自殺の波紋(PART 1)
母の自殺
忘れもしない小学校3年生の冬、その日はよく晴れていて午後から友達と遊ぶ約束をし、教室を後にした。
それはごく普通の土曜日だった。
家に帰ると、何やら小屋のほうがさわがしい。
好奇心おう盛な私は走って小屋に向かった。
しかし、何やら様子がおかしい。
小屋に入ろうとしたとき、「入るな! 家に戻っていなさい」
おばさんの声に少し驚いた。
しかし、私はみてしまった。
ひもに首をくくり天井からぶらさががっている母の姿を……。
あまりのしょう撃だった。
目の前が真っ白になった。
もう何も考えられなかった。
その日の朝、ノイローゼ気味の母の態度に腹が立ってケンカして家を出た。
あのとき、私が母をもっといたわってあげていれば……。
後悔だけが頭の中で渦巻いていた。
私が母さんを殺したんだ。
一生背負わなければならない「後悔」の二文字。
自殺を考え続けた日々……。
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私の家は農家だった。
一年中休むことなく早朝から夜遅くまで畑仕事をしている。
「だから農業なんて大っ嫌いなんだ」と父に言うと、とても悲しい顔をした。
母は、祖母とも仲が悪く何度も妹を連れて家を出たときもあった。
離婚を考えた直後の出来事だった。
農業のつらさ、子育てのこと、祖母のこと、母はたくさんのストレスでノイローゼになっていたのだ。
大好きだった母。
たった一人の母。
友達の「今日のお弁当なんだろう?」の一言がとてもうらやましかった。
自分で作ったお弁当は大好物のものでもマズイ。
普通に幸せにしているヤツをみると腹が立ってしょうがなかった。
だから私はイジメをしたときもあった。
まだ若い女の先生に母の愛を求めてわがままを言って困らせたときもあった。
本当に大好きだった母。
祖母も70歳を過ぎ、父も障害が悪化し、いつ倒れてもおかしくない状況にある。
こんな状況でも農家の重労働をして生きていかねばならない。
低収入、重労働、精神の苦痛。
今度は後悔なんてしたくない。
大好きな家族はもう失いたくない!
しかし、生きてゆくのはこんなにつらいものかと思うと、悲しくてしょうがない。
祖母は時々言う。
「こんなにもつらいものなら死んだほうがましだ」
とてもやるせない気持ちになる。
もう二度と後悔なんてしたくない。
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(注: 赤字はデンマンが強調。
写真とイラストはデンマン・ライブラリーより
読み易くするために改行を加えています)
352-354ページ 『自殺のサインを読みとる』
著者: 高橋祥友
2008年1月16日 第1刷発行
発行所: 株式会社 講談社
デンマンさん。。。 これは、あんさんの妹さんとお母さんの話やのォ~。。。?
いや。。。、ちゃうねん。。。『自殺のサインを読みとる』という本を夕べ読んだのやがなァ。 その本の中の上の手記を読んだら、わては泣けてしもうたのやァ~。。。
なんで、あんさんが上の手記を読んで泣きはるのォ~。。。
幸いに、わての親戚には自殺をした者はおらへんのやァ。 そやけど最近、奇跡的に助かった、わてのおカアはんから、わてのすぐ下の弟が高校生の頃に通学電車に飛び込み自殺を企てたということを聞かされたのやがなァ~。
あんさんは最近まで知らへんかったのォ~?
そうなのやァ。
どうして、あんさんの弟はんは自殺をしようと思いはったん?
高校の時の担任の先生との人間関係がこじれたらしいのやァ。 わての弟は陸上競技部で埼玉県の体育大会などで優秀な成績を収めるようになった。 埼玉県の名の知れた進学校やったけれど、学業の方はさっぱりで、授業をサボってはグラウンドで練習をしておるというのやァ。 そやから、担任の先生も何度となく注意をしたらしい。
でも、弟はんは先生の言うことを聞かへんかったのォ~?
