てんてんが20代後半にお勤めしていた会社での出来事。
念願叶って入社できた会社だったので、とてもはりきっていた。
そんなてんてんに会社のトップである所長は入社したその日から様々な面でとてもよくしてくださった。
仕事上どうしても車の免許が必要だったので、免許取得に必要なお金もいくらか援助してくださり
その上、なんと仕事中に「仕事の一環」ということで教習所にも行かせてくださった。
いろいろなお得意様のところに所長と同行させていただき、間近で様々な知識を学ばせていただいた。
毎日が本当に仕事が楽しくてたまらない時期が続いた。
ところがある日、ここでは書かないけれど「ある出来事があり」所長の態度が手のひらをかえ
すによう一変してしまったのだ。
ことあるごとにてんてんは社員の前で大声で怒鳴られることが多くなった。
ちょっと考えられないようなことでも「あなたはなんて気がまわらないのだ!!」と叱られたこともあった。
また仕事もあまりさせてもらえなくなってしまった。
てんてんは「なんでぇ???どうしてぇ???」と心の中で反発しまくってしまった。
仕事に行くのがとても憂鬱になってしまったけど、一緒に働いている同僚がみんなとても
優しくて、おもしろい人達ばっかりだったのでそんなみなさんの温かさがあったからなんとか毎日
仕事に行くことができた。
てんてんはついつい所長が外出されると待っていたかのように同僚に
「どうして自分がこんな仕打ちをうけなければいけないのか?」といったようがグチをこぼすよう
になっていた。
そのグチを聴いて優しくなぐさめてくれる同僚達ばかりだった。
しかしある日のこと・・・
また案の定、所長が外出されているときに調子に乗ってグチを言っているとある1人の女性の先輩が
静かにお話してくださった。
「のーぺぇーさん(てんてんはこの会社でこうよばれていた。)あなたの気持ちもわかるよ。
けどな一方的に相手ばかり悪くいうのは違うと思うよ。きっとあなたにも原因があるはず。
胸に手をあてて考えてごらん・・・。」と・・・。
その時てんてんは「はっ!!」とした。
まさしく優しく温かな手で「パチン!!」と頬をぶっていただいたような気持ちになった。
自分のことを棚にあげて所長の悪口ばっかり言ってる自分が恥ずかしくてたまらなくなってしまった。
当時のてんてんにはめずらしく(この頃は超がつくほどはねっかえりで素直じゃなかったからねぇ~)
この先輩が言ってくださった言葉に対し、「なんでそんなこというのよ~」とか「私は悪くない~」とか
「あなたに私の気持ちなんてわからない~~」なんて微塵も思わなかったのだ。
「ほんとうにそのとおりだなぁ・・・」と涙さえうるんだほどだ。
その先輩は年齢は私よりひとつ上だけだったけど、この事務所ではもうベテランの社員だった。
仕事はズバ抜けて出来る方で、でも決してそんな部分をひけらす方ではなかった。
話し方はすこし「つっけんどん」で突き放すような話し方をされるけれど、でもてんてんが
本当に困っている時は必ずそっと手をさしのべてくださった。
彼女が本当はとても優しい女性だということをてんてんはよく知っていた。
てんてんはその会社に入社した日、なんと仕事中足をムカデにさされてしまったのだ。
(山の麓にある会社だったからね~)
もう~痛いのなんのって・・・。
そして初対面であるてんてんに彼女がとってくれた行動はなんとてんてんの靴下を素早く
ぬがせ、足に口をあて毒を吸ってくださったのだ。
「ムカデの毒は強いからね~」と少し微笑みながら、あとは手際よく消毒液で消毒までしてくださった。
咄嗟の出来事でびっくりしたけど、彼女の優しさに涙が滲んだ。
なかなかできることではない。
そんな彼女がびし!!っと言ってくださった言葉はてんてんの曇った目を晴らしてくれた。
今でも時々「どうされているかなぁ~」と彼女のことを思い出すことがある。
もう12年会っていない。
数年前だけど、風の噂でその道で立派な先生になられたと聴いた。
人は時にながされやすい生き物である。
厳しいことを伝えると必ず反発という形で返されることも多い。
だからこそそれを恐れて波風立たせることなく無難に人の話や行動を流す人のほうが多いように思う。
時と場合によってはそれもとても大切なことだ。
けれど、やっぱり譲れない部分で「これは違う。間違っている。」ということをしっかりと
お伝えできる方は本当に素敵だと思う。
またお伝えするほうも自分ができていない場合は相手に伝わるはずもない。
きっとこの先輩の厳しい一言がてんてんの心に響いたのは彼女がとても誠実な人であったからだと思う。
厳しいことをまっすぐな瞳でお伝えできる人はとても優しく強い人なのだろうな。