目には目を歯には歯をという慣用語がある。このハンムラビ法典の趣旨は、やられたらやりかえせという同害報復を要請するものではなく、「倍返しのような過剰な報復を禁じ、同等の懲罰にとどめて報復合戦の拡大を防ぐ」すなわち、あらかじめ犯罪に対応する刑罰の限界を定めることがこの条文の本来の趣旨であるとされる。
さて、会社の駐車場は地元の大地主である農家の土地を管理している建設会社から借りているものである。
事件はこの駐車場へ大きなゴミ袋が4個も不法投棄されたことから始まる。普通の可燃ゴミならば所定のゴミ袋を被せて回収日に出せば容易に処分が可能である。しかし今回のゴミ袋の中身はざっと覗いただけでもパソコン用プリンターや壊れたゲーム機などの雑多なものばかりであった。
これとても市役所の不燃・粗大ゴミ受付センターに連絡して回収してもらうことは可能である。だが、市役所で回収してくれるのは家庭由来のゴミであって事業所で発生したゴミは対象外で有料となる。
そこで先ずは市役所へ電話をかけることから始まるわけだが、どこへ電話をかけたらよいのかが分からないから代表局番へかけて担当課へ回してもらうことにした。
「もしもし。実は会社の駐車場へたくさんのゴミを不法投棄されまして困っているんですが市役所のどちらへご相談すればよろしいのでしょうか」
「ちょっとお待ちください。環境局廃棄物対策部の方へおつなぎします」
「はいっ。お待たせしました。廃棄物政策課の■■です」
「もしもし。実は会社の駐車場へたくさんのゴミを不法投棄されまして困っているんですが」
「会社の駐車場ですか。そういう場合は土地の所有者や管理されている方に片付けてもらうようになっているのですが」
「ええっ。管理している者が不法投棄のゴミを処分するんですか」
「はいっ。そうです」
「■■さん。あなたの論法に従えば、川でも山でも野原でも日本中に管理者がいないところはないのですから不法投棄は存在しないことになりますが、あなた方は一体何のためにいるんですか。ゴミの不法投棄は犯罪なんですから、もう少し本腰をいれた対応をしていただかないと困るんですが」
「そう言われても民有地内のゴミは土地の管理者に片付けてもらうことになっているんですけど」
「■■さんでは話が通じないようですから係長さんなり課長さんなり責任の持てる人に代わってください」
「もしもし。係長の□□ですが」
「駐車場にゴミを棄てられて困っています。民有地のゴミはこちらで片付けろということですが、それでは不法投棄の犯人を捕らえることもできないし、そうした努力もしないのでは行政の怠慢なのではないでしょうか」
「わかりました。兎に角そちらへ伺いますので現地で立ち会ってください」
こんな応酬があってから現地で待っていると、小型トラックに乗った担当者が二人でやって来た。
状況写真を撮影した後に、ゴミ袋を一つずつ開け警察の鑑識係よろしくゴミを一つ一つ丁寧に確認しだした。つまり、ゴミを棄てた人物に結びつく物証を得るための作業である。
その結果、熊本県熊本市に所在する会社の取締役O氏の名刺、そのO氏の車を修理したと思われる沼津市の自動車整備工場の請求書、その車を洗車した東京都板橋区のガソリンスタンドの領収書、東京都豊島区内のアパート名と個人名を書いたメモ用紙、静岡市清水区に所在する肥料店の名入りの手拭いなどたくさんの物的証拠が出てきた。
すると市役所の職員はおもむろに携帯電話を取り出して警察へ連絡した。しばらくすると静岡中央署生活安全課の私服巡査と巡査長が3人来て、ゴミ発見時の状況などを詳しく聞き取った後、現場の検証や写真撮影を行った。私がその写真の中に入って写されている。
警察の検証では市役所職員が見つけた物以外の新たな物証は見つからず、資料は警察へ、残りのゴミは市役所が預かるということでトラックに積んで持ち帰った。ゴミはすっかり片付いたので私としては一件落着であったが、これには後日談がある。
数日前に犯人が捕まったのである。詳しいことは捜査上の秘密で知らされていないが、事件のあらましは以下のとおりである。
会社の元従業員にKという男がいる。この男はすでに解雇した者である。Kは知り合いの不良の元妻と交際していてその引越しを手伝った。その引越しのときに出たゴミをこともあろうに会社の駐車場に置き去りにしたようだ。
