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このところ社会との距離感がある生活をしていて、世の中の流行を追うことなんぞ皆無なのですが、せめて本くらいは新しいものを読んで若い人の文化を追っておかないと、と買ってきたのがこちらの本。
新しい本についての情報アンテナが鈍いわしのような人にうってつけなのは、芥川賞などの受賞作品。
しかもこの帯には「品の無い煽り文句」が書かれていなくて好感が持てます。
内容紹介はこんな感じ。
主人公は記憶を失ったまま島に流れ着いた宇実という少女。
この島では、ノロと呼ばれる指導者達がいて、ノロは女性しかなれない、また女性だけの言葉があるという設定です。物語中では3つの言語が登場しますが、初めの方に出てくる主人公が使う言語の定義部分からは、この物語が近未来を示していることが伺えます。
おそらくは「猿の惑星」のようなエンディングになるのだろうな、ということが最初の頃から想起されます。
言語が複数存在するのはなぜか?ノロが女性限定なのはなぜか?島の外はどんな世界なのか?の謎は、終盤近くになって一気に解明します。
男性優位主義、国粋主義、外国人差別、LGBTの問題が小説の随所に内包されていて、作者の主題はわかりやすいと感じました。アベスガの閣議決定指向を皮肉ったような一文もあって微笑ましい。読みやすいながらも、緊張感が最後まで続く文体で、一気に読むことができました。冒頭と最後の、そして随所にでてくる彼岸花の描写は美しく、芥川賞らしい作品ではないかと思います。
ただし、リアリティという点ではいくつか難がみられ、ひとつは侵略に対する認識、もうひとつは権力移譲についてのところで、これらがおおざっぱな感は否めません。「大人のための寓話」という印象を受けます。
作者は前述のような差別、不条理に対しての問題提起をしているし、思想的な特徴も明確に表れているように見えますが、物語の結論は非常にポジティブな内容です。物語最後の游娜の決断こそが、作者が読者に伝えたいことではないだろうか、というのが感想です。
作者のプロフィール。台湾人なんですね、外国人であることを感じさせない美しい文章です。
書誌情報はこちら。
第165回芥川賞は2作品の受賞でした。もうひとつの作品はこれから読みます。
p.s. 蕎麦、鮭と高カリウムメニューが入ったけど許容範囲。2品までは大丈夫か?
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