赤木沢からの帰り、折立から有峰ハウスに向かって、トロトロ車を走らせていたのだが、視界の隅にちらっと黒い影が見えたのでそちらを見ると、それはなんと熊の親子であった。有峰ハウスの直ぐ近く。慌てて車をバック。そこは、アスファルト道路脇のちょっとした空き地の奥で、熊は我々のことなんか全く意に介せず、地面をゴリゴリ掘っている。なにかの根っこでも掘り出しているんだろうか?その距離は約15メートル。まるで、サファリパーク状態だ。因みに僕はこの有峰湖周辺で車を走らせただけでかなりの確率で熊を目撃している。多分7割以上の確率。
子熊の方は「おかあさん。なんか来たよ」と藪の中に逃げ込んでしまったが、母親は全く平気だ。小熊が自分のテリトリーの中にいるから、非常に落ち着いている。これが道を挟んで反対側に僕らがいたら、多分車に体当たりをされるだろう。熊の破壊力は尋常ではない。ものすごい腕力だし、その爪はまるで5本のナタを手に装着しているようなもんだ。ブナの木肌によく熊の爪痕を見つける。彼らがブナの実を食べようとブナの木に登っただけで、くっきりとその爪痕が残る位だ。興奮した熊に顔でも殴られたら、その半分はえぐれ無くなってしまうだろう。
しかし、この熊は全く戦う意志などない。立ち去ろうともせず、かといって僕らの方に顔を向けてくれるわけでもない。もどかしくなった赤沼監督は、決定的写真を撮るべく「ウォー!」と奇声を上げてみた。それに興奮した熊が突進してくるのを撮り逃げしようというのだ。車のギアはドライブに入れたまま。いつでも発進してやるぜ。
ところが熊たちは、「もう、いいとこだったのに、めんどくさいなあ」という感じで藪の中に消えていってしまった。一番興奮していたのは赤沼監督で、次が後部座席の助監督達(お客さんたち)だったのだ。
解りづらいが左側の黒いものが小熊だ
一心不乱に穴を掘る 無視され続けるのは辛い
おそらく100キロを越える巨体、巴投げなど問題外