イタドリ (Fallopia japonica) の脅威
分け入って谷は虎杖ばかりなり 政岡子規
シーボルトが日本から持ち帰ったイタドリが、欧州各地で自然破壊の猛威を振るっている。日本で食用や薬用にするイタドリは19世紀の半ばにシーボルトが船でオランダに運んだ。シーボルトは日本の植物を園芸植物として販売するために(図鑑の出版費用を得るためと言われる)、多数を船で運んだが、乾燥や気温に耐えられずほとんど成功しなかった。しかし、イタドリだけは乾燥に強い植物で、首尾よく運べ育成する事が出来た。信じられない事だが、これは園芸用の観葉植物として欧州各地において高値で取引されたそうだ。この植物は地下1メートル以上の深さで、地下茎を伸ばし広がっていく生命力があり、またたく間に現地の在来種を圧倒した。今では、川辺、民家の庭、公園、墓地、遺跡などで、高さも2-3メートルとなって密生している。かくしてイタドリは日本のクズとともに「最も有害な帰化植物」としてヨローッパの嫌われ者になった。イギリスだけでも年間数百億円の被害が生じているそうだ。何しろこれが生えているだけで土地の値段が下がるほどである。これは欧州だけでなくアメリカやカナダでも同じ状況である。除草しても根が深く張っているので、表面を頑張って取り除いても駆除の効果が少ない。日本でも、イタドリが庭に生えると駆除に苦労するが、欧米ほど被害が目立たないのは、それなりに天敵がいるのと、他の植物との折り合いがついていることによる。英米の「イタドリ駆除同盟」などは、これの天敵であるイタドリハムシや特殊な菌類を利用することを検討したこともある。九州大学農学部では、イタドリマダラキジラミがこの種に特異的な害虫として利用できるのではないかと研究している。シーボルトもこんなありふれた植物が、どうしようもない嫌われ者になるとは思いもしなかったろうに。
追記
天敵の導入が害虫を首尾よく駆除する場合とそうでない場合がある。1936年にハワイにアフリカマイマイが輸入された。それが野外で繁殖して害をなすので、駆除するためにネジレガイの一種のヤマヒヤチガイを入れた。ところがそれはアフリカマイマイを駆除せずに、樹木にいるカタツムリを皆殺しにし始めた。アフリカマイマイは石灰岩にすんでいるからだ。動物の生態を知らずに行った人類の愚考の見本みたいなものである。
(ゴードン・テイラー「続人間に未来はあるか」大川節夫訳 1971)
1936