皆さんこんにちは。今日は暖かい日になりましたね!
今回は、Fostexの16cmフルレンジ「FE168SS-HP」を使ったS-076の試聴と測定について書こうと思います。
また、後半では空気室容量の差について説明します。
S-076の概要
FE168SS-HPを使ったバックロードホーン「S-076」のパラメーターは下記のようになっています。
・空気室容量 約4.8L (fx=約190Hz) ※ユニットの容量(1.0L)を除いた値
・スロート断面積 90cm2 (振動板面積の80%)
・ホーン広がり率 m=0.8
・ホーン長さ 1.7m
(設計の詳細は、こちら)
今回は、このバックロードホーンを測定し、特性グラフを見ながら解説をしていこうと思います。
正面1m特性
まずは、正面1mの特性です。
通常ですと、「ユニット軸上1m」の特性を測るのですが、このS-076は後面下部にホーン開口部があるため低音音圧が想定より小さく出てしまう問題がありました。(図中、青線)
そこで、1mの距離を確保しつつ、マイク高さを下げることでホーンとの距離を調整して、聴感特性に近い結果がでる位置で測定をしました。(図中、赤線)
周波数特性を見ると、70Hzから15kHzまで整った帯域バランスが得られていることが分かります。
聴感上では、60Hz以下までしっかり出ており、小型の16cmバックロードとしては上出来の値です。
再生周波数レンジだけでいえば、小型ブックシェルフ型スピーカーにも及ばないかもしれませんが、バックロードホーンならではの瞬発力は大きな魅力です。低音から高音域まで、一切のリミッターを感じない音が飛び出してくるのはとても気持ちいいものです。
特に、16cmフルレンジFE168SS-HPのf0は54Hzで、それ以上の周波数帯域で再生しているのも、好印象に貢献しているでしょう。10cmフルレンジで無理に伸ばした低音とは、明らかに馬力感が異なります。
こうした音の傾向は、ベースギターの音色感や動きを克明に描く気持ちよさにつながります。普通のスピーカーでは籠った音色(下手すれば旋律が聴こえない状態)になりやすいベースギターを、明快に聴かせてくれるのは快感そのものです。
弦楽器やボーカルも、キツい音にならないのはFE168SS-HPならではの良さかもしれません。一昔前のフルレンジと比べ、かなりコントロールされた中高域になっている印象を受けます。
限定ユニットのFE168SS-HPですが、実際に聴いてみたところ扱いやすさが全面に出てくる音で安心しました。予算が許すのならば、初心者でも迷わず選んでよいと思います。
ホーンの動作を考える
さて、それでは個々の特性を確認し、ホーンの動作が上手くいっているかを考察してみます。
<ホーン開口部>
<ユニット直前>
ホーン開口部の特性を見ると、50Hz~500Hzの幅広い帯域で音圧が出ていることが分かります。500Hz以上が綺麗にカットできているのは、複雑に折り返した音道のお蔭でしょう。(吸音材は、一カ所だけ薄く入れています。)
ユニット直前特性を見ると、45Hz、110Hz、180Hzに大きなディップがあり、それぞれホーン共鳴の基音、2倍音、3倍音に相当しています。この周波数ではホーンが共鳴しており、振動板の空振りが抑えられています。
この共鳴音の実測から、ホーンの音道長を求めると 340(m/s)÷45(Hz)÷4=1.89mになります。前回の日記で図面から求めた音道長1.7~1.8より少し長い結果になりました。これは、ホーン末端の開口端補正による効果かもしれません。
インピーダンス特性でも、同様の周波数に大きなディップを確認することができました。まずは、想定通りのホーンとして動作していると思って間違いなさそうです。
空気室容量の変更
先ほどは、容量4.8Lの「空気室(中)」を装着しての測定でした。
バックロードホーンの空気室容量を変えた時、どのような変化があるかは確認をしておきたいところです。
ここでは、以下2種類の空気室を比較しました。
「空気室(小)」
・空気室容量 約3.8L (fx=約240Hz) ※ユニットの容量(1.0L)を除いた値
「空気室(大)」
