通り過ぎた風

2005-10-16 13:04:03 | 出来事
 十代の頃、広尾町と言うところに住んでいたことがありました。
黄金道路を抜けると襟裳岬へと続く活気のある港町でした。

 その頃、やなせたかしの「詩とメルヘン」や「抒情文芸」という投稿雑誌を好んで読んでいました。ある日、外出から帰ると隣のお兄さんが「asagao007ちゃんにお客さんが来たんだけど、誰も居なかったんでうちで休んで貰ってるよ」と言うので、誰だろうと思って行ってみると、見知らぬ若者がにっこり笑っていました。なんと彼は福島県から家出をして来たのだというのです。抒情文芸に投稿した私の住所を頼りに憧れの北海道へとやってきたのでした。取りあえずはすぐに彼の家へ電話をして事情を知らせました。彼の強い思いで暫くは北海道にいると云うことになり、幸い隣のお兄さんの所は○○貨物という運送屋さんで、12トントラックを2台持って
営業をしていましたので、彼を住み込みで使ってくれることになりました。
毎日トラックの助手席に乗り、方々へ出かけて彼にとっては楽しい北海道旅行だったのではないかと思います。一ヶ月くらいいたのでしょうか、お給料を貰い彼は帰っていきましたが・・・

 彼の顔も、名前も全く覚えていません。
ただ帰るとき「北原白秋」「中原中也」「リルケ」「テニソン」「ヴェルレーヌ」等の詩集をたくさん買ってくれました。

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