脇野田の駅、改札から出入口向かって左側に一軒、昼間だけやってたラーメン屋があった。って言っても、行けば必ず暖簾が下がってる訳でなく、寧ろ「やってない」も同然な店だったと思う。何せ、撮影から上がってきて「やってる!」と思っても、機材やら装備やら外しててよそ見してる内に暖簾が消えて「閉店・・・」してたこともあった位だ。
ある時、たまたま「Sユーロ」の回送撮ってから上がってきたらまだ暖簾が下りてたことがあって、運良くそこで「塩タンメン」を頼むことができた。側には顎の皮がヒキガエルみたいに垂れ下がったオヤジが1人先客で座っていて、ビール片手にチャーシュー麺かなんかを食べていた。格好からして酒の飲み過ぎで体壊したんじゃないかと想像がつく。しかしそこまでして昼間っから酒とラーメンって、病気直す気ないんじゃないか。
やっと「塩タンメン」が出来て俺の目の前に出された時、丁度オヤジは食べ終わったらしくテーブル前から立ち上がって杖突いてゆっくりと店を出ていった。俺が食い終わって勘定を済ませて店を出たあと、振り返ったらその店は暖簾を下げていた。どうやら俺が最後の客だったらしい。物凄く寂しい気持ちになった。
それから何度か訪れる機会があって、俺はその都度「塩タンメン」を頼んで食べたが、だいたい「オヤジ」も一緒か入れ違いでやってきていて、杖を突いて歩って店に入る姿をちょくちょく見かけた。
しかし重連シュプールも運転最後って時になって、誰が亡くなったのか店の軒先に大きな献花が置かれていた。献花者の名前には何か「家族一同」とかあって、店やってる筈なのにおかしい。尤も流行らない店だったから相応に寂しい葬式になっただろう。
以降そのシーズンが終わってからも「Sユーロ」とかで脇野田には何度となく訪れて色々撮ってたが、店が開くことはなかった。・・・あの店はあの「オヤジ」の為に開いていたのだ。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます