地震リスク delphis manta blue

身近な地震リスク 減災を目指して

<復興を願い 2011.3.11東日本大震災>
<未曾有の巨大災害 記録>

東海地震に備えて(第三回)

2007-01-27 | 地震リスク
東海地震リスク対策として有名な企業は東証一部の(株)巴川製紙所である。同社は日本で初めて地震災害時発動型ファイナンス(Contingent Debt Facility、C.D.F.)の導入を行った。静岡県を拠点とする同社は、東海地震発生時に、復旧投資等を速やかに実施するための資金調達が必要となる。その確実性を高めるためにこの地震災害時発動型ファイナンスを導入した。

日本政策投資銀行、三井住友海上火災、静岡銀行、みずほ証券とSPC(特別目的会社)によるスキームを作成、三井住友海上、静銀がシンジケート団として10億円を資金供給し、残り30億円を一般投資家からの資金供給を受け、その30億円部分を日本政策投資銀行が保証する。巴川製紙は事前にそのSPCとローン予約を交わし震災発生時に融資を受ける仕組みだ。SPC方式は過去に外資系証券会社を中心に証券業界、銀行業界ではバブル期以前に証券投資、金融デリバティブのスキームとしてバミューダ等に相次いで設立されており蓄積されたノウハウはあった。保険分野でもカタストロフィ債券(自然災害債券)のスキームは同様のSPC方式が一般的となっているようだ。

地震災害時発動型ファイナンスは、従来の保険会社が提供する首都圏や東海地方の企業向け地震保険の確保が困難になる中、また、地震による損害発生時の保険会社の査定時間、査定額が不確実な中、直ちに必要不可欠な震災復旧資金の一部を事前に手当てしSPCが安全資産で運用することにより、災害時のキャッシュフローを補完する役割を持つ。

巴川製紙の平成17年3月期決算短信(連結)の「事業等のリスク」には東海地震に備えて次のように書かれている。
〔平成17年3月期決算短信(連結)の「事業等のリスク」抜粋〕
(1)東海地震発生による影響
当社グループの生産活動の主体は静岡県静岡市で行っており、東海地震が発生した場合は、その規模によっては相当期間、生産、営業活動に影響を与える可能性があります。この対策として下記を実施しています。
①生産建物、設備に対して専門家による耐震強度の測定を実施し、その結果に基づき耐震補強工事を実施済みです。
②茨城県(電子材料事業)、北米(化成品事業及びIJ用紙事業)にも生産拠点を持っており、リスク分散を行っています。
③地震保険等により、財務的な損害対策及び資金繰りの確保を行っています。
④地震災害時発動型ファイナンス(Contingent Debt Facility、C.D.F.)の導入によって大震災罹災後、現預金の取崩や手形割引に頼ることなく直ちに40 億円の復旧資金を借入れることが可能となり、罹災後の流動性の確保に万全を期しています。

同社の経営者、社員の地震に対する危機管理能力の高さと実行力には尊敬の念をいだき見習いたいところだ。

地震災害時発動型ファイナンスがさらに発展してきている。昨年10月に日本政策投資銀行、三菱UFJ信託銀行、日興シティーグループ証券の共同で複数企業に対応できる震災時発動型融資予約スキームを組成した。震災時融資の原資となる資金プールに信託スキームを採用したことで複数企業に対応できる仕組みだ。第一号案件は静岡市に本社のある鈴与(株)で50億円の契約を締結した。

本来、リスクに対する商品開発は保険会社が提供するのが主流と思っていたが、今では保険会社より銀行、証券会社等の金融機関がその金融技術とリスク評価会社RMS社の地震リスク分析力の融合により企業の望む地震リスク対応商品を生み出している。今後のさらなる商品開発に期待したい。(続く)