かまくらdeたんか 鹿取未放

馬場あき子の外国詠、渡辺松男のそれぞれの一首鑑賞。「かりん」鎌倉支部の記録です。毎日、更新しています。

渡辺松男の一首鑑賞 2の198

2019-08-19 19:36:26 | 短歌の鑑賞
  渡辺松男研究2の26(2019年8月実施)
     Ⅲ〈行旅死亡人〉『泡宇宙の蛙』(1999年)P125~
     参加者:岡東和子、A・K、T・S、渡部慧子、鹿取未放
     レポーター:岡東和子    司会と記録:鹿取未放


198 眠れざれば徹底的に薬罐見る 薬罐はいかにして造るのか

           (レポート)
 眠れない時にする一番ポピュラーな事は、羊の数をかぞえる事だが、退屈になっていつの間にか眠ってしまうことが目的のようである。一方作者は、眠れない時には薬罐を見るというのだ。しかも「徹底的に」。「ざれば」と、初句に濁音を多用して、焦燥感や絶望感を表現しているように思われる。そして薬罐の造り方を考える。薬罐はもともとは中国の注ぎ口と取っ手のある、生薬用の加熱器具だそうだ。日本では、鎌倉時代にすでに登場しているが、元々は薬(漢方薬)を煮出すのに利用されていたため薬鑵(やっかん)と呼ばれていた。その薬罐を徹底的に見て、一呼吸置いてから造り方を考えているところに、作者の造り方についての拘りが感じられる。調べてみると、薬罐は(へら絞り)という熟練を要する方法で造られる。身近にある薬罐の造り方に拘りを持つことで、見過ごしがちな日用品をもっとしっかり見るよう促しているようだ。ただ、眠れない時にこのような事を考えていては、ますます眠れなくなるかもしれない。(岡東)


          (当日意見)
★とっても哲学的な歌ですね。眠れない自分がいて、薬罐がある。自分と薬罐は関
 わりなく、それぞれここに存在している。そして意味も無いんだけど造り方を考
 えている。答えを出すわけじゃないけど、人間にはそういう時間があるような気
 がする。自分はあやふやな存在なんだけど。(A・K)
★はい、私も哲学的な歌だと思います。A・Kさんのように突っ込んで考えません
 でしたが面白い歌ですよね。だから生徒に紹介してこれ面白いでしょうって言 
 うんだけどどこが面白いのって言われる。でも薬罐を徹底的に見てその造り方を
 考えるって、その真剣さが滑稽じゃないですか。岡東さんが作り方を丁寧に調べ
 てくれて、それはそれで面白いけど、日用品をもっとしっかり見ようということ
 を作者が言いたいわけでなない。眠れない作者は薬罐を見つめて造り方を考えた
 としてもそれは技術的に事細かにということではないと思いますね。でもその無
 機物としての薬罐の存在感とそれに対峙している生きた人間の存在が面白い。
    (鹿取)


          (後日意見)
 松男さんの歌にはよく薬罐が登場し、愛用のアイテムである。(鹿取)
見つめているかぎり薬罐の湯は沸かず登校拒否時羽(は)たたきはじむ
                        『泡宇宙の蛙』P71
草取りの苦労とんでもなく暑く隠元ばたけに祖父とわれと薬罐
           『泡宇宙の蛙』P100

コメント
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