ガルパン劇場版にて展開された様々な対戦シーンのなかで、なかなかに印象的だったのが「どんぐり小隊」の対カール戦であったことは、多くのファンが指摘するところでしょう。
この「どんぐり小隊」は、未見の大口径砲に対応するために大隊長西住みほの指示によって急遽編成されたチームです。大洗チームからはカメさんチームとアヒルさんチームを抽出し、友情支援組からはアンツィオ高校チームと継続高校チームを抜擢していますが、この組み合わせがいかなる発想に基づいたものかは、劇中では明らかにされていません。
ただ、西住みほは、未見の大口径砲については、秋山優花里の推測をふまえてある程度のイメージを描き出していたとみられるので、それに対応可能なチームおよび車輌を最低限度の数で揃えて指示したものと思われます。
劇中では、「お願いしたいことがあります」との依頼のみで、直後にシーンが「どんぐり小隊」の進撃姿に切り替わってしまっているため、具体的にどんなことをお願いしたのかは、その後の「どんぐり小隊」の行動を顧みることで類推するしかありません。
しかも、「どんぐり小隊」のリーダーが誰なのかも明確にされていません。劇中シーンを見ていると、アンチョビがリーダーのように見えますが、その後の作戦行動を実質的にリードしたのは角谷杏でした。
その後の大体の流れはこんな感じです。
1 メグミ中隊に接近するとみせかけて牽制砲撃を受け、これをかわしてメグミ中隊の視界外に離脱。
2 林間の道を進んで、先頭のアンチョビがカールを発見。
3 カールにM26パーシング3輌から成る護衛チームがついているのを確認。
4 河嶋桃が即時に「撤退しましょう」と提案。
5 角谷杏は「4輌で突っ込むか」と言い、小山柚子が「無理です」と反論。
6 アンチョビも「ムチャだ」と反論。
7 アヒルさんチームが「殺人レシーブ作戦」を提案。作戦内容を聞いた角谷杏が「それいいね」と賛成。河嶋桃は「そうですかあ?」と応じる。
8 角谷杏が継続高校チームに「ちょっと手伝ってほしいんだけど」と依頼。
9 ミカはすぐに「この作戦に意味があるとは思えない」と呟くものの、依頼通りの行動に出る。
これらをふまえると、西住みほが「どんぐり小隊」にお願いした作戦内容は、未見の大口径砲の確認、可能ならば攻撃して無力化し、味方とくに「たんぽぽ中隊」への脅威を取り除く、の二点であったと思われます。
一点目は、カールを発見したことで果たされました。しかし、二点目は、M26パーシング3輌の護衛チームとの対決が不可避となるため、スペック的にも完全に劣勢となる「どんぐり小隊」では対応出来ないとの判断が河嶋桃とアンチョビにありました。
しかし、角谷杏は迷わずに攻撃する意思を示しているので、西住みほからお願いされた内容をそのまま忠実に履行しようとしたのでしょう。ですが、正攻法ではとてもかなわないため、アヒルさんチームの「殺人レシーブ作戦」を採択して、継続高校チームにはM26パーシング3輌の護衛チームを引き付ける囮の役目をやってほしいと依頼したのでしょう。
ところがミカから見ると、「殺人レシーブ作戦」に意味があるとは思えなかったわけです。
それでは、ミカにとって「意味のある作戦」とは、どういうものだったのでしょうか。おそらくは、どうやってカールを無力化するか、という方法の問題であったと考えられます。その場合、攻撃の主力となるのは75ミリ対戦車砲を持つヘッツアーであり、114ミリ榴弾砲をもつBT-42はこれに同行して攻撃の援護にあたる、という図式がまず考えられます。機動力に長けたCV33や八九式中戦車には、偵察、陽動、攪乱などを展開してもらったうえで、装甲値はほとんど無きに等しいカールの死角を突く、という形になると思います。
ところが、「殺人レシーブ作戦」では攻撃の主力が8ミリの機銃しか持たない非力なCV33になり、一番の打撃力を有するヘッツアーは特に任務が無く、そしてBT-42はM26パーシング3輌全てを引き付ける役となりました。とても適材適所とは言えず、ミカでなくても「意味があるとは思えない」と言いたくなるでしょう。
たぶん、ミカは「この作戦だと、確実に自分たちBT-42が犠牲になる、パーシング相手だと刺し違えて終わるしかない」と悟ったのだと思います。ミカにとって「意味ある作戦」とは、カールを確認し無力化したうえで、「どんぐり小隊」全員が生還することだった筈です。でも、それは実現しませんでした。
