今から30数年前、目白にある東京カテドラル聖マリア大聖堂においてブルックナーの交響曲の連続演奏会が行われた。今にして思えば、当時はブルックナーブームであり、もちろん日本国内では、朝比奈隆氏の影響力が大きかった訳だが、我々の夢でもあった、ブルックナーの交響曲を教会で聴くという一大イベントは、複数の在京のオケによって慣行されたのだった。
どうしてブルックナーの交響曲を教会で聴きたいのか?それは、彼自身が敬虔なクリスチャンであったこともあるが、彼の交響曲は全て教会のオルガンで作曲したとされている。つまり、教会のような残響の長い場所でブルックナーを演奏してこそ本来の姿が示されると考えられていたのだ。当時は、現在のような残響にもすぐれたコンサートホールがなかったからとも言えるか。このカテドラル聖マリア大聖堂は、およそ残響は7秒。今までに経験したことのない響きが生まれていた。当時は、アントンKも学生の分際であり、またブルックナーについてもまだまだ聴いた経験が少なかったが、この年を境にブルックナーに対する思い入れも変わったことは言うまでも無い。
そんな昔のことを今さらどうしてと思われてしまうが、実は最近この時のライブCDを入手し、当時を懐かしく思い出したから、うる覚えになる前に書き記しておこうと思った次第。
写真は、その連続演奏会のLP盤の全集。ちょうど1年がかりの演奏会終了後、しばらくしてから発売となったものだ。第1回の4番のシンフォニーの時には、あまりの残響の長さに驚いてしまい、自分の耳も慣れていなかったのか、聴きづらい個所もあった。しかし演奏会が進むにつれ、ここでの聴き方みたいなものがわかったようで、回を追うごとに良く聴こえてきた印象を持っている。そしてラストの第8の時には、演奏者も、揮者朝比奈も、そして聴衆も一進一退になり、ブルックナーの響きを堪能したのだ。このチクルス最終のこの日、第8のフィナーレのコーダが壮絶に響き渡り、演奏が終わるとしばらくして暖かい拍手が湧きあがったが、その拍手は、25分以上続き、最後は私服に着替えた朝比奈が登場し、自身も涙を浮かべてたのは今も語り草となっている有名な話。アントンKも、このチクルスの至る所で目頭を押さえる場面に遭遇したが、もちろん演奏も素晴らしいものだったが、やはりそれ以上に、この空間というか、厳かな教会という場所でブルックナーを聴くということ自体に感動をしていたと思っている。決して明るくはないホールで、目の前(祭壇の前)には、天にも届きそうな大きな十字架があり、その前で聴くブルックナーは、まるで天からの捧げもののごとく音楽が全身に降り注がれた。30年以上経っても、まるで昨日のように思い出されるこの体験は、今もこれからも自分自身の糧となっていくだろう。
そんな思いを一気に思い起こさせてくれた今回のCDであった。CDでは、あの時の想いまではとても入りきれていないが、それでも当時の自分を振り帰るのには十分であった。良い買い物をした。