かまくらdeたんか 鹿取未放

馬場あき子の外国詠、渡辺松男のそれぞれの一首鑑賞。「かりん」鎌倉支部の記録です。毎日、更新しています。

渡辺松男の一首鑑賞 2の199

2019-08-20 18:53:50 | 短歌の鑑賞
  渡辺松男研究2の26(2019年8月実施)
     Ⅲ〈行旅死亡人〉『泡宇宙の蛙』(1999年)P125~
     参加者:岡東和子、A・K、T・S、渡部慧子、鹿取未放
     レポーター:岡東和子    司会と記録:鹿取未放


199 わが地図に地方都市染みのごとくなり染みのなかから大(おお)紫(むらさき)舞う

            (レポート)
 作者の地図には、地方都市が染みのようになっているという。実際に染みのようになっているわけではなく、俗に言う(影が薄い)ということであろう。少子高齢化が叫ばれて久しいが、特に地方においてその傾向は早くから現れている。総務省の
推計によると、過疎化が進む地域の人口は2005年の約289万人から2050年には約114万人に減少し、減少率は約61%と見込まれている。それにともなって地方都市はだんだん影が薄くなってしまう。上句では衰退していく地方都市の現状が詠われている。しかし下句では、その「染み」のなかから大紫が舞うという。大紫は「タテハチョウ科のチョウ。大形で雄の翅には美しい紫色部があり、開張9㎝。1957年日本の国蝶に指定。幼虫はエノキの葉を食する。」(広辞苑)とある。地方都市では、過疎化対策としての地域おこしがなされている。アニメで町おこしをしている埼玉県久喜市や「昭和の町」を逆手にとって観光客を呼び込んでいる大分県豊後高田市の例等がある。この下句は、作者から地方都市へのエールのように思う。衰退していく地方都市にむけられた作者の優しい眼差し、そして大きな可能性を秘めた地方都市への作者の期待感をあわせて感じられる一首である。日本中で大紫が舞ってほしいものだ。(岡東)


     (当日意見)
★この地方都市というのは自分の住んでいる群馬のどこそこではなく、全国あちら
 こちらに散らばってある不特定の、沢山の地方都市ですね。それは染みみたいな
 んだけど美しい大紫という蝶が舞う。(鹿取)
★「わが地図」にひっかりました。日本の地図ではなく「わが地図」なので、それ
 が分からないのですが。(A・K)
★私が持っている日本地図、くらいの意味ではないですか。感覚的な歌ですね。染
 みっていっても実際に地図に染みがあるわけではなくて、冷遇されている情けな
 い地方都市が染みのように浮き上がってきて、そこから大紫が舞う。(鹿取)
★紫の雲が日本を覆うみたいですね。(慧子)
★幻想的で面白いですね。地図のあちらこちらからわああーと大紫が舞い上がる。
   (A・K)

コメント
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