・空気室容量 約6.2L (fx=約145Hz) ※ユニットの容量(1.0L)を除いた値
(用意した3種類の空気室)
正面1m特性の比較
まずは、正面1mでの測定です。マイク位置は、先ほどと同じ床から60cmです。
「空気室(小)」↓
「空気室(大)」↓
測定結果ではほとんど差が分かりませんが、聴感では大きな差がありました。
まず、空気室(小)はかなりナローレンジに聴こえました。特に、高音域が抑制された感じで、それ単独で聴いてしまうと「フルレンジだから仕方ないかな?」と思ってしまいますが、ユニットの描写力が中低域の厚みに隠れて聞こえにくくなっているような感じです。
その逆に、空気室(大)はワイドレンジ。低域から高域まで屈託なく撒き散らす感じです。
低域のドスンという感じもハッキリと感じることができ、ホーン内部の空気が自由に動いているような感じを受けました。その一方で、中低域の解像度は若干下がるかな?という感じもあり、空気室によりユニットとホーンの結合が弱まった功罪の双方を感じ取ることができました。
最も大きく変わったのは、意外にも高域でした。切れ味と輝き感が感じられる高音は、先ほどの空気室(小)で聴いた音と同じユニットとは思えない質感です。空気室(大)は、中域もスムーズに出てくる感じがあり、長岡スピーカーが好きな方にはこれぐらいが適正値かもしれません。
様々なジャンルの録音を聴くと、空気室(大)ではボーカルのハスキーさが目立つ場面もあったため、好みに応じては空気室(中)がベストバランスになるのではないでしょうか。空気室容量の調整は、中低域より高域の印象に注目して判断すると分かりやすいと言えそうです。
空気室容量による、ホーン動作の違い
次に、ホーンの動作を確認するために、先程と同じく各部の測定結果を見てみます。
「空気室(小)」↓
「空気室(大)」↓
まずは、ダクト開口部の特性。まず、300~500Hz付近の減衰が「空気室(大)」の方が大きくなっていることが分かります。空気室容量変更の狙いの一つでもあるクロスオーバー周波数(fx)の差が表れたものと思われます。その一方で、1kHz以上の漏れ出てくる高音域に余り差はありません。
100Hz以下の低音域はどうでしょうか?ピークとディップの差は「空気室(大)」の方が若干大きそうです。聴感で「ドスン」という感じが空気室(大)の方が感じられた、というのもこの特性に由来しそうです。
次に、ユニット直前の特性を見てみます。
「空気室(小)」↓
「空気室(大)」↓
100~200Hzのディップを見てみると、空気室(小)のほうが深いディップがあることが分かります。これはホーンの共振がより直接的にユニットで制動されていることの証拠です。
最後に、インピーダンス特性を見てみます。
「空気室(小)」↓
「空気室(大)」↓
インピーダンス特性では、空気室(小)の方が全体的に20~200Hzの値が小さくなっているのが分かるでしょうか。これもホーンとユニットの結合が強まったことを表しています。
以上の結果から分かるように、空気室の大小は、ユニットとホーンの結合の強弱を変えるファクターになっています。
これは、必ずしもどちらかが良いということではなく、結合が強いとよりホーンとしての動作が大きくなり、その一方で、結合が弱いとより共鳴管ライクな動作になっていくという話です。 これとその他のファクター(例えば設置場所による低音の大小、吸音材による変化、リスナーの音の好み)を総合的に考えていくのが良いでしょう。
S-076は、想像以上の一発目からいい音を聴かせてくれました。バックロードホーンでありがちな中低域の付帯音もなく、まずは一安心です。
今回は周波数特性のデータを沢山のせてみました。皆さんのバックロードホーン作りの参考になれば幸いです。
とくに、ユニット直前の特性は、ホーンの共鳴周波数を知るうえで重要なデータになります。インピーダンス特性からも同等の考察ができますが、インピーダンスの測定環境が無い場合は、手持ちのマイクでユニット直前の周波数特性を取るだけでもかなり有用な情報が得られるでしょう。
次回は、吸音材の違いをデータと聴感で確認してみます。お楽しみに!
