かまくらdeたんか 鹿取未放

馬場あき子の外国詠、渡辺松男のそれぞれの一首鑑賞。「かりん」鎌倉支部の記録です。毎日、更新しています。

渡辺松男の一首鑑賞 2の194

2019-08-15 22:03:18 | 短歌の鑑賞


  渡辺松男研究2の26(2019年8月実施)
     Ⅲ〈行旅死亡人〉『泡宇宙の蛙』(1999年)P125~
     参加者:岡東和子、A・K、T・S、渡部慧子、鹿取未放
     レポーター:岡東和子    司会と記録:鹿取未放


194 月齢五沈みゆく窓のさむさかな蟹われら残業に鋏をふるう

           (レポート)
 月齢とは、新月の時を0として起算する日数である。月齢五というと、三日月より2日ほど後のやや太くなった月のことだ。その月が沈んで、窓の外には冷気が漂っているのだろう。そのような中、作者は同僚達と残業をしている。自分たちを蟹にたとえ、残業にいそしむ姿を「鋏をふるう」と表現している。一見ユーモラスに思える表現だが、陸地では這うことしかできない蟹にたとえることで、労働者の悲哀を醸し出している。そして「ふるう」という言葉で、労働者の実直さも伝わってくる一首である。作者の労働者への優しいまなざしと、激励の気持ちが良く表れている。(岡東)


      (当日意見)
★月齢というのは何時頃を基準にしていうのかなと思いました。そうしたら残業
  している時間が分かるかなって。(T・S)
★10時頃でしょうかね。詠んだ年が分かれば、そして寒い時期だから何年何月何
 日のことか、特定しようとすれば月齢で日時が特定できますね。(岡東)
★まあ、日にちが特定できても、本当にその日の事実かどうかは分からないですね。
 こういう残業の姿には寒い季節で、月齢5くらいの細さの月がふさわしいだろう
 と考えて配したかもしれませんから。私なら例えその日が満月だっても、5日く
 らいの細い月の方がふさわしいなと考えるでしょうね。そもそも残業そのものが
 事実かどうかも分かりませんから。レポートの蟹は這うことしか出来ないってあ
 って、なるほどそういう必然で蟹かあと思いましたが。(鹿取)
★残業で紙でも切っていたのかしら?蟹だから。(慧子)
★蟹が鋏を振るうのは懸命に残業していることの比喩でしょう。鋏は蟹の特徴で、
 鋏を駆使して働いている姿ってこっけいで哀れじゃないですか。(鹿取)
★やや通俗ですけど、月齢五はいいですね。三日月とかそういう言い方でなくて。
    (A・K)


     (後日意見)
 松男さんによると、月齢五が沈みゆくのは午後10時半ごろだそうだ。月齢五は、たまたま先日(2019年8月5日だったので)見てみたが、かなりふっくらした形状で、シャープな感じではなかった。)(冒頭の写真参照)(鹿取)
コメント
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