かまくらdeたんか 鹿取未放

馬場あき子の外国詠、渡辺松男のそれぞれの一首鑑賞。「かりん」鎌倉支部の記録です。毎日、更新しています。

渡辺松男の一首鑑賞 214

2021-05-05 18:06:27 | 短歌の鑑賞
 渡辺松男研究26(2015年4月)【光る骨格】『寒気氾濫』(1997年)89頁~
    参加者:かまくらうてな、M・K、M・S、鈴木良明、曽我亮子、渡部慧子、鹿取未放
   レポーター:鈴木 良明 司会と記録:鹿取 未放

 
214 切株は面(つら)さむざむと冬の日に晒しているよ 動いたら負けだ

       (当日意見)
★〈天命なりと立ち止まりたるものが樹で止まらず歩いているのが俺だ〉松男さんの第六歌集『自転車
 の籠の豚』にこんな歌があります。(鹿取)
★今挙げてくださった対比的な考えの歌がヒントになって分かりました。「動いたら負けだ」という
 のは木に向かって言っているのではなく、自分は本来は動いているものなんだけど、この時は静
 止している方がいいと思ったのでしょう。動くというのは肉体的な活動だけでなく精神の活動も
 いうので、じっとして考えも止めて、そういうことを自分に言っているのだなあと。(うてな)
★そうですね、理屈を言えば木は言われなくとも動きようがないのだから、木に向かってわざわざ
 「動いたら負けだ」なんって言わない。また、ケースバイケースでこの時は動かない方がよいと
 功利的に考えたのでもない。だからこの言葉は〈われ〉に言い聞かせている。常にこの人は「動
 いたら負けだ」と思っているのでしょう。動いている人間が偉くて、動けない木が劣っているな
 んって考えない人だから。むしろ動かない木の方が上位にあるようにさえ考えているのかもしれ
 ない。人間と植物の境目をあまりはっきりと断絶させない感覚を持っている人だと思う。(鹿取)
★私の見方からすれば、植物の場合は立ち止まるのが天命だし、動物は動くのが天命。だからその
 対比で俺としての見方を言っている。作者は直感で言っているのでこういった進化の過程の話は
 出てこないが、私はこういったことの背景を内側から考えている。動物は植物から進化したけれ  
ど、進化した方が偉いとは渡辺さんは言っていない。切株は外に活路を求めるかもしれないけど、
 いや、「動いたら負けだ」と制止しているように言っている。切株から芽が生えてくる訳だし。
    (鈴木)
★冬の日に晒している「面」、その「面構え」にどっしりした生の有り様を見て「動いたら負けだ」
 と。地にどっしりと座っているそういう状態を優れた生の有り様だと評価している。「動いたら
 負けだ」というのはそういう結果を評価していることば。(鹿取)


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