ブログ版渡辺松男研究11(二〇一四年一月)
【『精神現象学』】『寒気氾濫』(一九九七年)四〇頁~
参加者:崎尾廣子、鈴木良明、渡部慧子、鹿取未放
レポーター:鈴木良明 司会と記録:鹿取 未放
※哲学を専攻しておられるS・Iさんから、過日にアップしたブログの記事に
関して貴重な意見を頂いたので、末尾に追加します。
追加版 96 『精神現象学』的巨大ビルを染め真鍮色の日は落ちてゆく
(レポート)
真鍮色は、黄色っぽいのだが、なつかしくあたたかみのある山の夕陽とはちがい、よそよそしくつめたい人工的な色彩だ。そのような日が、「『精神現象学』的巨大ビル」、すなわち人間の煩悩・欲情等が作り出したビルであり、※その中身も業務・文化・商業など雑多で不統一なものを内包している巨大ビル、の輝きを象徴するかのように染めて、やがて沈んでいったのである。作者は、このような思いを抱きながら『精神現象学的』という言葉を選んだに違いない。 (鈴木)
※『精神現象学』は、初版に異常なほど誤植が多く、目次の内容が不統一、序文がふたつあ るなど制作過程の混乱とヘーゲル自身の立場の動揺がからまって、混乱に満ち、難解。
(発言)
★『精神現象学』は、学生時代、読書会やったけど、私はほとんど理解できなかったです。
それにしても、ここでなぜ精神現象学が二重括弧でくくられているのか、疑問です。本
の大きさとかなら他にも大部の著作はあるので、この歌では当然本の内容について言っ
ているのだろうとは思いますが。(鹿取)
★私は解説本で読んできたんだけど、それでも分かりにくかった。渡辺さん自身もこの難
解な本の不統一な感じが頭にあってこの歌になったのではないか。意馬心猿のようなも
のが作り上げたビルであり、雑多で不統一という両方があったのではないか。(鈴木)
(後日意見)
『精神現象学』は哲学の大伽藍といわれ、それ以後の思想家に大いなる影響を与えた大著であるが、現代においては、それは色や匂いといった生命の息吹をなくした無機質で形骸化した巨大ビルのようである。いまや精彩のない真鍮色の日が、一時代の金字塔を打ち立てたこの書物の落日を象徴するかのように鈍く巨大ビルを染めて落ちてゆくばかりである。(S・I)
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