『ガンダム』とか『エヴァ』とかならともかく多くの作品は普通は何十年も生き残るわけが無いわけで、ゲーム化される場合その当時にどんなゲーム機があったかって重要だなぁ、と。10年前に携帯ゲーム化されてたら、きっとワンダースワンでリリースされてこんな感じだったんだろうなと。
10年前の携帯ゲーム機といえば4階調モノクロ(!)とかが標準的で、カラーにしても同時表示色数は54とか良くて241色とか言ってたのに今やPSPなら1677万色でほぼフルカラー。しかも動画も普通に再生できて音声もゲーム中に普通に再生できてADVならフルボイスが当たり前。
技術の進歩と巡り会わせって凄いなぁ、というのが正直な感想です。このゲームに限っては技術云々よりも作った人たちの良いモノを作ってやろう!という情熱かも知れません。とにかくゴージャスで、ほとんどぐうの音も出ない完成度です。
※例
何より目に付くのがシステムまわりの丁寧さ。ゲーム中の選択肢にしても誤決定を防ぐためか、そのままでは選択肢の上にカーソルが選択されず、下ボタンを押すことで初めて選択肢にカーソルを選択できます。これで機械的に○ボタンを押したとしても意図しない選択肢を選択せずに済みます。まぁもともとがバックログの機能がこれでもかという風に充実しているので間違って押してしまってもジャンプ機能で直前まですぐに戻れますが、ストレスを感じさせない工夫が良いです。
このシステム周りが極限まで親切極まってるのは、ユーザーフレンドリーはもちろんのこと本題のADV自体の難易度の高さにあったのかなとクリアしてみて思えます。バックログは結構搭載されてますが、そこまでジャンプできるのってあんまり観たことがないですし。あんな複雑で入り組んだADVで、ちょっとしたことが分岐に影響するのでそれに気がついたその都度やり直すことができなかったらそれこそ難易度とプレイ時間が倍増しますし。そもそも何週もやる気はなくなります。
PSPのデータセーブ・ロード画面って多分本体のシステムに依存しているっぽい設計だのでどのゲームもセーブやロードに関しては本体設定と同じようなインターフェースが出てくるのが常なのですが、今作は上手いこと弄ってると言うかシステムに依存はしているけれども、そういう風にはなるべく見えないようになってます。それよりも達成率などはともかくとして、現在かかっているBGMのタイトルまで表示されるのがまた凄い。
本当につくりが丁寧。世間一般に存在する分岐のあるADVは分岐したAとBでそれぞれその後に共通したルートに行き着いたとしても、往々にしてAやBの部分には具体的に触れずにそのルートは展開されるけれど、これは見事にAやBの差分が収録されてあってAやBも後のルートに反映されてるのが地味に凄い。Aに先に会ってる場合とBに先に会ってる場合それぞれに差分が用意されていて、どのルートを通っても違和感が無いように作られてるのが本当に凄いです。
またAIマップと呼ばれる分岐図をいつでも確認することができ、今どのルートをたどっているのかが大まかに分かりどのルートをたどっているかが垣間見ることができます。ただしAIマップではどの選択がどういう風に影響を及ぼしているのかと言うことは隠されているので関連性が非常に見えにくく、またマップは俯瞰では表示されないためにルートの全体は把握しにくくなってます。あくまでも大まかにしか分かりません。そこがまたこそばゆくて良いです。
BGMはデフォルトだとうるさいかも。特に会話と会話が途切れたところで音声レベルが変わるのでその差が余計に耳障りな印象です。でもオプションでBGMの設定をデフォルトの60から10にするとちょうど音声再生中のBGMに近い音量になるので個人的にはこれがベストでちょうど良い。またBGM自体はやっぱりアニメ版のサウンドトラックではないんだけれど、実に『とらドラ!』っぽいです。と思って調べてみたら、橋本由香利さんが作曲ということで納得。なんと贅沢な。EDの「コンプリイト」、「プリーズ、プリーズ」もハイクオリティ。
実質的前作である『涼宮ハルヒの約束』と同様にモーションポートレートを採用しつつも、前作であった大量のロード時間はインストールのおかげかほんの一瞬で終わります。本当にストレスフリーなゲームです。またゲーム本編でもアドベンチャー、特にこういう種類のアドベンチャーゲームにはある種欠かせない主観・客観による状況描写が無く、全編登場人物たちの会話だけで繰り広げられ、某レビューにあったアニメを観てるみたいというのはまさにその通りだと思います。
また○ボタン長押しでオートプレイモードになるので、テレビ接続してオートモードにしておくと本当にアニメでも観ているよう。テキストも消せるし。凄いのは適すと消したままでもオートモードが可能と言うところ、多くのADVの場合、一枚絵を見るためなどにテキストを消せるけれどその際にはオートモードはオフにされてしまいます。