そうなのやァ。 学校の成績は落ちる。 先生には叱られてばかりいる。 次第にクラスの中でも孤立してゆくようになったのやがなァ。 先生も荒っぽい先生らしかったのやァ。 そやから、弟は先生をかなり恨んでいたらしいのや。
どうして先生を恨んでいたと判るのォ~?
弟が卒業してから数年たって、匕首(アイクチ)で担任の先生の“どてっぱら”を刺す絵まで描いて脅迫状まがいの年賀状を出したのやがなァ。
それで先生は警察に訴えはったのォ~?
いや。。。 先生も、そこまでして事を大げさにするのは、みっともないと思ったのやろなァ。 わてのオヤジは、当時小学校の校長を退職して鴻巣市の児童相談員をしておったのや。 その担任の先生は、わてのオヤジのところに青い顔をして飛んでいって「お宅の息子さんがこのような脅迫状を送ってきました。 先生からぜひ止めさせるように言ってください」とマジで訴えたと言うのやァ。
つまり、その担任の先生は、その脅しの年賀状を冗談では済まされないと思いはったのやねぇ~?
そうらしいでぇ~。。。 普通ならば「悪ふざけ」と思って、ほおっておいてもいいのやけど、担任の先生には弟から殺されるかもしれないと。。。 心のどこかに思い当たるようなイジメをしていたのやろなァ~?。。。
それで、弟はんが通学電車に飛び込み自殺を企てたのは、その年賀状を書く前やのォ~?
そうやァ。
そやけど、どないなわけで自殺を思いとどまりはったん?
お袋の言うには、「電車に飛び込もうとするのやけど、かあちゃんが悲しむ顔がどうしても目の前にちらついてきて、何度か試したけど、どうにも飛び込めんかった。。。」 そう言ったというのやァ。
そうやのォ~。。。 そのことが思い出されてきて、あんさんは上の手記を読んで涙が出やはったん?
ちゃうねん。。。
ちゃうのやったら、どうして弟はんのエピソードを持ち出して気やはったん?
その後で、めれちゃんの自殺のことが思い出されてきよったのやがなァ~。
存在を否定してくれ
みんなわたしを否定してくれ
わたしの存在を否定してくれ
自分ひとりじゃ間に合わないんだ
みんなでわたしを否定してくれ
石ころのように扱ってくれ
虫けらのように踏みつけてくれ
やりきれない喪失感に
苛まれて生きるのはもうたくさんだ
自分のすべてを否定したいんだ
自分が存在することに吐き気がするんだ
命を断とうとしたさ
何度も何度も自分を破壊しようとしたさ
マヌケな命はそれでもこの世に
未練がましくのさばってるのさ
存在を消してしまいたい
誰からも見られたくない
めれんげ
August 28, 2009 15:19
『極私的詩集 存在を否定してくれ』より
『愛のコラボ (2009年9月29日)』に掲載
めれちゃんは、こうして何度も死のうとしたのやがなァ~。。。
あんさんは、こないな手記まで保管しておったのォ~?
そうやがなァ~。。。 めれちゃんの書いたものは何であれ、めれちゃんのようにイトオしいものやのやでぇ~。。。
それで、あんさんは何が言いたいねん?