恩を仇で返すというのはKのような奴のことをいうのであろう。
さて、会社の駐車場は地元の大地主である農家の土地を管理している建設会社から借りているものである。
事件はこの駐車場へ大きなゴミ袋が4個も不法投棄されたことから始まる。普通の可燃ゴミならば所定のゴミ袋を被せて回収日に出せば容易に処分が可能である。しかし今回のゴミ袋の中身はざっと覗いただけでもパソコン用プリンターや壊れたゲーム機などの雑多なものばかりであった。
これとても市役所の不燃・粗大ゴミ受付センターに連絡して回収してもらうことは可能である。だが、市役所で回収してくれるのは家庭由来のゴミであって事業所で発生したゴミは対象外で有料となる。
そこで先ずは市役所へ電話をかけることから始まるわけだが、どこへ電話をかけたらよいのかが分からないから代表局番へかけて担当課へ回してもらうことにした。
「もしもし。実は会社の駐車場へたくさんのゴミを不法投棄されまして困っているんですが市役所のどちらへご相談すればよろしいのでしょうか」
「ちょっとお待ちください。環境局廃棄物対策部の方へおつなぎします」
「はいっ。お待たせしました。廃棄物政策課の■■です」
「もしもし。実は会社の駐車場へたくさんのゴミを不法投棄されまして困っているんですが」
「会社の駐車場ですか。そういう場合は土地の所有者や管理されている方に片付けてもらうようになっているのですが」
「ええっ。管理している者が不法投棄のゴミを処分するんですか」
「はいっ。そうです」
「■■さん。あなたの論法に従えば、川でも山でも野原でも日本中に管理者がいないところはないのですから不法投棄は存在しないことになりますが、あなた方は一体何のためにいるんですか。ゴミの不法投棄は犯罪なんですから、もう少し本腰をいれた対応をしていただかないと困るんですが」
「そう言われても民有地内のゴミは土地の管理者に片付けてもらうことになっているんですけど」
「■■さんでは話が通じないようですから係長さんなり課長さんなり責任の持てる人に代わってください」
「もしもし。係長の□□ですが」
「駐車場にゴミを棄てられて困っています。民有地のゴミはこちらで片付けろということですが、それでは不法投棄の犯人を捕らえることもできないし、そうした努力もしないのでは行政の怠慢なのではないでしょうか」
「わかりました。兎に角そちらへ伺いますので現地で立ち会ってください」
こんな応酬があってから現地で待っていると、小型トラックに乗った担当者が二人でやって来た。
状況写真を撮影した後に、ゴミ袋を一つずつ開け警察の鑑識係よろしくゴミを一つ一つ丁寧に確認しだした。つまり、ゴミを棄てた人物に結びつく物証を得るための作業である。
その結果、熊本県熊本市に所在する会社の取締役O氏の名刺、そのO氏の車を修理したと思われる沼津市の自動車整備工場の請求書、その車を洗車した東京都板橋区のガソリンスタンドの領収書、東京都豊島区内のアパート名と個人名を書いたメモ用紙、静岡市清水区に所在する肥料店の名入りの手拭いなどたくさんの物的証拠が出てきた。
すると市役所の職員はおもむろに携帯電話を取り出して警察へ連絡した。しばらくすると静岡中央署生活安全課の私服巡査と巡査長が3人来て、ゴミ発見時の状況などを詳しく聞き取った後、現場の検証や写真撮影を行った。私がその写真の中に入って写されている。
警察の検証では市役所職員が見つけた物以外の新たな物証は見つからず、資料は警察へ、残りのゴミは市役所が預かるということでトラックに積んで持ち帰った。ゴミはすっかり片付いたので私としては一件落着であったが、これには後日談がある。
数日前に犯人が捕まったのである。詳しいことは捜査上の秘密で知らされていないが、事件のあらましは以下のとおりである。
会社の元従業員にKという男がいる。この男はすでに解雇した者である。Kは知り合いの不良の元妻と交際していてその引越しを手伝った。その引越しのときに出たゴミをこともあろうに会社の駐車場に置き去りにしたようだ。
恩を仇で返すというのはKのような奴のことをいうのであろう。