川上弘美 (著) 朝日新聞出版
小学校四年生のさよは、母親と二人暮らし。離婚した父とは、以来、会っていない。ある日、町の図書館で『七夜物語』という不思議な本にふれ、物語世界に導かれたかように、同級生の仄田くんと共に『七夜物語』の世界へと迷い込んでゆく。大ネズミ・グリクレルとの出会い、眠りの誘惑、若かりし両親、うつくしいこどもたち、生まれたばかりのちびエンピツ、光と影との戦い……七つの夜をくぐりぬけた二人の冒険の行く先は?
2009年9月から2011年5月まで朝日新聞に連載された新聞小説です。連載を途中から読んだので、単行本となったと知って無性に読みたくなりました。連載時に載っていた酒井駒子さんの挿絵も入っていて嬉しかったのですが、ページ左下の小さなスペースなので、出来たらもっと大きくして欲しかったかなぁ
だって、この挿絵の子供たちがとっても可愛くて好きだったんだもの。
さよと同級生の仄田くんはどちらも片親家庭です。さよのお母さんは仕事で遅くなることもあり、寂しい思いを抱えながらも彼女は母を気遣い進んでお手伝いをしています。けれど本当は両親がもう一度仲良くしてくれないかなと願ってもいます。仄田くんはお母さんがいなくてお祖母さんに甘やかされて育ったせいで、クラスの中では少しばかり浮いた存在です。二人とも本が大好きですが、さよはファンタジー、仄田くんは「すべてシリーズ」と好みのジャンルは違ってます。
そんな二人が図書館で『七夜物語』という本と出会ったことで、冒険の扉が開かれます。
本を手に取った瞬間、体の中をびりびりとしたものが走り抜ける感覚を二人とも味わうのですが、それこそがこの冒険に出かける資格のある者のしるしでした。またこの本は、一旦閉じてしまうとそれまで読んだあらすじも登場人物も忘れてしまうけれど、また開くと普通に先を読み進めることができるという不思議な特徴がありました。
初めにこの本を読み始めたのはさよです。図書館好きな彼女のもう一つのお気に入りは、近所の高校を金網の外から観察することで、そこで定時制の南生と麦子という高校性と友達になり口笛を教えてもらいます。(この口笛の曲「いのちの歌」が彼らの危機を何度も救ってくれるのです。)それがきっかけで仄田くんと一緒に高校に出かけて理科室で不思議な世界に入り込んでしまうのです。そこには巨大なネズミそっくりの生きものがいましたが、さよにはそれが『七夜物語』に出てくるグリクレルだとわかってしまったのです。
この夜、二人はグリクレルからある課題を与えられます。濃いはちみついろのかたまりをしたミエルを口笛で追い払って、二人は無事に課題をこなしグリクレルの台所から帰ってきます。
さよは本のことを仄田くんに教えます。
次の夜の冒険では、心地よい館で眠りに囚われそうになります。二人は今まで目を背けていたものと向き合う勇気を試されますが、同じ場所に留まって惰眠を貪るより、辛くても前に進もうとする方がずっと良いのだと二人は気付きます。
その次の夜の冒険は、二人別々です。
さよは若い日の両親に出会いますが、二人の間に交わされる親密な空気に疎外感を抱き反発します。それは現実の世界で母が父以外の男性と仲良くなるかもしれない不安が作用したのでしょうか?それとも・・・。仄田くんは気づかないふりをしていた自分の心にある願望と向き合います。勉強もスポーツも出来るクラスの人気者という立場に立った彼は、クラスメートの野村君に酷いことをしてしまうのです。けれど、そんな傲慢な自分に腹が立って後悔します。二人とも今の自分への不満を自覚し、変わることを決意するのです。
こうして、現実と『七夜物語』の世界を行ったり来たりしながら、二人は冒険を続けます。
五つめの夜には、しゃべるエンピツや黒板と出会い、自分たちがモノたちより優れているのか?好きと嫌い、愛すると憎むはどう違うのか?との難題を突き付けられます。モノに命を与えて現実世界を夜の世界に引きこもうとするウバたちを、グリクレルに貰った懐中電灯で消そうとした二人ですが、彼らを消し去ることに迷いが生じて実行できませんでした。これまでは、自分の中の問題でしたが、今度は世界と自分の関わりに広がったのです。
