NOTEBOOK

なにも ほしがならなぁい なにも きたいしなぁい

カーネーション

2011-12-29 | 授業

『おひさま』を基本的には大変楽しんでいたはずだったのですが…


『カーネーション』(NHKオンライン)
リトルランボーズ


戦前、戦中、戦後とを描くということで、どうしても直前に放送されていた『おひさま』と『カーネーション』を比較せざるを得ないです。


登場人物のキャラクターの複雑さと言う点でも『カーネーション』は非常に優れています。主人公の糸子は真っ直ぐな情熱や素直さを持ち合わせているだけではなく、情熱の裏返しでもある図太さや傲慢さも隠しません。父親の善作は暴力もいとわない自分勝手で奔放な嫌な父親である一方で、周囲への思いやりも玉に見せる憎めないキャラクターでした。死の直前の温泉へ行くことを認めてくれ、その上日本酒まで持たせてくれた糸子への礼を切り出すシーンはその複雑さを端的に示していました。

良いことばかりではありません。紳士服店ロイヤルでの糸子の働きぶりに惚れて、入り婿にまでなり糸子の親戚などの外堀を口説き落としてまで糸子と結婚した糸子の夫、勝は基本的には温厚で、大人しく、優しい夫として描かれます。そんな夫が出征した後、優しい夫に女の影があったことが明らかになってしまうのです。必ずしも夫は糸子への愛に忠実だった人物としては描かれていません。気の良い近所の髪結いのおばさんは息子の自殺未遂の間接的な原因を糸子が作ってから、鬼と化し糸子に辛く当たります。また糸子もその仕打ちを受け入れるでもなく、冷たく突き放すのです。

またキャラクターの掘り下げ方は主要登場人物に限りません。ダンスホールの踊り子は何の考えも持たない空虚な美人かと思いきや、その実は自分の職業に誇りを持てずコンプレックスにさいなまれていました。太平洋戦争に突入した後、登場した国防婦人会のリーダー格のおばさんなどはことあるごとに小原洋装店を目の敵にするある種の悪役的な存在ですが、そのおばさんの子供もまた戦地に赴き戦死してしまいます。いつもは強気なおばさんも涙ながらに葬式行列を出していました。要するに『カーネーション』の登場人物たちは基本的に単純なキャラクターではなく、極めて重層的なのです。だからこそ実在感が感じられ、まるで生きている人たちの日常を覗くかのような没入間です。


キャラクター造詣もさることながら、物語の展開のさせ方、見せ方が極めて秀逸です。前述の夫、勝の出征のエピソードがその一例です。夫の出征はとても悲しい話のはずですが、出征の直後糸子は勝の浮気疑惑の物証である料亭の女性とのツーショット写真を見て受けてしまいます。怒り心頭に発した糸子は夫の出征という感傷から一転して、夫の浮気に怒り狂います。シリアスで悲しい場面だったのが、一転してコメディに変わってしまうのです。『カーネーション』では往々にしてペーソスとユーモアが混在します。どちらか一方にはなりきらないのです。現実の生活では必ずしも悲しみやおかしさ一辺倒なんてことは無いはずです。それを『カーネーション』ではきちんと表現しています。

またある種の残酷さを描くことをためらいません。小原家の生活が長女である糸子の腕一つにかかると言う流れの中では、頼るべき寄る辺として存在していた大金持ちの神戸の祖父母の老いが描かれます。体は弱り、精神も衰弱してしまった祖父母はそれまで糸子が最後の頼みとしてきた保護者としての面影はなくなっていました。そこで糸子はもう誰も自分を守ってはくれないことを悟り、自分の力で家族を守っていくことへの決意を新たにするのです。両親や祖父母の老いとかを容赦なく描く。そここそが『カーネーション』の凄さの好例と思います。(しかもこのエピソードでは祖父母の表情を一切見せないと言う演出がなされていました!)




もう何と言うか、『カーネーション』と比べると『おひさま』はおこちゃまだなぁと思ってしまうのです。あんなに好きだったのにです。例えば『おひさま』では戦争の悲惨さを陽子の兄、春樹と陽子の友人、真知子との果たされない悲恋のみにアウトソーシングされた格好になっていました。しかも『君の名は』のパロディという軽さ。付け加えるなら、もう一人の陽子の友人、育子を瓦礫の中から助けてくれた上原という医学生の死に外部化されていました。そして戦争という物語上の推進力を失った『おひさま』はグダグダな終盤に突っ走ってしまいました。

『カーネーション』の前半が終了しましたが、後半一体どうなってしまうんでしょうか。ベタをやるはずのNHKの連続テレビ小説朝ドラなのに、こんなに複雑な個性を持った魅力的な登場人物にあふれたドラマって本当に凄い!何なんだろうか、これは。

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1 コメント

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Unknown (kenpa)
2013-02-24 14:06:00
「カーネーション」の画像頂きました。ありがとうございました。
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