二階の、プライベート空間に上がった時、私は二呼吸くらい、息を呑んだ気がする。長い廊下の両サイドにずら~っと、この家の息子さんの写真が並んでいたからだった。
彼女とは、古い付き合いだが、私が訪問した時は、いつも下の応接間などで談笑していた。お部屋がたくさんある家で、下だけでも、知らない部屋などが、あと何室もあるようだった。
一階はご主人の父母さまが住まれていたのだが、現在はお二人とも他界されたので、すべて空き部屋。二階は、昔に増築したもので、友人たち夫婦と息子さんだけのプライベート空間らしかった。父母さまも入れたことがないという。
ある日、どういう風の吹き回しか、彼女が趣味で集めている、高価な陶磁器の食器を見せてくれるという。私と、陶磁器のよもやま話をしていた時だったからか。初めて、二階に招待されてしまった。二階には、彼女が特注で作らせたという、頑丈そうなカップボードの中に、それらは美しく陳列されていた。埃ひとつなく。
二階で見せてもらった部屋数は、4つか5つ。それぞれに、陳列や飾ってある物がある。ほかに、ご夫婦のお部屋と、息子さんのお部屋があるのだろう。
彼女はひとしきり説明してくれて、私も、あれこれ質問したりして、一見、会話は弾んでいるようだったが、私にはどうしても、先ほど見た写真の”動揺”が後を引いているのだ。
下の各部屋にも、息子さんが赤ちゃんの時の可愛い写真が、写真立てに飾ってあるのは、前から知ってはいた。子煩悩な人なのだなぁ、と微笑ましく思っていたのだが、なぜ最近の写真ではないのか、古い写真ばかりなのか、腑に落ちない感じはしていた。
アメリカなどの映画では、家族の写真を、たくさん飾っているのをよく見る。お客さんがあると、これは誰で、こっちは誰で、なんていそいそと説明して、麗しい家族愛の証明のようでもある。
日本ではどうなのだろう。むろん、子どもたちが小さい時には飾ったりもするだろうが、ある程度大きくなれば、もういいかなぁ~なんて、大きなパネル写真などは、外したりするかもしれない。
友人の家の長い廊下に貼られた、数十枚のパネル写真が、私の感覚では、異様な気がしたのである。すべて、赤ん坊の時から、幼稚園くらいまでの写真ばかり。このことは、口外してはならないような、そんな妙な気がしてしまった。私の感覚が、鋭すぎるのだろか。これは、杞憂なのだろうか。
なぜ、20代後半になる息子さんの、この時期の写真だけが。。。息子さんは、この写真群を見て、気が重くはならないのだろうか。お母さん、いいかげんにこんな昔の写真、片付けてよ、とは言わないのだろうか。とても言えないような、独特の雰囲気があるのだろうか。
この時期の、一番可愛かった息子を、彼女は忘れたくないのかもしれない。僕は、大きくなったら、お母さんのような女のひとと結婚したい、と言っていた息子を、今も頬染めて、誇らしげに語る彼女。
若い頃と体型が変わらないお母さんと、仲良く肩並べて歩くいとしい息子。おそろいの細身のジーンズを穿いて、後ろから見ると、まるで恋人同士のよう。。。そんなことを、微笑んで自慢する母親。遠い目になっている。息子さんは、コレ重くないのかな。
彼女は、完璧なひとである。家は埃ひとつないし、なにもかもが手作り。成人した息子の洋服も、高価な生地を買ってきて、これも手作りしている。およそ手抜きということをしない。家事万般、抜群の気力と体力で、とことん最後までやり通す。挫けることもないし、弱音を吐くこともない。
病気になっても、飲まず食わずで寝ながら、ひとりで治す。誰かに助けを求めることもなく。徹底的に「強気」なのだ。こんなひと、めったにいないような気がするのだけれど。
ウィークポイントは、一人息子だけかもしれない。変な虫が付いたらたいへんとばかり、ガールフレンド関係には目を光らせていた。彼は、高校卒業時まで実家にいたが、女の子と付き合ったことはないと思う。
大学を出てから、就職した今も、東京で一人暮らしをしていて、”恋人”などがいる気配はない。母親としたら、その方が心配ではないかと思うが、彼女はそれで大満足しているのだ。あの調子では、息子さんも恋人がいたとしても、紹介するのをためらうかも知れない。
この前、娘と話した時に、こんな写真がずら~っと、両サイドに掲示されているのを、どう思う?と聞いてみた。ひぇ~、それは引くよ、引きまくるよ、恋人にも見せられないよ~、と。う~ん。やはり、そうなのか。。。
息子さんは、今は、ほとんど家に戻ってこない。お正月も1日だけ夕方に戻ってきて、次の日の朝、さっさと帰って行ってしまうという。よほど、居心地が良くないのだろうか。友人が言うには、用事があって電話しても出ないし、メールしても、なかなか返事が返ってこないんだから、と嘆いていた。
