2016年1月8日公開 アメリカ 142分
アメリカとソ連が一触即発の状態にあった冷戦下の1950~60年代。ジェームズ・ドノバン(トム・ハンクス)は、保険の分野で実直にキャリアを積み重ねてきた弁護士だった。彼は、米国が身柄を拘束したソ連のスパイ・アベル(マーク・ライランス)の弁護を引き受けたことをきっかけに、世界の平和を左右しかねない重大な任務を託される。それは、自分が弁護したソ連のスパイと、ソ連に捕えられたアメリカ人スパイを交換することだった。良き夫、良き父、良き市民として平凡な人生を歩んできたジェームズは、米ソの全面核戦争を阻止するため、全力で不可能に立ち向かってゆく……。
東西冷戦下の50〜60年代に起きたソ連によるアメリカ軍のU-2撃墜事件を基に、捕虜となったアメリカ軍パイロットの救出という極秘指令を受けた弁護士の奮闘を描いた作品です。
冷戦下の両大国がスパイ合戦を繰り広げていた時代が舞台。畑違いとも言えるソ連のスパイの弁護を引き受けたジェームズは、彼の人柄に興味を惹かれます。敵国のスパイであるアベルの弁護をすることはアメリカ国民の反感を買うことでもありますが、彼が祖国に忠誠を誓っているごく普通の人間だと感じたジェームズは、何とか死刑を免れるため、判事に将来アメリカ人がソ連の捕虜となった場合の交換材料として生かしておくことを提言して死刑判決を回避することに成功します。(死刑を求める国民感情を逆なでする結果となり、彼の家族にも危害が及ぶあたりは、現代と変わりない集団心理の恐さを感じました。)
同じ頃、U-2偵察機でソ連を偵察するスパイ任務についたパワーズ空軍中尉(オースティン・ストウェル)がソ連に捕まったことで、両国間で秘密裏に捕虜交換の提案がなされ、その交渉任務がジェームズに回ってくるのです。
更に、ベルリンの壁が建設されつつあるドイツで、アメリカ人留学生 フレデリック・プライヤー(ウィル・ロジャース)が東ベルリンにいる恋人を西側へ連れ出そうとして東側の秘密警察に捕まります。
CIAのホフマン(スコット・シェパード)は国の意向として、パワーズの救出が最優先だとジェームズに命じますが、米ソ独の間にある複雑に絡まる思惑に苦慮しながら、彼は二人とアベルの交換に向け奔走します。このあたりの駆け引きは息詰まるものがあり、冬の凍てつく寒さの風景も相まって緊張が伝わってきました。
何とか交渉が成立して、いよいよアベルがソ連側に引き渡される場面で、ジェームズはアベルが本国で無事でいられるのか尋ね、アベルは車に乗り込む前の同僚たちの態度でわかると答えます。そして抱擁もなく後部座席に乗せられる彼の姿を映すことで、観客はアベルが無事で済まないことを知ることになるのです。
アメリカでは二人の捕虜を救い出したことで、ジェームズの世間的評価は一変し、ヒーロー扱いとなりますが、彼の胸中はどうだったのかしら?
アベルのために最善を尽くしたことが、逆に彼の命を縮める結果になったかもしれないのですものね。
ジェームズから不安じゃないのかと尋ねられるたびに、「役に立つか?(Would it help?)」と返すそのある種諦観したセリフが印象に残りました。