レンゲさんと清水君は文字通り毎日愛し合っている。だから、二人の人間関係には問題があるとは思いませんよ。
何が問題なんですの?
だから、僕がおととい言ったように、レンゲさんには“足るを知る”と言う気持ちが欠けているんですよ。こだわる必要のない事にこだわっているんですよ。
こだわっていませんてばああああ。。。。あたしは、ただ。。。あたしは、デンマンさんに抱かれた時のように。。。イキたいと。。。ただ、そう思っているだけですわぁ~。
ほら。。。ほらぁ~~。。。また、レンゲさんは同じことを言うゥ~~僕は泣き出したくなりますよぉ~~。んも~~。。。僕はレンゲさんを抱いたわけではありませんよ。去年の夏、レンゲさんは怖い夢を見たと言って僕の部屋に入ってきたんですよ。まるで8歳の女の子のように、べそを浮かべて僕の部屋にやってきたんですよ。そんなレンゲさんを見たら、むげに突き飛ばして追い返すわけにもゆかないでしょう?だから僕はレンゲさんに“怖がらないようにね。。。”と寅さんのように優しくハグしたんですよ。。。ねっ?そうだったでしょう?
そうかもしれませんわ。。。でも、。。。でも、。。。とにかく、デンマンさんのベッドの中で、デンマンさんの腕の中であたしはイッタんです。
そういう風に言うから誤解を招くんですよ。んも~~。。。僕とレンゲさんはエッチしたわけではないんですよぉ~。
だったら、あたし、どのように言えばイイのですかぁ~?
だから、誤解を与えるような場合には黙っていればいいじゃないですかぁ~~。
もう、言ってしまいましたわぁ。うふふふ。。。
うふふ、じゃないですよ。ったくうゥ~~。。。仕方ありませんよ。僕はできる限りここで弁解しますよ。
どのように?。。。うふふふ。。。。
僕をこのような苦しい立場に追い込んで、楽しんでいるのですかああああ?
デンマンさんがどのように、こじつけて説明してくださるのかと思って楽しみなんですわぁ。
ではね、まず次の定さんに関わった人の証言を読んでくださいよ。
前代未聞の阿部定事件が発覚すると、それは野火のように瞬く間に日本全国、津々浦々まで広がる勢いを示した。
各新聞は一斉に号外を出して「阿部定逮捕」を報じた。
このとき、国会では2つの委員会が開かれていた。
ところがこの号外を耳にした委員長は緊急動機を発令し会議を中断するほどだった。
委員会の全員が号外を手にして、それこそ世界大戦争が始まったかと思うほどに、血眼(ちまなこ)になって号外を読み耽った。
当然の事ながら阿部定さんが異常性欲の持ち主だと言う事が噂され、この種の噂は後を絶たない。
定さんと関係した男たちは、彼女がオーガズムに達すると体が震え出し、それから1時間近く失神していたと証言した。
中京商業高校の校長の大宮五郎先生は、最初に定さんと関係したとき、欲情した彼女の淫水が多いことに驚いて、病気ではないかと思ったと述べている。
定さんの精神鑑定をした東京帝国大学の村松常雄教授は、彼女を先天的なニンフォマニア(nymphomania:淫乱症)と診断した。
『阿部定事件の波紋と後半生』より
デンマンさんも定さんが淫乱症の女だと思っているのですか?
イヤ、決してそう思っているわけではありませんよ。僕は定さんは普通の女性とあまり変わるところがなかったと信じていますよ。
なぜ、そのように思うのですか?
むしろ、ある意味では性的に晩生(おくて)じゃなかったのか。。。?なぜならね、定さんが初めて抱かれたのは15才の時だったわけですよ。でも、男の腕に抱かれるようになって、本当に体の歓びを感じ、癒されるという思いに浸ったのは28才になってからですよ。このページの初めに引用した文章の中に書いてある通りです。
このためにデンマンさんは、初めの文章を引用したのですか?