反抗期のなかった彼も、いよいよ親離れの時期に入ったのだろうか。機嫌の良くない時も、息子さんの話題を出せば、とたんにニコニコして、自慢話に花が咲いていた友人も、最近は、息子さんの話題を避けているようだ。
完璧主義者の彼女の、唯一思い通りにならなかった、そんなウィークポイントを、少し恥じてでもいるのだろうか。私は、それでいいのよ!、と心の中で、息子さんにエールを送っているのだけれど…(苦笑)

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(カテゴリーを人文からエッセイに変え、お世話になった「日記ブログランキング」さんからは撤収いたしました。今までの温かい応援、心から感謝します。ありがとうございました)
お陰さまで本日は、な、な、なんと~!17位辺りデス
彼女とは、古い付き合いだが、私が訪問した時は、いつも下の応接間などで談笑していた。お部屋がたくさんある家で、下だけでも、知らない部屋などが、あと何室もあるようだった。
一階はご主人の父母さまが住まれていたのだが、現在はお二人とも他界されたので、すべて空き部屋。二階は、昔に増築したもので、友人たち夫婦と息子さんだけのプライベート空間らしかった。父母さまも入れたことがないという。
ある日、どういう風の吹き回しか、彼女が趣味で集めている、高価な陶磁器の食器を見せてくれるという。私と、陶磁器のよもやま話をしていた時だったからか。初めて、二階に招待されてしまった。二階には、彼女が特注で作らせたという、頑丈そうなカップボードの中に、それらは美しく陳列されていた。埃ひとつなく。
二階で見せてもらった部屋数は、4つか5つ。それぞれに、陳列や飾ってある物がある。ほかに、ご夫婦のお部屋と、息子さんのお部屋があるのだろう。
彼女はひとしきり説明してくれて、私も、あれこれ質問したりして、一見、会話は弾んでいるようだったが、私にはどうしても、先ほど見た写真の”動揺”が後を引いているのだ。
下の各部屋にも、息子さんが赤ちゃんの時の可愛い写真が、写真立てに飾ってあるのは、前から知ってはいた。子煩悩な人なのだなぁ、と微笑ましく思っていたのだが、なぜ最近の写真ではないのか、古い写真ばかりなのか、腑に落ちない感じはしていた。
アメリカなどの映画では、家族の写真を、たくさん飾っているのをよく見る。お客さんがあると、これは誰で、こっちは誰で、なんていそいそと説明して、麗しい家族愛の証明のようでもある。
日本ではどうなのだろう。むろん、子どもたちが小さい時には飾ったりもするだろうが、ある程度大きくなれば、もういいかなぁ~なんて、大きなパネル写真などは、外したりするかもしれない。
友人の家の長い廊下に貼られた、数十枚のパネル写真が、私の感覚では、異様な気がしたのである。すべて、赤ん坊の時から、幼稚園くらいまでの写真ばかり。このことは、口外してはならないような、そんな妙な気がしてしまった。私の感覚が、鋭すぎるのだろか。これは、杞憂なのだろうか。
なぜ、20代後半になる息子さんの、この時期の写真だけが。。。息子さんは、この写真群を見て、気が重くはならないのだろうか。お母さん、いいかげんにこんな昔の写真、片付けてよ、とは言わないのだろうか。とても言えないような、独特の雰囲気があるのだろうか。
この時期の、一番可愛かった息子を、彼女は忘れたくないのかもしれない。僕は、大きくなったら、お母さんのような女のひとと結婚したい、と言っていた息子を、今も頬染めて、誇らしげに語る彼女。
若い頃と体型が変わらないお母さんと、仲良く肩並べて歩くいとしい息子。おそろいの細身のジーンズを穿いて、後ろから見ると、まるで恋人同士のよう。。。そんなことを、微笑んで自慢する母親。遠い目になっている。息子さんは、コレ重くないのかな。
彼女は、完璧なひとである。家は埃ひとつないし、なにもかもが手作り。成人した息子の洋服も、高価な生地を買ってきて、これも手作りしている。およそ手抜きということをしない。家事万般、抜群の気力と体力で、とことん最後までやり通す。挫けることもないし、弱音を吐くこともない。
病気になっても、飲まず食わずで寝ながら、ひとりで治す。誰かに助けを求めることもなく。徹底的に「強気」なのだ。こんなひと、めったにいないような気がするのだけれど。
ウィークポイントは、一人息子だけかもしれない。変な虫が付いたらたいへんとばかり、ガールフレンド関係には目を光らせていた。彼は、高校卒業時まで実家にいたが、女の子と付き合ったことはないと思う。
大学を出てから、就職した今も、東京で一人暮らしをしていて、”恋人”などがいる気配はない。母親としたら、その方が心配ではないかと思うが、彼女はそれで大満足しているのだ。あの調子では、息子さんも恋人がいたとしても、紹介するのをためらうかも知れない。