今回は、Fostexの16cmフルレンジ「FE168SS-HP」を使ったS-076の試聴と測定について書こうと思います。
また、後半では空気室容量の差について説明します。
S-076の概要
FE168SS-HPを使ったバックロードホーン「S-076」のパラメーターは下記のようになっています。
・空気室容量 約4.8L (fx=約190Hz) ※ユニットの容量(1.0L)を除いた値
・スロート断面積 90cm2 (振動板面積の80%)
・ホーン広がり率 m=0.8
・ホーン長さ 1.7m
(設計の詳細は、こちら)
今回は、このバックロードホーンを測定し、特性グラフを見ながら解説をしていこうと思います。
正面1m特性
まずは、正面1mの特性です。
通常ですと、「ユニット軸上1m」の特性を測るのですが、このS-076は後面下部にホーン開口部があるため低音音圧が想定より小さく出てしまう問題がありました。(図中、青線)
そこで、1mの距離を確保しつつ、マイク高さを下げることでホーンとの距離を調整して、聴感特性に近い結果がでる位置で測定をしました。(図中、赤線)
周波数特性を見ると、70Hzから15kHzまで整った帯域バランスが得られていることが分かります。
聴感上では、60Hz以下までしっかり出ており、小型の16cmバックロードとしては上出来の値です。
再生周波数レンジだけでいえば、小型ブックシェルフ型スピーカーにも及ばないかもしれませんが、バックロードホーンならではの瞬発力は大きな魅力です。低音から高音域まで、一切のリミッターを感じない音が飛び出してくるのはとても気持ちいいものです。
特に、16cmフルレンジFE168SS-HPのf0は54Hzで、それ以上の周波数帯域で再生しているのも、好印象に貢献しているでしょう。10cmフルレンジで無理に伸ばした低音とは、明らかに馬力感が異なります。
こうした音の傾向は、ベースギターの音色感や動きを克明に描く気持ちよさにつながります。普通のスピーカーでは籠った音色(下手すれば旋律が聴こえない状態)になりやすいベースギターを、明快に聴かせてくれるのは快感そのものです。
弦楽器やボーカルも、キツい音にならないのはFE168SS-HPならではの良さかもしれません。一昔前のフルレンジと比べ、かなりコントロールされた中高域になっている印象を受けます。
限定ユニットのFE168SS-HPですが、実際に聴いてみたところ扱いやすさが全面に出てくる音で安心しました。予算が許すのならば、初心者でも迷わず選んでよいと思います。
ホーンの動作を考える
さて、それでは個々の特性を確認し、ホーンの動作が上手くいっているかを考察してみます。
<ホーン開口部>
<ユニット直前>
ホーン開口部の特性を見ると、50Hz~500Hzの幅広い帯域で音圧が出ていることが分かります。500Hz以上が綺麗にカットできているのは、複雑に折り返した音道のお蔭でしょう。(吸音材は、一カ所だけ薄く入れています。)
ユニット直前特性を見ると、45Hz、110Hz、180Hzに大きなディップがあり、それぞれホーン共鳴の基音、2倍音、3倍音に相当しています。この周波数ではホーンが共鳴しており、振動板の空振りが抑えられています。
この共鳴音の実測から、ホーンの音道長を求めると 340(m/s)÷45(Hz)÷4=1.89mになります。前回の日記で図面から求めた音道長1.7~1.8より少し長い結果になりました。これは、ホーン末端の開口端補正による効果かもしれません。
インピーダンス特性でも、同様の周波数に大きなディップを確認することができました。まずは、想定通りのホーンとして動作していると思って間違いなさそうです。
空気室容量の変更
先ほどは、容量4.8Lの「空気室(中)」を装着しての測定でした。
バックロードホーンの空気室容量を変えた時、どのような変化があるかは確認をしておきたいところです。
ここでは、以下2種類の空気室を比較しました。
「空気室(小)」
・空気室容量 約3.8L (fx=約240Hz) ※ユニットの容量(1.0L)を除いた値
「空気室(大)」
・空気室容量 約6.2L (fx=約145Hz) ※ユニットの容量(1.0L)を除いた値
