ジョン・D・コックス『異常気象の正体』東郷えりか訳 河出書房、2006年
約11万年前に始まった最終氷期は約15,000 年前に終り、地球の気候は一時的に温暖化した。ところが約1万2900年前ごろから急激に気温が下がりはじめ(これは数十年という短い期間で起こった)、それが約1300年間続いた。地質学的な「寒の戻り」と呼ばれるこの時期を、ヤンガー・ドリアス(Younger Dryas)という。この後、気温は唐突に再び上昇しはじめ現在に続く温暖な完新世に移行した。これを契機にして農耕文明に移行したといわれる。
(『地球環境学事典:総合地球学研究所編 弘文堂 2010より引用転載)
どのようにして何万年もの古気候の気温データーが得られたのであろうか?それはサンプル(氷床コアー)の酸素の安定同位体(O16とO18 )の割合を質量分析装置(MASS)で分析する事によってである。この方法はコペンハーゲン大学の地球物理学者ウイリ・ダンスガードと米カルテクのサミュエル・エプスタインが、それぞれ別々に開発したものである。気温が高めのときはO18の割合が多い雨や雪が降る。氷床コアーはグリーンランドで採集されたものである。1387mのコアーで218箇所から1600個ものサンプルが切り出され分析された。それまでは地層のチョウノスケソウ(Dryas octopetala )の花粉分析がなされていた。
ヤンガー・ドリアスの寒の戻りの原因はまだよく分かっていない。一説には天体(隕石あるいは彗星)衝突説がある。北アメリカ大陸に大きな天体が衝突し、大量の塵が大気圏へ巻き上げられて、太陽光を遮ったとする説である。一方、大西洋深層水の循環が停滞したとする学説もある。その前の温暖期に氷河が融け、北アメリカ大陸にアガシー湖という巨大な湖ができ、それが決壊して大量の淡水が北大西洋へ流れ込み表層海水の塩分濃度が低下して、海洋深層水の潜り込みが止まり気候を変えたというものである。いずれにせよ、地球の気候は長い年月をかけて徐々に変化していくものだと我々は信じ込んでいる。しかし、カタストロフィーがおこり、わけもわからず急激な変動が起こりものである事を認識していなければならない。
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