あのなァ~、めれちゃんには生まれながらに生きなければならない運命にあったのやァ。 そやから、めれちゃんも次の「あつ子」さんのように自殺の淵(ふち)から生還したのやがなァ。
ホテルの最上階から飛び降り
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私が最後の大事件を起こしたのは昭和56年(1981年)のことだった。 (略) 私はある男性を追って大阪に来ていた。
恋愛をしたつもりが、どうも相手にとっては恋愛ではなかったようだった。
私は赤坂の店を放り出して神戸のホテルに行き、フロントで「最上階の部屋をお願いします」と頼んだ。
(中略)
私は大阪府警に電話を入れた。
大阪府警には、東京から出向している警察官僚がいた。
母の人脈に連なる一人である。
その人を呼び出すと、私は電話口に向かっていった。
「これから飛び降りますから発見してください」
(中略)
新大阪行きの新幹線の中で、母とお兄ちゃんは一切口をきくことはなかった。
娘が飛び降り自殺を図り、大阪の警察病院に救急車で担ぎ込まれたという事態は、これまでのリストカットとはわけが違う。
警察からは私が生きているという連絡を受けていたが、二人は何も考えられない状態になっていた。
病院に入ってきたお兄ちゃんは、ワイヤーで足を固定されている私に何か言葉をかけていたようだ。
しばらくしてお兄ちゃんのこんな声が聞き取れた。
「お前、もう本当にこういうことはやめろよ、本当に!」
引っかかった木がクッションになって、私は助かったのだという。
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(注: 赤字はデンマンが強調。
写真はデンマン・ライブラリーより
読み易くするために改行を加えています)
163-165ページ 『昭(あき) 田中角栄と生きた女』
著者: 佐藤あつ子
2012年3月11日 第1刷発行
発行所: 株式会社 講談社
『ビルから飛び降りるの?』に掲載
(2013年1月20日)
わたしも「あつ子」さんのように助かる運命にあったと、アンさんは言わはるのォ~?
その通りやァ。。。 『自殺のサインを読みとる』の中にも、めれちゃんのような「境界性パーソナリティ障害(ボダ)」を患っている人のことが次のように書いてあったのやァ。
境界性パーソナリティ障害では、感情が極端なまでに不安定で、抑うつ気分から、突然、強い不安焦燥感や、激しい怒りへと変化する。
また、他者に対して、正当な評価が下せず、あるときは極端に理想化したかと思うと、突然、すべての価値を否定したりするため、安定した人間関係が保てない。
他者から見捨てられるかもしれないという不安も非常に強い。
他者に対する信頼関係を保てないばかりでなく、自分自身に対しても自信がなく、空虚感や否定的な自己像に悩んでいる。
性的な逸脱行為、薬物乱用、摂食障害、自傷行為などもよく認められる。
短期間ではあるが、統合失調症に類似した症状が出現したり、一時的に記憶を失うようなことも起こる。
(中略)
安定した対人関係を保つのも難しくなり、再三、自らを傷つける行動にでる。
アルコールや薬物の乱用、摂食障害の合併もめずらしくない。
単に薬物療法だけでは問題は解決せず、人格全体を取り扱い、問題解決能力を広げてゆくような心理療法が必要になる。
(注: 赤字はデンマンが強調。
読み易くするために改行を加えています)
80-83ページ 『自殺のサインを読みとる』
著者: 高橋祥友
2008年1月16日 第1刷発行
発行所: 株式会社 講談社
めれちゃんも薬物に依存したり、リストカットをしたり、自殺まがいの事をいろいろとしたのやがなァ~。。。
あんさんは、それ程わたしのことを心配してくれはったん?
もちろんやがなァ~。。。 めれちゃんもおカアはんとは、うまくいってなかったのやがなァ。 そやけど、めれちゃんのおカアはんは冒頭の手記の中の母親のように自殺するような人ではあらへんかった。 でもなァ~、めれちゃんのおカアはんだってぇ、めれちゃんのことを心配しているのやでぇ~。。。 そやから、たまにはめれちゃんのおカアはんが自殺していなくなってしまうことを考えてみィ~なァ。 きっと、手記を書いた女の子のように、めれちゃんも最愛のおカアはんを亡くせば心を悩ませることになるのやでぇ~。。。
そうやろか?
そうやねん。。。 そやから、冒頭の手記を読みながら、わてはめれちゃんに感情移入をして涙がこみ上げてきよったのやがなァ。
でも、それはあんさんの思い過ごしですねん。
さよかァ~。。。?
わたしは次のように「境界性パーソナリティ障害(ボダ)」を克服しましてん。
(すぐ下のページへ続く)