けれどアニメ版そのままかといえば、やっぱりそうではなくどちらかというと原作、もしくはドラマCDの雰囲気の方が近いと思います。開発自体が原作へのアプローチから発生し、アニメ版とは並行して作られているっぽいのでそういった点では反映されること自体ありえず、キャラクターデザインが田中将賀さんであったりアニメ版の声優さんがそのまま声を当てているのでアニメっぽいけれど、全体的な雰囲気はドラマCDというかライトノベルな感じが強いです。
ゲーム自体をプレイしてみて、「あれっ?大河ってこんなに嫌な感じだったけ?」というのが第一印象で、放送当時の一部の人たちの大河の加害性に対する拒否反応を思い出しました。あと「干されモデル」などなど原作のネタ(であろうと思われる)が多くて新鮮でした。会長の妹が何故エロいと言われるのかなどなども分かりました。原作読んでない人には新鮮で、原作読んでる人はたまらないだろうなぁ。また原作ネタでは特にスーパーかのう屋が元生徒会長の実家であったことがようやく分かって、学園祭の福男レースの商品、スーパーかのう屋の商品券がつながってシナプス回路が刺激されました。脈略無いなぁ、と思っていたらあったと。
アドベンチャーゲームでの面白さってほぼほぼテキストに関わってくるので、面白いかと問われるとファンなら、オタク的ユーモアが許容できるなら面白いかも知れないとしか言えない感じ。面白くは無いけれど、つまらなくも無い。アニメ版を想定していると本質的な部分で原作よりなので肩透かしになるやも知れません。でもフルボイスの力技のおかげで、アニメ版が好きな人だったら面白いと感じられると思います。
またADVとしては珍しく退屈な状況描写といった地の文章が一切無く、全てが会話で進められてゆくのはラノベユーザを意識したのか、はたまたアニメを強く意識した結果なのか分かりません。状況描写などの多くの部分は竜児の一人突っ込みなモノローグによってなされますし。これこそ本当の”フルボイス”だなぁと少なくとも今までプレイしたADVで地の文章が一切無いADVは初めてで退屈さの回避に繋がってると思います。地の文が本当に苦手で田中ロミオさんのモノくらいしか読み進められないぼくみたいな人間には最適です。
周辺のシナリオはともかくとしても、このゲームの本筋と思しきシナリオはなんと言うことか原作に負けない出来で、少なくともアニメ版の一部は完全にifにしてしまってる。大落ちの部分に関しては蛇足かなぁと思わなくも無いけれど、原作の複線を律儀に全て回収したらきっとこうなるんだろうと言う絵を真摯に描いているのが非常に印象的です。本当にこれ原作未完のときに書いたのだろうかという凄いキャラゲー。アニメ版が駄目な人ほどこっちの方が好きかもしれません。後半の超テンションよりこの展開のほうが解し易いです。
主人公を記憶喪失にするっていう設定はキャラゲーや劇場作品などではよくあるパターンで、大抵は物語や関係性を一旦フラットにして全く新しいオリジナルストーリーを挿入するための手段としてのみ機能させます。本作もフラットにしてオリジナルストーリーを展開させるまでは同じですが、展開されるシナリオはアニメのゲーム化などのオリジナルストーリーにありがちな退屈なものではなく、少なくとも本筋の物語はアニメ版に負けない怒涛の展開を見せてくれるものがあります。
OPが「プレパレート」ということからも分かるようにアニメ版と言っても前半のカラーが強いです。開発していた時期的なものもあるのでしょうが、全体的に前半の雰囲気が色濃く、後半以降があまりあわなかった人なんかはこっちの方がしっくり来るかもしれません。メインのメンバーとのイベントについては、個人的にアニメ版よりも説得力がある流れだと思いました。ゲーム版のifモノでしかないとは侮れない感じです。原作終了を待たずに製作に入ったのに究極的には同じ終着点に止まるっていうのはやっぱり奇跡と言うか、キャラが物語を規定するっていう説はありえるものかも、と再認識しました。
※久しぶりにゲームをするのにメモを…
ADV久しぶりだからなめていたけれど、ゲームとして確かな歯ごたえがあるのが凄いなぁと。相手に媚びた選択肢をしているだけではグッドエンディングにはたどり着けないし、そもそも必要な選択肢を選択するにもキーとなるアイテムが必要となる場面がたくさんあって能動的にプレイしないとコンプリイトは難しい。AIマップが表示できるけれど、それにしても完全にルートが俯瞰されるわけで無し。アニメを観ているみたいだけれど、それだけではなく単純にゲームとしても面白かったです。
最高級のファンソフトだなぁと思います。原作付きアドベンチャーのある種の理想系。ただ純粋にアドベンチャーゲームとしてみると、例えばライトノベル系やオタク系特有の掛け合いに耐性がないと正直厳しいと思います。それがあれば多分魅力的なモノだと思います。ぼくにはちょっと厳しい部分が。ただシリアス部分、原作の本筋の物語と絡む部分はやはり魅力的です。作りとしては主人公竜児を記憶喪失にすることでプレイヤーを同じスタートラインに立たせることができ、作劇しやすくするという原作付きゲームの古典ながらも確実な設定だと思います。システムと言い、本当に底堅い。
そしてコンプリイトが遠いです。