(用意した3種類の空気室)
正面1m特性の比較
まずは、正面1mでの測定です。マイク位置は、先ほどと同じ床から60cmです。
「空気室(小)」↓
「空気室(大)」↓
測定結果ではほとんど差が分かりませんが、聴感では大きな差がありました。
まず、空気室(小)はかなりナローレンジに聴こえました。特に、高音域が抑制された感じで、それ単独で聴いてしまうと「フルレンジだから仕方ないかな?」と思ってしまいますが、ユニットの描写力が中低域の厚みに隠れて聞こえにくくなっているような感じです。
その逆に、空気室(大)はワイドレンジ。低域から高域まで屈託なく撒き散らす感じです。
低域のドスンという感じもハッキリと感じることができ、ホーン内部の空気が自由に動いているような感じを受けました。その一方で、中低域の解像度は若干下がるかな?という感じもあり、空気室によりユニットとホーンの結合が弱まった功罪の双方を感じ取ることができました。
最も大きく変わったのは、意外にも高域でした。切れ味と輝き感が感じられる高音は、先ほどの空気室(小)で聴いた音と同じユニットとは思えない質感です。空気室(大)は、中域もスムーズに出てくる感じがあり、長岡スピーカーが好きな方にはこれぐらいが適正値かもしれません。
様々なジャンルの録音を聴くと、空気室(大)ではボーカルのハスキーさが目立つ場面もあったため、好みに応じては空気室(中)がベストバランスになるのではないでしょうか。空気室容量の調整は、中低域より高域の印象に注目して判断すると分かりやすいと言えそうです。
空気室容量による、ホーン動作の違い
次に、ホーンの動作を確認するために、先程と同じく各部の測定結果を見てみます。
「空気室(小)」↓
「空気室(大)」↓
まずは、ダクト開口部の特性。まず、300~500Hz付近の減衰が「空気室(大)」の方が大きくなっていることが分かります。空気室容量変更の狙いの一つでもあるクロスオーバー周波数(fx)の差が表れたものと思われます。その一方で、1kHz以上の漏れ出てくる高音域に余り差はありません。
100Hz以下の低音域はどうでしょうか?ピークとディップの差は「空気室(大)」の方が若干大きそうです。聴感で「ドスン」という感じが空気室(大)の方が感じられた、というのもこの特性に由来しそうです。
次に、ユニット直前の特性を見てみます。
「空気室(小)」↓
「空気室(大)」↓
100~200Hzのディップを見てみると、空気室(小)のほうが深いディップがあることが分かります。これはホーンの共振がより直接的にユニットで制動されていることの証拠です。
最後に、インピーダンス特性を見てみます。
「空気室(小)」↓
「空気室(大)」↓
インピーダンス特性では、空気室(小)の方が全体的に20~200Hzの値が小さくなっているのが分かるでしょうか。これもホーンとユニットの結合が強まったことを表しています。
以上の結果から分かるように、空気室の大小は、ユニットとホーンの結合の強弱を変えるファクターになっています。
これは、必ずしもどちらかが良いということではなく、結合が強いとよりホーンとしての動作が大きくなり、その一方で、結合が弱いとより共鳴管ライクな動作になっていくという話です。 これとその他のファクター(例えば設置場所による低音の大小、吸音材による変化、リスナーの音の好み)を総合的に考えていくのが良いでしょう。
S-076は、想像以上の一発目からいい音を聴かせてくれました。バックロードホーンでありがちな中低域の付帯音もなく、まずは一安心です。
今回は周波数特性のデータを沢山のせてみました。皆さんのバックロードホーン作りの参考になれば幸いです。
とくに、ユニット直前の特性は、ホーンの共鳴周波数を知るうえで重要なデータになります。インピーダンス特性からも同等の考察ができますが、インピーダンスの測定環境が無い場合は、手持ちのマイクでユニット直前の周波数特性を取るだけでもかなり有用な情報が得られるでしょう。
次回は、吸音材の違いをデータと聴感で確認してみます。お楽しみに!
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