いくら何でも少なすぎる!? 中国南部の広東省深セン市で、20日に発生した大規模土砂崩れの被害全容が見えてこない。政府は行方不明者85人と発表しているが、事故の範囲と規模を考えると「少なすぎる」との声が圧倒的だ。いったいなぜ地元当局はあり得ない“過少被害報告”をするのか?専門家によると、中国ならではの地方行政の腐敗によるカラクリがあるという。それは――。

 中国国営の新華社通信によると、20日に深セン市で起きた今回の土砂崩れで、これまで16人が負傷して病院で手当てを受けたほか、91人と連絡が取れないという。その後、新華社は地元当局が再確認した結果、行方不明者は91人ではなく85人だったと報じた。

 しかし事故の規模を考えると、この数字は「?」だ。なだれ込んだ土砂による被害面積は東京ドーム8個分の広さを超える約38万平方メートルに上り、被害が出た建物は計33棟に上ることが分かった。場所によっては10メートル以上の高さで土砂が堆積している。近くを通るガスのパイプラインが爆発。中国版ツイッター「微博(ウェイボ)」では「これで負傷者14人、行方不明者91人(いずれも当初情報)はありえない」という声が広がっている。

 中国事情に詳しい評論家の石平氏は「政府発表を信じる人は誰もいない。加算方式だからね。まずは最低限の人数を出し、そこで世論の反応を見る。それで『おかしい』となったら、(犠牲者の)数を増やす。今回も本当はすでに亡くなっているが『連絡がつかない人』という扱いにして、様子を見ているのだろう」と指摘する。

 土砂崩れ直前、兆候を察知した周辺住民900人以上が避難したとされるが、石平氏は「経験したこともないのに、それが(土砂崩れの)予兆とどうしてわかったのか?」と首をかしげる。

 一方で、中国ではかねて「犠牲者35人説」が都市伝説のようにささやかれてきた。

 03年に貴州省で起きたガス爆発事故の死者は35人。09年の河南省炭鉱事故でも死者35人だ。有名なのは11年に温州市で起きた高速鉄道事故。車両を犠牲者ごと地中に埋めて“なかったこと”にしようとしたが、この時も政府発表の死者数は当初35人だった。ほかの事故でも「35」という数字を目にすることが多く、一説には「35人を超えると地方の党書記が更迭されるため、35という数字がボーダーライン」(関係者)とも。石平氏は「明らかに事故の規模と犠牲者数がおかしい。さすがに国民も気付いたので、今回の事故で『35』とはやらないと思う」と語るが、果たしてどうなるか…。

 責任の所在も不透明だ。事故原因について新華社通信は、採石場跡地に建設現場から持ち込まれた残土が山積みにされ、これらの土砂が何らかの理由で流れ出た「人災」と断定。残土はビル20階以上の高さ、推定100メートルに達していたというから恐ろしい。

 採石場跡地は光明新区が14年2月に臨時の残土置き場として設置を認可。工業団地や住宅地との距離はわずか100メートルで、残土や建設廃棄物を積んだトラックが夜間も作業するため住民が苦情を訴えていた。トラックは1台当たり250元(約4700円)徴収されることになっていたが、不法投棄も横行していた。

「100メートルまで残土が積み上がっていた時点で、危険なのは明らか。それを放置していた地元当局、この場合は都市管理局の責任者がつるし上げられるだろう。次に不法投棄していた業者連中。これから醜い責任の押し付け合いが始まる」(同)

 やはり根底には、地方の役人と悪徳業者の癒着など行政の腐敗があるのは間違いない。

 習近平国家主席(62)は捜索と負傷者の治療、原因の究明に全力を挙げるよう関係各所に指示。公安当局によれば、現場に指令センターや救護施設3か所を設置し、消防隊11隊、無人機4機、捜索犬30匹を投入。大型の重機を入れ、警察や消防など約3000人が救出活動に投入されたが、これも「大事故を利用して『人命最優先』の姿勢をアピールする政府の常とう手段」(同)とみられている。

 


 

中国の地滑りが思ってるよりはるかにでかい規模だった