最後から二番目の夜には、グリクレルの台所で「さくらんぼのクラフティー」を作り、今まで出会った夜の世界の住人たちと素敵なお茶会をします。どうやらパイの一種のようだけど、読んでいるだけでも美味しそうなのよね
皆で一つのものを分けあい一つの曲を奏でた夜の安らかさ・楽しさ・喜ばしさの記憶は、読む者の中にもしっかり受け継がれていく気がします。
そして最後の夜。
二人は不思議な子供たちに出会います。美しい外見を持つけれど心が伴わない光の子どもたちと、寒そうでみすぼらしいけれど、心の温かな影の子どもたち。元は一つだったこの子どもたちのためにも二人は夜の世界の乱れを正さなければならないのです。太古の昔から生きているというマンタ・レイに導かれて最後の戦いを迎えた二人の前に現れたのは、彼らにそっくりな光と影の子たち。倒すことを躊躇う二人は傷つき倒れてしまいます。二人の前に今まで知り合った夜の世界の住人たちがお別れにやってきては消えて行き・・でも最後にやってきたチビエンピツは消えることを拒むの。
そんなチビちゃんが真っ二つにされた時、二人が感じた憤りと悲しみが、この冒険を終わらせたのでした。
もちろん、彼らは大人になり、冒険の記憶は失くしています。仄田くんは地球物理学者になり、さよはこどもの物語の作者です。けれど、クラス会で再開した時にさよが感じた懐かしさは、きっと仄田くんも同じように感じていたことでしょう。
この物語はずっとずっと前から何人もの「さよ」と「仄田くん」に読み継がれ、その数だけ夜の世界の冒険があったのです。その中には南生と麦子もいました。もしかしたらさよの両親もいたかもしれません。きっといたのだと私は思っています
子供には難し過ぎるような問いかけが次々と出てきますが、案外子供たちの方が物事の本質を直感で言い当ててしまうのかもしれませんね。本が大好きだった昔子供だったアナタにもお薦めします。
小学校四年生のさよは、母親と二人暮らし。離婚した父とは、以来、会っていない。ある日、町の図書館で『七夜物語』という不思議な本にふれ、物語世界に導かれたかように、同級生の仄田くんと共に『七夜物語』の世界へと迷い込んでゆく。大ネズミ・グリクレルとの出会い、眠りの誘惑、若かりし両親、うつくしいこどもたち、生まれたばかりのちびエンピツ、光と影との戦い……七つの夜をくぐりぬけた二人の冒険の行く先は?
2009年9月から2011年5月まで朝日新聞に連載された新聞小説です。連載を途中から読んだので、単行本となったと知って無性に読みたくなりました。連載時に載っていた酒井駒子さんの挿絵も入っていて嬉しかったのですが、ページ左下の小さなスペースなので、出来たらもっと大きくして欲しかったかなぁ


さよと同級生の仄田くんはどちらも片親家庭です。さよのお母さんは仕事で遅くなることもあり、寂しい思いを抱えながらも彼女は母を気遣い進んでお手伝いをしています。けれど本当は両親がもう一度仲良くしてくれないかなと願ってもいます。仄田くんはお母さんがいなくてお祖母さんに甘やかされて育ったせいで、クラスの中では少しばかり浮いた存在です。二人とも本が大好きですが、さよはファンタジー、仄田くんは「すべてシリーズ」と好みのジャンルは違ってます。
そんな二人が図書館で『七夜物語』という本と出会ったことで、冒険の扉が開かれます。
本を手に取った瞬間、体の中をびりびりとしたものが走り抜ける感覚を二人とも味わうのですが、それこそがこの冒険に出かける資格のある者のしるしでした。またこの本は、一旦閉じてしまうとそれまで読んだあらすじも登場人物も忘れてしまうけれど、また開くと普通に先を読み進めることができるという不思議な特徴がありました。