この前、娘と話した時に、こんな写真がずら~っと、両サイドに掲示されているのを、どう思う?と聞いてみた。ひぇ~、それは引くよ、引きまくるよ、恋人にも見せられないよ~、と。う~ん。やはり、そうなのか。。。
息子さんは、今は、ほとんど家に戻ってこない。お正月も1日だけ夕方に戻ってきて、次の日の朝、さっさと帰って行ってしまうという。よほど、居心地が良くないのだろうか。友人が言うには、用事があって電話しても出ないし、メールしても、なかなか返事が返ってこないんだから、と嘆いていた。
反抗期のなかった彼も、いよいよ親離れの時期に入ったのだろうか。機嫌の良くない時も、息子さんの話題を出せば、とたんにニコニコして、自慢話に花が咲いていた友人も、最近は、息子さんの話題を避けているようだ。
完璧主義者の彼女の、唯一思い通りにならなかった、そんなウィークポイントを、少し恥じてでもいるのだろうか。私は、それでいいのよ!、と心の中で、息子さんにエールを送っているのだけれど…(苦笑)

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よく考えたりしますねー。
鬼に爆笑されそうですが・・・
大きくなったら
個人の人格を尊重しつつ
厳しく育てたいと思っているんですがね・・・
良くも悪くも
自分の経験に頼るしかないか
できそこないの娘だけど
お母さん大~好き
・・・こんな私は子育て失敗作なのか
まあまあ成功だったのか
ぜひ母に聞いてみたいモンである
私も一応エッセイにはおりますので・・・。
トーコさんよりはだいぶ下のほうになっていると思います。(笑)
私のはエッセイという感じではありませんので、どうかもっと上を目指してがんばってください。
私も応援します。ぽちっと。
その方は「息子離れ」ができていない。
なにかの理由で、「息子離れ」のチャンスを見逃したか、チャンスが訪れなかったか。
旦那に対する不満や不安が、息子依存になっているのかも知れませんね。
完璧主義の人ほど、身近な亭主には不満があって、その分、息子への期待が膨らんでしまったのでしょうか。
もはや息子からは言えませんしねえ。
旦那の出番があったはず。
もう旦那には無理かもしれませんね。
その奥さんが自発的に、ドンドン外へ出て、新しい世界を見つけるしか道はないと思います。
いい加減な、まさちゃんとは、まるで正反対。。
でも、主人が若い頃、ホームスティに行って、外国の家庭に家族の写真がキレイに飾ってあって、素敵だったと、マイホームでも、子供達の写真は結構、並んでるわ~ぐちゃぐちゃにね
写真、いい感じだね
こんな雲、そんなにうまく撮れないよ~
トーコさんの写真は、いつも素敵だわ
何らかの弱点があったほうがよいのです。
「大きな道」さえ外さなければ多少の寄り道もよいと思います。
本当はこの息子さんも古い写真など片付けて欲しいと思っているのでしょう。
それに気が付かないお母さんは気の毒です。
「親離れ、子離れ」ができていない家族が増えているようです。
トーコさんのところも気をつけてね。
真似できない!
広い大きなお家だから、写真もズラリと飾れるのね。
息子さんも息苦しかったのでしょう。
でも子育てに関しては人の振り見て、我が振り直せです。
他人のことは言えない私です。
息子がまだ結婚する気が無いのです。
少し変人です~う。
トーコさん、どうしたらいいでしょうか?
お知恵を借りたいです。
十人十色とは言うけれど、
いろんな性格のお母さんがいるのでしょうね。
うちのお父さんはそうでもないけど、
お母さんは見た目が若いんです。
玄米を食べているせいか肌もとっても綺麗!
私も母親のように年を取りたいなと思っています。
気も若いんです~~~*^-^ポチ♪
そう、お母さん大好き~~なの
子どもがどうなったら、子育て成功なのか、よく分からないよね。
途中まで(親が思うような)良い子でも、人生どこでどうなるか、、、問題がないのが問題、ということもあるし。
親としては、最後の最後まで、自分の子どもを信じるしかない、と私は思っています。
お母さんは、満足しているはずですよ。minoyuikiさんが優しく賢い女性に育ってくれて
1歳児の子育て、頑張らないで?頑張ってください。コメント、ありがとうございました
通ってる病院の奥様も全く子離れ出来ないといってましたぁ
もう二十歳過ぎてるんだしあまり干渉したりしたら彼女に『マザコン』って言われたりするんだよ~って言っといた(*´艸`)
はぁ、ありがとうございますぅ。「鼻毛日記」のカテゴリー割合を変えたのですね?それで「エッセイ」部門で、私の頭上から消えたように見えて。。。ハイ、確認しました~(笑)
お笑いの天才・たくたくろさん!私もアナタを応援しています!
ブログには、日参しますから、頑張ってくださいね
コメント、ありがとうございました(合掌)