Humdrum++

ツリオヤジのキドニーケアな日々 ~ 知れぬ事は知れぬまゝに、たやすく知れるのは浅い事 (葉隠 聞書第一0202)

カーブの向こう・ユープケッチャ - 安部公房 (新潮文庫)

2024-11-14 05:26:08 | 読書メモ

方舟さくら丸」を読み返してみて、そういえばこの話の元になっている「ユープケッチャ」は読んでなかったと気づき、読んでみることに。

安部公房の代表的な長編作のベースとなっている作品を含む短編集です。

目次はこちら。

「ごろつき」は、『文學界』昭和30年12月号に掲載。
戦後、まだGHQに占領されていた頃の混乱期、靴磨き少年とやくざの話。「壁」が芥川賞を取ったのが昭和26年。初期の短編です。後年の作品とは異なる出色ですが、立場の逆転→価値観の反転、といったところが安部文学らしいところでしょうか。

「手段」は、『文藝』昭和31年1月号に掲載。
保険金詐欺の挫折の話。よくありそうな話だけど、"簡易交通傷害保険自動販売機"というのがいかにも安部公房が考えそうな機械で面白い。

「探偵と彼」は、『新女苑』昭和31年1月号に掲載。
新女苑って初めて耳にした。調べてみると、昭和12年から34年までの間に実業之日本社から発刊されていた女性雑誌だそうです。主婦の友や婦人倶楽部とは一線を画したモダンな紙面だったとか。
この小作品は、思い込みに囚われた少年の話で、あんまり安部公房らしさが感じられない作品。

「月に飛んだノミの話」は、『婦人公論』昭和34年11月号に掲載。
絶望論的なソ連ノミや楽観論のアメリカノミが月着陸を機に戦争を論じ、最後は哲学的領域の笑いを浮かべつつ叩き潰されるというシュールな話なのですが、婦人公論ってこういう小説が載る雑誌なのだろうか?読んだことないけど。

「完全映画」は、『SFマガジン』昭和35年5月号に掲載。
SF小説と推理小説を合体させたような斬新な短編。とくにSFの部分は安部公房らしい慧眼が現われていると思いました。スクリーンを使わず、直接脳神経に画像を送るということを、わしが生まれる以前から考えられていたのにはびっくり。また時間圧縮の概念も今風かなと思います。この本と並行して、平野啓一郎の「本心」を読んでいたのですが、そこに登場する"縁起"というソフトを思い浮かべました。

「チチンデラ ヤバナ」は、『文學界』昭和35年9月号に掲載。
冒頭から、これは「砂の女」の元になった作品だということがわかります。昆虫採集に行った男が、女のいる宿を借り、一夜が明けてそこから出られない、ところで話が終わります。「砂の女」はこの続編というか完全版といったところでしょうか。
チチンデラヤバナとは、ニワハンミョウの学名だそうです。

「カーブの向こう」は、『中央公論』昭和41年1月号に掲載。
この作品は「燃え尽きた地図」の元になっているとのことですが、読み終えてもわからなかった。どこが「燃え尽きた地図」につながるのだろう?と、まるでカーブの向こうの世界がわからなくなった男のようになりました。というのは、最後の電話に出た女のことを、男の妻であると勘違いして読んでしまったためでした。

「燃え尽きた地図」を読み直して、ああ、そうかと誤読が解けました。電話に出た女は、依頼者だったと気づき、話がつながりました。

それはさておき、「カーブの向こう」が発表されたときはまだ「燃え尽きた地図」は世に出ていません。掲載当時に中央公論で「カーブの向こう」を単独で読んだ読者は、この話の意味がわかったのでしょうか?あらかじめ「燃え尽きた地図」を読んでいたからこそ、記憶喪失とS字バッジ、電話の女がつながったのですが、そうでなければ、不可解なまま終わりそうな話です。単純に、失われた記憶に混乱する男を描写したという短編なのでしょうか?

「子供部屋」は、『新潮』昭和43年1月号に掲載。
これも何かの作品の元になっているのだろうか?「第四間氷期」のワードがでてきたけど、「第四間氷期」は昭和34年の作品なので時期が合わないか。お見合いシステムで知り合った男女の、男の子供部屋をめぐる奇妙な物語です。

「ユープケッチャ」は、『新潮』昭和55年2月号に掲載。
これは「方舟さくら丸」の元になった作品。舞台設定はけっこう異なりますが、石切り場でトイレにハマるところは一緒。この作品だけ読むと、その意味を理解するのはかなり難解だと思います。先に「方舟さくら丸」読んでおいてよかった。安部公房らしい前衛小説だと思います。

と、いろいろな作品の元になっている作品もあり、面白く読めました。
時間を整理してみると、

・「チチンデラ ヤバナ」昭和35年9月 → 「砂の女」昭和37年
・「カーブの向こう」昭和41年1月 → 「燃え尽きた地図」昭和42年
・「ユープケッチャ」昭和55年2月 → 「方舟さくら丸」昭和59年

と、数年後に長編が完成されているのがわかります。

こちら書誌事項。

新潮文庫から出ている安部公房作品上記20冊のうち、読んでないのが8冊ありました。
この機会に全部読んでみますか。
学生時代に読んだっきりで内容をあまり覚えてない本あるので、そこいらも読み直してみようかなという気になっています。

安部公房の作品は、時代をあまり感じさせないです。いまの時代に読んでも、どんな世代が読んでも楽しめると思います。

ブログランキング・にほんブログ村へにほんブログ村

p.s. 寝巻が古くなったのでユニクロでスエット買ったのだけど、ここも価格上がってないか?


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« さようなら毎日新聞 | トップ | 次の記事へ »

コメントを投稿

読書メモ」カテゴリの最新記事