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『HEAVY RAIN -心の軋むとき-』(SCE)
ということでプラチナトロフィー。何としてでも物語の全てを把握してやろうと、この週末『HEAVY RAIN』をこれでもかとやりこんではみたものの、40時間以上プレイしてトロフィーが77パーセントにしか達せず、あんまりにもトロフィーが進まないので飽きたを通り越して嫌いになりかける。なので仕方なく攻略サイトを参考に何とかプラチナ獲得。それでも凄い時間がかかった。初プラチナだ。
チャプターはともかくエンドロールは一度観ていたとしても飛ばせないのがことほど辛い。映画的なのはゲーム内容ばかりではなく、エンドロールも映画並みに長く、5分以上ある。それが一切スキップすることが出来ない。セーブデータが3つまで、またセーブデータを自由に使えず、チャプターも選択中のセーブデータのみに限られる等々とにかく制約が多く、トロフィー100パーセントを目指すといった繰り返しプレイには非常に辛い仕様。
こういった点だけは日本のゲーム、殊にこの種のミステリー、サスペンスジャンルのADVに一日以上の長がある。もちろん制作側の意図として、技術的な問題ではなくそういったゲーム的なプレイを拒絶しているのかもしれないが。
以下盛大にネタばれ
重厚な交響楽団の音楽で騙されそうになるが、シナリオや細かい点に不満が多い。
爆発から逃れるために冷蔵庫の中に隠れるという描写があるが、冷蔵庫は構造上内側からは開けられないんじゃないのかという疑問がまず浮かぶ。またショーンの監禁場所をつかんだマディソンが他の人に電話で知らせるというシーンがあるが、イーサンはともかく何故一面識も無い(少なくとも一切描かれていない)ジェイデンの電話番号を知っているということになっている。いくらジャーナリストだといってもありえない嘘だ。
最も強く不満を抱く、酷い場面は時計屋の主人、マンフレッドが口封じに殺害される場面。探偵のスコットが同行者のローレンと共に訪ねて行った際に、マンフレッドが探し物をするために隣の部屋に行ったが一向に戻ってこない。痺れを切らしてスコットが部屋に向かうと、部屋でマンフレッドが撲殺されている。それはユーザー視点、スコットの視線でそのように描かれるので、プレイヤーはそのシーンに異論を挟めない。
ところが犯人はスコットだったと後半明らかにされる。スコットが実は折り紙殺人鬼で、マンフレッドが持つ手がかりを隠滅するために彼を殺したという。マンフレッドを呼びに行く振りをして、スコットはマンフレッドを殺害、外部からの進入を工作したことが示される。だが前段のシーンではローレンがよそ見をしている描写が申し訳なさそうにあるだけで、ユーザーが目に出来るのはスコットは単純に現場に行き、死体を発見した場面だけだった。
これはプレイヤーに見せた事件のシーンがフェイクだったということ。フェイクを見せておいて、「実は犯人はスコットでしたよ」というのはさすがにあんまりだという気がする。こういうことは他にもあって、例えば犯人が身に着けていたという金時計。クラブでの犯行では金時計を付けていた、金時計を持っている人物が折り紙殺人鬼だということになるのだが、スコットが劇中他のシーンでは金時計を身に付けている描写がなされていない。
加えて言うと、しがない私立探偵でしかないスコットに何故港湾倉庫や試練用の車を所有し、アパートや豪華な部屋などを借りられる資金があったのか。それがまた不明だ。悪徳警官だったから裕福だったのか。また父親たちに試練を与えるカーナビのシステムなどかなり専門的な知識を要するガジェットを使っている点など、そういった技術にまで精通していたのかなどなど犯人の細かな点に想像が及ぶと、途端に本が弱く思えてくる。
些細な疑問は枚挙に暇が無い。試練の中でイーサンはドラッグディーラーを射殺する選択肢を取る場合があるが、その殺人罪は被害者が犯罪者であるから無罪放免なのか、その後イーサンが罪に問われている描写が一切無い。無関係の人間を殺しておいても悪人だから執行猶予が付いたのだろうか。全く不明だ。少なくともエピローグを見る限りでは、グッドエンドでもバッドエンドでもイーサンがこの殺人で罪に問われることは無い。
スコットが折り紙殺人鬼としたゴーディの父で、街の権力者コールマンはスコット達を糸も簡単に殺そうとした(殺した)人物であり、ゴーディが殺害した(とする)子供についても子供たちの死は貧民街の子供だから取るに足らないという趣旨の発言をしている。にも関わらず、ジョン・シェパードの死に対しては負い目を抱き、彼の事故死以来墓に花を供え続けているという設定はどうにも一人の人間の行動としては理解しがたいものがある。
またマルチシナリオについても、制作者が意図している物語のラインの中ではある程度自由に行動や決定を行うことが出来るが、一度そのラインから外れたことを意図すると、前世代のテキストADVと何一つ変わっていないことに気付かされる。主人公のイーサンや探偵のスコットはどんな行動を取ろうともラストまで死ぬことはないし、FBIのジェイデンは暴力的な捜査を行えない。結局は基本ラインからは抜け出すことは出来ない。
これはシステム自体が旧態依然としているためだ。フラグ管理のフローチャート型ADVをQTEとリアルタイムレンダのグラフィックで覆っただけというのが『HEAVY RAIN』のシステムについての正確な評価だと言える。確かに革新的な表現ではあるが、別に自由度に満ちたシークエンスの有機的な結合の結果として物語が立ち現れるのではなく、小さなシークエンスの無機的な順列組み合わせの結果が物語になっているに過ぎないのだ。
だからQTEの成否は思ったほど映像的には変化をもたらさず、シークエンスの結合はところどころの科白に不整合な部分を孕んでしまっている。見た目には非常に進化しているが、システムの根本はテキストアドベンチャーとなんら変わりは無い。もちろんこれはゲームで物語を語るための措置だとは分かる。自由度を確保すればするほど、物語ることが難しくなるのは『GTAⅣ』などオープンワールド系ゲームを見れば明らかだ。
グラフィックは確かに綺麗ではあるが、細部には残念な部分も多い。特に人物では女性キャラクターのモデルが見事に「不気味の谷」に落っこちている。同じファーストパーティ製の『アンチャーテッド』ではかなり女性もがんばっていたので、余計に女性キャラのモデリングは見劣りする。不気味だ。一方の男性キャラクター陣、特に中年以上のスコットやマンフレッド、パコなどは目の周りもしっかりと動いているので不気味さは少ない。
文句を書いてきたが十二分に凄いゲームであることは疑いようが無い。グラフィックの進展がテキストアドベンチャーに足りなかったアクティブな興奮を与えている。それだけでも評価されるべきゲーム。ただしシナリオや演出には前述の通り不満は多い。今作単体ではマディソンやジェイデンの問題など全ての事柄が明らかにされたわけではない。数ヵ月後にダウンロードコンテンツとして販売されるらしいので、それで満たされるのかもしれないがやはりソフト単体で完結しないことは少し残念だ。