区別される。まず「あやめ」は草原などに生えていて、乾いた場所に見られ、「菖蒲」は観賞用に植えられており、湿地に育つ。近在では水元公園や堀切菖蒲園が有名である。
「菖蒲」の花には網目の模様が無く、葉の中心が表に1本、裏に2本ある。「あやめ」は花に網目の模様があり、葉の中心が目立たない。やはり似た花の「かきつばた」は、湿地や水中に育ち、花の中央に白色があり、網目模様はなく、葉の中心も目立たない。また「アイリス」と言われているが、あやめ科の大ぶりの花を、畑で見かけたりもする。
北山公園の園内では、水田を小さくしたように仕切られており、菖蒲が植えられている。花を愛でるための歩道があって、カメラやスマホで花の写真を撮る人たちが行き来している。それぞれに花には「江戸系」「伊勢系」「肥後系」等々の名前が付けられていて、その種類の多いことにも驚く。より優秀な品種だとか、斑入りや美しさや、新種へのこだわりなのかな、などと素人考えをする。
次いで訪れたのは、東京都唯一の国宝寺院の「正福寺地蔵堂」である。所在地は東村山市にあり、臨済宗建長寺派の禅宗寺院で、菖蒲苑の賑わいとは打って変わって静かな敷地内にある。きれいに掃き清められた庭の向こうに、木造の正福寺の屋根のそりが美しく目を引く。ボランティアの人がいて、寺院の説明をしてくれた。室町時代(1407年)の建立とされており、同時代の建築である鎌倉の円覚寺舎利殿と規模・形式が似ている。堂内には地蔵菩薩像や、たくさんの地蔵菩薩の小像が安置されているという。地元では正福寺千体地蔵堂と呼んでいる。
寺院内には入ることが出来ないことで、前もって博物館で小地蔵や板碑を見学しておいたことで、内部の想像が少し出来た。本尊は千手千眼観音。文化財は地蔵堂(国宝)板碑(市文化財)である。幾度となく火災などで危機的な状況に曝されてきたが、屋根の葺き替えもされたりして、今も建立当時の姿を伝えている。
現地までの時間や電車賃、極力歩くことでの疲労、細かいことを言えば切りがなく、高齢の身となれば、つい億劫になってしまうことになる。今回は乗り換えを何回もしながらの行程であったが、身勝手な行動や落ちこぼれる人もいなかった。出会えることに感謝し同行してくれる仲間がいることは幸せだ。元気に歩き、おしゃべりを楽しみ、菖蒲を愛で、少し勉強も出来た。さて、次回はどこへ行くのか、今から楽しみである。