義理に哭く婦系図や鏡花の忌 白兎
ぎりになくをんなけいずやきやうくわのき
鏡花忌(きやうくわき)は初秋の季語。
小説家、泉鏡花の忌日。九月七日。金沢に生まれる。尾崎紅葉に師事した。明治から昭和にかけて独自性のあるロマン主義文学の境地を開いた。代表作として『夜行巡査』、『高野聖』、『歌行灯』『婦系図』などがある。昭和十四年(一九三九)六十五歳で没した。
『婦系図』の主人公の早瀬主税(ちから)は陸軍参謀本部のドイツ語翻訳官。が、前歴は「隼(はやぶさ)の力(りき)」を名乗るスリだった。芸妓(げいぎ)だった恋人との仲を引き裂かれた彼は失意の中で故郷の静岡に戻り、ドイツ語塾を営みながら、出自や血筋にこだわる上流の者たちへの復讐を誓うのだ。ラスト、静岡の名門一族当主との対決シーンは市内の名所・久能山。しかもそれは日蝕の日であった。太陽が欠ける中で火を噴くピストル。圧巻の幕切れである。画像出典:あらら本店。