アントンK「趣味の履歴簿」

趣味としている音楽・鉄道を中心に気ままに綴る独断と偏見のブログです。

福島章恭「魂のモーツァルト」を聴く

2017-11-18 15:00:00 | 音楽/芸術

以前から気になっていた福島章恭氏の演奏会に出向いてきた。

いつか彼の生演奏を聴いてみたいと思い続けて早2年は経ってしまっただろうか。ちょうどその頃、福島氏がブルックナーの第8交響曲のCD録音を発売し、その演奏に非常に興味が沸いたからなのである。普段は合唱やコーラスの指揮指導が本職であることから、なかなかオーケストラの指揮をする演奏会には巡り合えなかった。しかし本場ウィーンで公演されるモーツァルトのレクイエムの壮行演奏会として、今回日本でも演奏会が実現したのである。これは聴かない手はないと心待ちにしていたというわけだ。

現地ではどうかわからないが、今回の演奏会には、レクイエムの前に「魔笛」序曲と第40番の交響曲が演奏されたが、この2曲を聴いただけでも、今日はただでは済まないことが判ってしまった。後から思い返してみれば、命がけの演奏であったと言っても過言ではないだろう。ピンと張りつめた空気感の中に、楽譜を信じ愚直に向き合う福島氏の姿を見たからである。最近の流行りであるような、BGM的な軽いノリのモーツァルトとは真逆の、各声部が十分に鳴った重厚な大変立派なモーツァルトがそびえ立っていたのだ。交響曲第40番第1楽章終結部のHrnの雄弁さは今まで聴いたことがないし、第3楽章の出の部分の、弦楽器の充実仕切った音色は心に突き刺さる。フィナーレの何というテンポ感だろう。全てがバランスされていて、自分が自然と夢中になっていることがわかるのだ。一見、こういったスタイルは、モーツァルトには似合わないと思われがちだろうが、その演奏には、わかる人だけついて来いといった強さや厳しさがあり、独自性の塊のような演奏。どこか懐かしくもあるこの演奏スタイルに、アントンKは終始ワクワクして聴き入ってしまった。

そんな気持ちのまま後半の「レクイエム」を迎えたが、ここでは、指揮者福島氏の本領発揮といったところか。前半こそ合唱団から緊張が伝わってきたが、楽曲が進むにつれて声量が増し、実に格調の高い音楽が現れていたのである。指揮棒を使わず、両手の指で巧みに操る指揮振りは、不器用だが誠実さが伝わり、どこかかつてのロヴォロ・フォン・マタチッチを彷彿とさせていた。

思いつくまま綴ってきたが、こんな素晴らしい演奏を実現したオーケストラは、アントンKの敬愛する崔文洙氏が中心となり今回特別に結成されたオーケストラだったのである。これは、演奏会直前まで知らなかったことだが、どこかご縁を感じることができたし、指揮者、演奏者そして聴衆が心を一つにできた演奏会だったと今さらながら感慨にふけっている。

福島章恭 魂のモーツァルト 特別演奏会

指揮 福島章恭

東京ヴェリタス交響楽団

合唱 モーツァルト・コーラス・ジャパン

歌劇「魔笛」序曲 K.V.620

交響曲第40番 ト短調 K.V.550

レクイエム ニ短調 K.V.626(ジェスマイヤー版)

2017-11-16

東京オペラシティ・コンサートホール