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仏具屋さん

2022-08-17 14:40:41 | 芝居

2年ぶりにお盆の帰省をしてきた。タイトルが仏具屋さんだからといって、お盆の帰省にそれほど内容が関係あるわけではない。

次の芝居で小道具にロウソクが必要なわけです。本火を使うロウソクだといろいろと面倒なので、LEDで炎がチラチラ揺らぐタイプのものがあったと思ったので、それを使うことにして小道具担当とか舞監とかと、主にネットで探していたのだが、なかなか良い具合のが見つからない。

とりあえず仏具屋さんを見て回ってみようと思い、近場から攻めてみる。

事情を話し、相談してみると「この間まではあったんだけど、お盆で売り切れちゃった」とのこと、何種類か見せてもらったのだが、やはりちょっと小さい。すまなそうに「一週間くらいすれば入ると思うんだけどね」と言ってくれたが、それでは心許ないので、お礼を言いつつ店を出た。いろいろと見せてくれたりもして親切。でもあんまり商売っ気はない。

そして二軒目はかつてタダでお鈴をもらってきたことがある、仙北町あたりの仏具屋さん。

何でタダでお鈴をもらうことになったかって? 

それは遠野物語100年のイベントでのこと。NHK盛岡放送局で、影絵と子ども語り部のコラボ、それからアナウンサーの語りでイベントをやることになり、その影絵と子ども語り部のコラボ部分の演出、ということでお話が来て、まあそういうのの演出をしたわけです。

影絵は、その当時の岩大特美の学生さんが作ってパソコンで動かすというもの。子ども語り部の話に合わせて影絵を動かすわけですね。で、その話に効果音なども付けようってんで、どうせなら生音の効果音にしようと思い、いろいろ楽器的なものや楽器じゃないけど音が鳴るものとかを探したりしていた。

ホースをぐるぐる回すと風っぽい音が出たり、ビブラスラップを使ったり、まあそんな流れで、仏壇のお鈴も欲しいなと、飛び込んでみた仏具屋さん。まあ、楽器として使いたいみたいな事情を話すと「これ、錆びちゃって売り物にならないから上げます」と言われ「いいんですか?」とありがたく頂戴してきたことがある仏具屋さん。

そんな縁があった仏具屋さんに飛び込む。店内は薄暗く、開店してるんだか閉まってるんだかわからない雰囲気なのだが、入り口が開いているということは営業しているのだろう。久しぶりなので恐る恐る足を踏み入れると、どうも昔と比べて品揃えが薄い。確か昔はもっといろいろあったはずだがと、奥へ進むも、店の人が出てくる雰囲気はない。

外は結構な雨。店の中も・・・雨? あちこちにバケツとかそういったものが置いてあり、ポチャンポチャンと水音がしている。上を見ると、天井板なんかもあちこちはがれていて、仏壇なんかもかろうじて雨のかからないところに置いてある、という感じである。

奥の方まで進むと、店主と覚しきご老人が「いらっしゃい」と、どういうわけかズボンのチャックを上げながら、ベルトを締めつつ迎えてくれた。

「LEDのロウソクありますか?」と聞くと

「?%~#&!?」となんだかよくわからないヒアリングをされたような答えが返ってきた。とっさのことだったので、なんと聞き間違えられたのか忘れてしまったのだが、なんだかとんでもなくかけ離れたことを言われた。

でまあ、よくよく説明して聞いてみるとやはり「お盆で売り切れちゃった」とのこと。人はお盆前にLEDロウソクを仕入れるものらしい。ここでも「一週間くらいすれば入ると思うけど」という。

「ホーマックとかでも売ってるよ」と親切にも教えてくれ、「ありがとうございます、行ってみます」と店を出た。やはり商売っ気はない。

薄暗い店内に仏壇仏具が雨漏りを避けて陳列され、あちこちのバケツやモップを洗って絞るローラーが付いてるやつ(名前を知らない)にたまった水と雨漏りの水音が響く様子は、まったくもってつげ義春の世界だった。

以前のつげ義春世界への扉は、岩手町のとある食堂だった。もう三十年前くらいになるだろうか?

のれんをくぐり、引き戸を開けると、昼間からビールを飲んでしゃっくりをしている小柄で目のぎらぎらした第三世界猿みたいな老人と、その隣のテーブルで、にこにこしている老婆がいた。

さらになんとも言えない据えたような臭いがして、店の人が出てくる前にそっと扉を閉めて出てきた思い出がある。まったくもってつげ義春世界だった。

岩手には、時折つげ義春の世界が口を開けている。

 



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