杏子の映画生活

新作映画からTV放送まで、記憶の引き出しへようこそ☆ネタバレ注意。趣旨に合ったTB可、コメント不可。

先生と迷い猫

2016年06月17日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
2015年10月10日公開 107分

妻に先立たれて独り暮らしを送る森衣恭一(イッセー尾形)は、学校を定年退職した元校長先生。そのカタブツで偏屈な人柄のため、近所では浮いた存在だ。訪ねてくるのは、亡き妻が餌を与えて可愛がっていた三毛猫のミイくらい。猫が嫌いな校長先生は、なんとか追い払おうとするが、ミイはどんなに追っ払っても毎日やってきて、妻の仏壇の前に座り続けていた。ところがある日突然、その姿が見えなくなる。そうなるとなぜか心配になり、探し始めたところ、自分の他にもミイを探している人たちがいたことが判明。みんな、ミイに餌をやって語りかけることで、どこか救われていた人たちだった。彼らと関わってゆくうちに、頑なだった先生の心も変わってゆく……。ミイの存在が思い出させる妻のこと。忘れてしまわねばならないと思っていたこと。失くしてからでは伝えられないこと……。やがて、必死でミイを探していた校長先生に、小さな奇跡が起きる……。(公式HPより)


埼玉県・岩槻で起きた地域猫失踪事件を記したノンフィクション「迷子のミーちゃん 地域猫と商店街再生の物語」(木附千晶著/扶桑社刊)を元に、オリジナルキャラクターやストーリーを加えて映画化されています。
観終わってまず思ったのは「タイトルが合ってない、猫は迷ってない、迷っているのは人間の方だぞ」です

元校長先生は、妻を亡くした悲しみが猫を見ることで呼び覚まされるのが辛くてミイに邪険に当たるのね。
彼は素直に自分の気持ちを現すことができない、なかなかめんどくさい性格をしているので、町の人は偏屈な彼を煙たがってはいますが、嫌われているわけでもなさそう。何しろ元校長先生ですから、ある程度の尊敬は得ているわけです。

冒頭、紙袋をぶら下げた元校長先生が向かった先はパン屋さん。いつもの味じゃないとの一言が店主(カンニング竹山)に閉店を決意させてしまい当惑の表情を浮かべますが口には出しません。クレームを言いに来たのではなく、何故味が変わったのかが知りたかっただけなのに、ギリギリで商っていた店主の迷う背中を思いっきり押すことになってしまったのです。このエピソードが彼の性格を端的に物語っています。

元校長先生を訪ねてくるのは、市役所の青年・小鹿(染谷将太)くらいです。仕事用に写真を使わせてもらうためと割り切ったいかにも今風の若者なのですが、彼は認知症の祖母と父親の三人暮らしで、おばあちゃん想いの根は優しい青年です。徘徊先の自動車修理工場の主人(猫好きで沢山飼っている)に連絡を貰って迎えに行った際、普段笑顔の少ない祖母が猫と接していてとても良い笑顔をすることに気付いて猫を飼おうとするの。ちなみに彼は猫アレルギーがあるのですがそれでも祖母の笑顔が見たい。これってかなり素敵ですね

ミイが町の人からも別の名前(タマコとかソラ)で呼ばれ愛されていることを知り、何だか面白くない元校長は、自宅の猫用出入り口を塞いで、やってきたミイに「もう来るな」と怒鳴ります。ところがその翌日からピタっとミイの姿は消えてしまうの。そうなるといてもたってもいられなくなり、町を捜しまわるうちに、同じく姿が見えないことを心配している妻が通っていた美容院の女主人(岸本加代子)や、元教え子の真由美(北乃きい)に出会います。(真由美に贈った卒業記念色紙に書かれた4文字の意味が一種のダジャレだったのには脱力でしたが、元校長のお茶目な一面を垣間見せるエピソードでもあります。)彼らは協力して猫探しを始めるのですが、特に元校長先生の熱心さは群を抜いていて、河原に棄てられていた段ボール箱を見つけて水に浸かりながら駆け寄ったり、電柱によじ登っているところを通報され警官に連衡されたりなど、全体的にユーモラスに描かれてはいますが、その必死さが伝わってきました。彼が身元引受人に小鹿を呼んだのは、今現在一番繋がりがある人物だったからなのかな。

いじめに遭っている女子中学生の話も出てきます彼女は毎夜バス停で出会う猫をちひろと呼んでいました。元校長先生はそれを知ると4つの名前を呼びながらより熱心に捜し歩くの。本題ではないけれど、小鹿と真由美の出会いは彼らのその後を連想させます。

結局ミイは見つかりませんでしたが、町の人たちとの新しい出会いというか絆が見つかったというお話ですねそれはいなくなったミイ(ひいては亡き妻)からの元校長先生への贈り物だったのかも

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