3月3日 雛祭りの日
父は、地区の「げんきかい」いきいきサロンに、張り切って出掛けて行った。
地区のボランティア協会が開催してくれる、75歳以上の一人暮らしの高齢者の交流会で、
こういう交流会が、年2回あるそうだ。
昨日より、嬉しそうに着て行く服を選んでいた。
92歳になっても、おしゃれな父は、数着選んだ服を着ては鏡の前に立っていた。
この2、3年はデイサービスにも行っていなかった。
知人や友人の集まる場所への久しぶりの外出は、余程嬉しいのだろう。
夜になっても、また一人タンスからスーツを取り出し並べていた。
さあ、明日はどの服を着て行くのだろう。
手も口も出さないが、嬉しそうに準備している父を見ていると、
私も嬉しかった。
いつもは8時頃に起きて来る父が、今朝は7時に起きて来て、
早くから身支度をし始めている。
私の方が、慌てた。
急いで朝食の用意をして、食べて貰った。
交流会は11時からで、9時30分には車で迎えに来てくれるそうだが、
準備は9時に出来た。
父の選んだ服は、夜遅くになって揃えていたスーツだった。
持ち物を何度も確認したり、落ち着かない父は小学生のようだ。
「お父さん、寒いからカイロ貼って行った方がいいよ!」
「ハンカチ持った?ティッシュは?」
「薬は持って行く?」
そして、私は母親になっていた。
9時30分の迎えの車が待ちきれずに出て行く父の後姿は、
やっぱり嬉しそうに見える。
「久しぶりの外出だから、楽しんでね。」
14時半、雛あられやパンジーの花等のお土産と、
教えて貰って作った折り紙の雛飾りや、ストローの竹とんぼの工作を
持って帰って来た。
「今日は何を食べさせてもらったの?」
「ちらし寿司だった」
「何人位来てた?」
「30人位だった」
いつも寡黙な父が、饒舌に話してくれる。
やっぱり、楽しかったのだろうな。
元気に参加できる内に、こう言う交流会をもっと開催してほしいが、
過疎が進む一方の市の財政では、そうは出来ない苦しい事情が有るのだろう。