初めにこの本を読み始めたのはさよです。図書館好きな彼女のもう一つのお気に入りは、近所の高校を金網の外から観察することで、そこで定時制の南生と麦子という高校性と友達になり口笛を教えてもらいます。(この口笛の曲「いのちの歌」が彼らの危機を何度も救ってくれるのです。)それがきっかけで仄田くんと一緒に高校に出かけて理科室で不思議な世界に入り込んでしまうのです。そこには巨大なネズミそっくりの生きものがいましたが、さよにはそれが『七夜物語』に出てくるグリクレルだとわかってしまったのです。
この夜、二人はグリクレルからある課題を与えられます。濃いはちみついろのかたまりをしたミエルを口笛で追い払って、二人は無事に課題をこなしグリクレルの台所から帰ってきます。
さよは本のことを仄田くんに教えます。
次の夜の冒険では、心地よい館で眠りに囚われそうになります。二人は今まで目を背けていたものと向き合う勇気を試されますが、同じ場所に留まって惰眠を貪るより、辛くても前に進もうとする方がずっと良いのだと二人は気付きます。

その次の夜の冒険は、二人別々です。
さよは若い日の両親に出会いますが、二人の間に交わされる親密な空気に疎外感を抱き反発します。それは現実の世界で母が父以外の男性と仲良くなるかもしれない不安が作用したのでしょうか?それとも・・・。仄田くんは気づかないふりをしていた自分の心にある願望と向き合います。勉強もスポーツも出来るクラスの人気者という立場に立った彼は、クラスメートの野村君に酷いことをしてしまうのです。けれど、そんな傲慢な自分に腹が立って後悔します。二人とも今の自分への不満を自覚し、変わることを決意するのです。
こうして、現実と『七夜物語』の世界を行ったり来たりしながら、二人は冒険を続けます。
五つめの夜には、しゃべるエンピツや黒板と出会い、自分たちがモノたちより優れているのか?好きと嫌い、愛すると憎むはどう違うのか?との難題を突き付けられます。モノに命を与えて現実世界を夜の世界に引きこもうとするウバたちを、グリクレルに貰った懐中電灯で消そうとした二人ですが、彼らを消し去ることに迷いが生じて実行できませんでした。これまでは、自分の中の問題でしたが、今度は世界と自分の関わりに広がったのです。
最後から二番目の夜には、グリクレルの台所で「さくらんぼのクラフティー」を作り、今まで出会った夜の世界の住人たちと素敵なお茶会をします。どうやらパイの一種のようだけど、読んでいるだけでも美味しそうなのよね

そして最後の夜。
二人は不思議な子供たちに出会います。美しい外見を持つけれど心が伴わない光の子どもたちと、寒そうでみすぼらしいけれど、心の温かな影の子どもたち。元は一つだったこの子どもたちのためにも二人は夜の世界の乱れを正さなければならないのです。太古の昔から生きているというマンタ・レイに導かれて最後の戦いを迎えた二人の前に現れたのは、彼らにそっくりな光と影の子たち。倒すことを躊躇う二人は傷つき倒れてしまいます。二人の前に今まで知り合った夜の世界の住人たちがお別れにやってきては消えて行き・・でも最後にやってきたチビエンピツは消えることを拒むの。
そんなチビちゃんが真っ二つにされた時、二人が感じた憤りと悲しみが、この冒険を終わらせたのでした。
もちろん、彼らは大人になり、冒険の記憶は失くしています。仄田くんは地球物理学者になり、さよはこどもの物語の作者です。けれど、クラス会で再開した時にさよが感じた懐かしさは、きっと仄田くんも同じように感じていたことでしょう。
この物語はずっとずっと前から何人もの「さよ」と「仄田くん」に読み継がれ、その数だけ夜の世界の冒険があったのです。その中には南生と麦子もいました。もしかしたらさよの両親もいたかもしれません。きっといたのだと私は思っています

子供には難し過ぎるような問いかけが次々と出てきますが、案外子供たちの方が物事の本質を直感で言い当ててしまうのかもしれませんね。本が大好きだった昔子供だったアナタにもお薦めします。