実際の行動ではパーシング2輌を直接撃破していますが、それだけの戦果を挙げたメンバーがそうそういないのですから、BT-42が無傷で生還していれば、その後の試合にてさらなる活躍をみせてくれたかもしれません。
一般的には、対カール戦は「殺人レシーブ作戦」によって勝利に終わった、ということになっているようですが、厳密に評価するならば、勝ったことは勝ったが、もう少し良い方法で勝てたのではないか、ということに尽きるでしょう。つまり、「どんぐり小隊」全員が生還するという勝ち方を目指すべきではなかったか、ということです。
それが、西住みほが「どんぐり小隊」に託した本来の作戦であった筈、と個人的には思います。西住みほの立場からすれば、チームのメンバーの誰ひとりにも絶対に落伍してほしくなかった筈なのです。継続高校チームとも、もっと一緒に戦いたかっただろうなあ、と思ってしまいます。
OVAアンツィオ戦ストーリーからの抜粋の一部分ですが、遡る事1年前みほが黒森峰の副隊長時代の練習試合の経験談を沙織や華と交えた内容です。
華「へえ…継続高校って結構強いんですね…。」
みほ「うん…前に練習試合の時苦戦したんだよね〜。」
沙織「黒森峰なのに〜!?」
みほ「そうなの!危なかったんだよ!」
沙織「うちとどっちが強い!?」
みほ「やってみないと分からないけど、隊長が凄く優秀な人で…。」
と言う下りがありますが、これは明らかに黒森峰より車両装備の質・数に劣る継続高校が西住姉妹を苦しめた戦術を工夫と隊員の練度で補ったのが遊撃戦と云う答えに至ったのではないでしょうか?
また大洗女子学園も継続高校と似た様な状況下では質・数に勝る相手に勝ち目は無いために採るべき選択肢が他に見出す事が出来なかったのだろうと推察します。
またアンチョビは非力なCV33を駆使し、強力な火力と装甲を持つマジノ女学院を撃破した手腕を買われ、カメさん&アヒルさんチームのコンビはマウスを撃破したコンビネーションの良さと命中練度の高さを実証した経験から「どんぐり小隊」の編成に加えられたのでしょう。ミカ率いる継続高校にしても3号突撃砲G型、4号戦車J型、T34/85があるにもかかわらず、他校の指揮下で戦うよりもみほの元で自分のスタイルで戦う事 を望んだからこそ困難な任務を引き受けたのだと思います。
早い段階で撃破リタイアしたものの序盤の敵撃破車両6両の内3両を継続の戦車が葬り去った事からもカール自走臼砲の無力化に貢献した事をミカは誇りに思ってますよ。
ただ、ミカはなぜ自チームではあまり強力でないBT-42に乗っているのだろうか、と思います。3号突撃砲G型、4号戦車J型、T34/85などに乗ると、自分のスタイルで戦いにくいのかな、と疑問に思ってしまいます。
継続高校には3突G、4号J、T34/85と云った強力な火力を持つ戦車以外にも多数のソビエト戦車も所有しています。つまるところこれらの戦車で参戦した時点でひまわり中隊に組み込まれていた可能性が高く、プラウダ小隊と黒森峰小隊に分割もしくはその指揮下に置かれているでしょう。
義勇参戦に駆け付けたミカが他校指揮下で戦うとは到底考えられません。各学校の戦車道チーム隊長は対等な立場であり、継続高校のスタンスと自主性を貫く為には戦車戦に不向きなBT42を選択する以外になかったのかもしれません。それにミカは「刹那主義には賛同出来ないね」と云う考えから大洗女子学園の為ではなく、“みほの友人”としての立場を貫いているのだと思います。従って戦う目的や果たす義務、責任も彼女の為だけに負うスタンスをとっているのでしょう。
もう一つの理由として継続高校のアキ、ミッコにしても親しげな口調な感じから恐らく同級生か同じ立場かもしれません。設定にはありませんが、各戦車の戦車長もしくは副隊長の資格を有する隊員なのかもしれません。この度の参戦でミカが最も信頼出来るまたは優れた技量を有する隊員を選んだ可能性も捨て切れません。他校の例に上げるならば聖グロのダージリンが指揮するチャーチル戦車がそれに近い存在なのかもしれません。
設定が無い以上仮説に過ぎませんが、早く新しい映像作品が出てより詳細な設定資料が公開されるのが待ち望まれます。
新しい映像作品は「最終章」と発表されましたね。いずれは終わるんだ、終わらせないとキリが無い、という制作サイドの意識がにじみ出ていますね。
この「最終章」に継続高校チームが再登場すれば、トオル様の仮説の再検証が楽しめますね。
これはアンツィオ戦のようなOVAとして劇場での公開もやってくれるといいですね。