そういうわけですよ。定さんが女性として開花したのは初体験の時から数えて13年目ですよ。でも、定さんが男に対して単純なパターンで対応していたかと言うと決してそうではないんですよね。定さんは次のように言っているんですよ。
私が変態性欲者であるかどうかは私の今までの事を調べてもらえば良く判ると思います。今までどんな男にも石田と同じような事をした訳ではありません。今までは自分を忘れて男と関係したことはなく好きな男だと思い金をもらわないで遊んだこともずいぶんありました。それでも自分を忘れず時と場合と考えて簡単に別れておりました。
例えば中川朝次郎さんにしても寝た時は良いが顔や姿の悪いアラが良く判っており、同人と関係して自分が眠っている間に帰られ、今頃は奥様を抱いているなと想像しても平気でした。
大阪で淫売している時に知り合った八木幸次郎という人は様子も良いし表面金離れもよかったし、かなり惚れ合っていましたが金もないのに取りつくろって見栄をはる様子が目に付き、別れるのを何とも思いませんでした。
今まで私はそれほどに理性が勝って男にビックリされた事もありました。
ところが石田だけは一点の非の打ち所がなく、強いて言えば品がありませんが、かえってその粋な所を私が好いたので全く身も心も惚れ込んでしまったのです。
女として好きな男を好くのは当り前です。私の事は世間に判ったから可笑く騒がれるのですが、女が男のモノをすごく好きになるのは世間にざらにあると思います。
『自伝・阿部定の生涯 その6』より
定さんは、このように自分のことをむしろ理性的な女だと思っていた。感情に押し流されて自分を見失うことはなかったと言っているんですよね。
石田吉蔵さんだけは別だったわけですね。
そうですよ。
なぜでしょうか?
“気が合う人”と言う言い方がありますよね。一口で言ってしまえば、定さんにとって吉蔵さんは、そういう人だったんでしょうね。昔からこの種の言葉はありますよ。たとえば、“比翼連理”だとか“断琴の交わり”とか。。。“以心伝心の人”とかね。。。定さんにとって、吉蔵さんは、生まれて初めて出合った“気心が通じ合う人”だった。心ばかりではなく、性的な関係でも、二人はぴったりと合う鍵と鍵穴のように、うまく気持ちが通じ合った。定さんは吉蔵さんとの関係を次のように言っていますよ。
私は石田をこのように恋慕愛着したのですが、石田のどこがそれほど良かったのかと言われても、ここと言って答えることは出来ません。石田は様子といい態度といい、けなす所は一つもなく、あれ程の色男に会った事はありません。
42才とはとても思えず、せいぜい27才か28才に見え皮膚の色は20代の男のようでした。気持ちは極く単純でちょっとした事でもとても嬉しがり、感情家で直ぐ態度に表わし赤ん坊のように無邪気で、私が何をしても喜んでくれ、甘えてたりしていました。
また、石田は寝間がとてもたっしゃな男で情事の時は女の気持ちをよく知っており自分は長く辛棒して、私が充分気持ちが良くなるようにしてくれ、口説百万陀羅で女の気持ちをよくすることに努力し、一度情交してもまた直ぐ○○○○○という精力振りでした。
私は石田が技巧だけでなく本当に私に惚れて情事をするのかどうか試したことがありました。申し上げるのも失礼やら愧(はずか)しいやらですが4月25日吉田屋を家出した時、私は○○でお腰が少し汚れていたのですがそれでも石田は厭がらず触ったり舐めたりしてくれました。
4月27日か28日頃、待合「田川」にいた時、私が椎茸のお吸物をアツらえ石田に「本当に惚れ合うと椎茸やお刺身を前に付けて喰べるんだってね」と言うと石田は「俺だってしてやるよ」と言ったのでお吸物から椎茸を出して箸でそれを私の前に差込み汁を付けてチャブ台の上に置いたところ、しばらく巫山戯てから石田がそれを半分喰べて私もそれを半分喰べました。
私が余り可愛くて気が詰まる程石田をギュッと抱きながら誰ともよい事をしないように殺しちまおうかしらと石田に言うと石田はお前のためなら死んでやるよと言いました。
私たちが5月4日か5日頃「満左喜」に居た当事は、金が続かないから家に帰らなければならないと言うので私が石田のものを取ってしまうと言うと、石田は「家へ帰ったってしやしないよ。お前だけだよ」と言ったり、冗談にせよ石田は恋の技巧がとても上手でした。
その他、石田が私に親切であったことは今まで述べた通りでしたから石田と初めて関係してから、だんだん石田に心を惹かれ、4月23日から5月7日まで2週間も待合を泊り歩いたのですから普通なら飽きが来るはずですがどうしても石田と一緒に居るとますます良くなるばかりで、一旦別れて8日から10日まで一人で居た時の嫉妬と焦燥の気持ちは今考えてもあれ程辛かった事はありません。
『自伝・阿部定の生涯 その6』より
どうですか?あれだけ自分のことを理性的な女だと言っていた定さんが自由奔放な可愛い女になって吉蔵さんにのめりこんでゆく。理性の世界から情念の世界へと自分を駆り立ててゆく衝動が定さんをすっかり捉えてしまう。こうして二人は情痴の世界に溺れて行く。ブレーキが利かなくなったのは、二人があまりにもぴったりと合う鍵と鍵穴だったからですよ。僕はそう思いますね。
分かりましたわ。デンマンさんのおっしゃることが分かったような気がしますわ。
そうですか。
つまり、あたしが洋ちゃんに抱かれてイケないのは、あたしと洋ちゃんがピッタリと合う鍵と鍵穴ではないと言うことなんですね?
そうだとは断定できませんよ。他のカップルと比べたら、清水君とレンゲさんが気心の通わないカップルだとは思えない。第一、文字通り毎日愛し合っているのですからね。
でも、デンマンさんが、定さんの調書を引用して言おうとしていることは、あたしと洋ちゃんが“比翼連理”のカップルではないと言うことですわ。
レンゲさんは、僕がこの話をしたので初めて気づいたようなことを言っているけれど、実は知っていたんですよね。でしょう?
そうやって、デンマンさんは、あたしの一番触れて欲しくないところにグサリとナイフを突き立てるのですわね?
レンゲさんは、頭の良い人なんですよ。すべて分かっている。分かっているのに、気持ちを切り替えることができない。つまり、“足るを知る”と言う気持ちになれないのは、タバコをやめたいのにタバコがやめられない人とすっかり同じですよ。
つまり、あたしの意志が弱いと言うのでしょう?
誰でも欠点がありますからね。意志が弱いと言うか、感情に押し流されやすい、という事がレンゲさんの欠点なんでしょうね。レンゲさんが、何もかも理性で割り切ったら、レンゲさんの可愛さがなくなってしまうかも知れませんよね。
そう言うデンマンさんこそ、タチが良くありませんわ。何もかも知っていて、あたしをこうして精神的にもてあそぶ。
どっちもどっちでしょう?同じ穴の狢(むじな)ですよ。狸と狐の化かし合いでしょうね。でも、そういう可愛さがレンゲさんにあるから、僕はレンゲさんに惹かれているんですよ。だから、こうして2年近くも“心の恋人”として付き合うことができるんですよ。でもね、レンゲさんが清水君に抱かれてイケないことまで僕の責任にしないでくださいよね。
していませんわ。
でもね、レンゲさんは、これから言うんですよ。“デンマンさんが、あたしを無理やり日本へ連れ戻したからこうなってしまったんですわ”とねぇ~~。
いいえ、あたし、そんなことは言いませんてばああああああああ~~
分かりましたよ。。。分かりました。そんなに大きな声で喚(わめ)かなくても聞こえますよぉ~。
【ここだけの話しですけれどね、先手を取って、何とかレンゲさんの矛先をかわすことができました。またイクのイカないの、とレンゲさんが言いだすかもしれませんよ。へへへへ。。。とにかく、レンゲさんの話の続きは、ますます面白くなりますよ。どうか期待して待っていてくださいね。もっとレンゲさんのことが知りたいのなら、下にリンクを貼っておきましたからぜひ読んでくださいね。】
レンゲさんの愉快で面白い、そして悩み多い日々は
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■ 『レンゲさんの愛と心のエデン』
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