1月27日未明に配信開始された「iOS 14.4」と「watchOS 7.3」により、日本でもApple Watchで「心電図を記録する機能」と「不規則な心拍を通知する機能」の2つが新たに利用できるようになった。
心電図機能は、Apple Watch Series 4/5/6で、不規則な心拍通知は、Apple Watch Series 3以降(SEを含む)で利用できる。それ以外のモデルは、センサー非搭載だったり、OS非対応だったりして利用できない。
今回は、watchOS 7.3で追加された2つの機能がどういった機能なのか、レビューをお届けする。
病気の診断と治療は医師にしかできない
設定時にしつこく「医師に相談してください」と注意書きが出る
心機能の解説の前に前提情報として、「病気の診断と治療は医師が行なうもの」と認識しておこう。Apple Watchの計測結果で医師以外の誰かが何かを診断することはできない。診断や治療に関して、無駄に症状をググったりせずに、病院で医師にかかろう。Apple Watchの計測結果はただのデータであり、それをどう解釈するかは医師に任せよう。
また、Apple Watchの計測で異常な結果が出たからといって、病気とは限らない。たとえば筆者は、2年ほど前からそこそこの負荷の有酸素運動(某VRゲーム)を週に3回以上継続している。これにより心機能が鍛えられていて、安静時心拍数は55bpm前後まで下がっている(以前は65bpmくらいだった)。体調が良い日に横たわっていると50bpmを切ることもあり、そうなると健康診断や人間ドックでも「洞性徐脈」という診断が付く。
筆者の安静時心拍数。調子が良いと50bpmくらいまで下がるが、体調不良だと60bpmを超える
今回追加された心電図機能でも、50bpm以下は「低心拍数」という結果になるらしい。しかしだからといって筆者の心機能が不健康というわけではなく、健康診断や人間ドックでも医師には問題ないもしくは健康的と言われる。数値としては異常だが、健康な運動習慣による異常値だと推測できるからだ。
判断するのは、知識と技術と機材を正しく使いこなせる医師の仕事だ。Apple Watchの計測結果だけでは、素人がわかることは限られている。心配なら症状をググるのではなく、“医師にかかって診察を受けよう”(重要なので2回言わざるを得ない)。病気の診断において、Apple Watchは参考データのひとつにすぎない、ということを忘れないようにしよう。
簡単だけど自動計測はできない「心電図」
心電図の設定画面。生年月日はサバを読まずに入力しようね
ここからは新機能についてレビューしていこう。まずは「心電図機能」だ。
この機能、以前からアメリカなどでは提供されていたが、医療に近いところとなる機能のため、当局の承認が必要となり、日本での提供は遅れていた。昨年、日本でもアプリとして認証を受けたため、今回のアップデートで利用できるようになった。ちなみに認証を受けたのはハードウェアとしてのApple Watchではなく、ソフトウェア(アプリケーション)である。
心電図は、よく健康診断などで行なわれている、胸や手足にたくさん電極を貼り付けて測定するアレだ。英語ではECGやEKGなどと言われる。Apple Watchは2つの電極のみの簡易的な計測になるが、心臓の動作異常である心房細動の有無を測定できる。心房細動が起きると日常生活に支障を来たすほか、血栓ができやすくなって脳梗塞などにつながる可能性もあるとされている。
心電図機能は、Apple Watch Series 4/5/6で利用できる。それ以外のモデルは電気式センサーを搭載しないので利用できない。Apple Watch SEは最新モデルだが、電気式センサーがないため機能しないので注意しよう。
測定時はこんな感じでApple Watchを装着していない方の手も使う
使うには、まずiPhoneとApple WatchのOSを最新にアップデートする。
始めて使うときは、まずiPhone上の「ヘルスケア」アプリの「ブラウズ」タブ側にある「心臓」→「心電図(ECG)」をタップし、初期設定を行なう。入力項目はApple Watchを装着する腕と生年月日くらいだが、重要な注意書きも出てくるので、それらをちゃんと読んでおこう。
設定作業の中で、初回の測定が行なえる。測定は安静状態でApple Watchを装着した腕を机の上に置くなどして安定させ、もう一方の手の任意の指でApple Watch側面のデジタルクラウン(りゅうず型ボタン)に触れる。この状態を30秒キープすると、測定が完了する。指を少しでも離すとカウントダウンがリセットされる。
心電図の記録。「洞調律」は問題のない。「心房細動」が問題ありで、「低心拍数」や「高心拍数」、「判定不能」は計測に問題があったのかも
任意に測定したいときは、Apple Watch上で心電図アプリを起動し、同様にデジタルクラウンに指を当てる。定期的に自動計測するといった機能はない。
測定時は安静にしておく必要がある。どのくらい安静にするかは明示されていないが、たとえば家庭用血圧計の測定なんかだと、だいたい「激しい運動の直後を避ける」「座った状態になってから数分後」というのが安静状態とされている、そのくらいで大丈夫だろう。もちろん座ったままでも、興奮したり血流が高まる行為(会話や食事、映画視聴など)は測定結果に影響を与えるので避けよう。
細かいグラフも見られる。まぁ素人が見ても何もわからないんだけど。「医師に渡すためのPDFを書き出す」をタップし、共有アイコンをタップすればPDFを送信できる
普通に健康な人が測定しても、心房細動が検出されることはほとんどないだろう。この機能は、心疾患と診断されている人が日常で異常を感じたり、もうひとつの新機能である「不規則な心拍」の通知を受けたとき、すぐにApple Watchで心電図を記録し、そのデータをかかりつけの医師と共有する、といった用途で使う機能だ。
医師とのデータ共有のために、心電図の記録をPDFとして書き出して共有する機能もある。AirDropで近くにあるiPhone/iPad/Macに送信することもできるが、メールやメッセージでその場にいない人に送ることもできる。心疾患と診断されて、かかりつけの医師がいる場合は、こういったデータを見てもらえる連絡先があるかどうか聞いておくと良いだろう。
設定すればバックグラウンドで動作し続ける「不規則な心拍の通知」
不規則な心拍の通知の設定画面。不整脈を検知する
今回のアップデートでは、「“不規則な心拍”の通知」という機能も追加された。watchOS 7.3にアップデートさえできていれば良いので、Apple Watch Series 3以降はすべて対応している(Series 2以前はOSアップデート対象外)。
不規則な心拍の通知は、心電図と同様にiPhone上の「ヘルスケア」アプリの「ブラウズ」タブ側にある「心臓」から設定する。生年月日と心房細動診断の有無を入力するだけだが、心電図同様、短いながら重要な注意書きがあるのでちゃんと読んでおこう。
こちらの機能は、設定すると装着中はバックグラウンドで実行されるようになり、異常が検出されると通知される。
ちなみにApple Watchには「高心拍数の通知」や「低心拍数の通知」、「心肺機能通知」などの通知機能もある。必要に応じてこれらも設定しておこう。
設定しておけばあとは自動で動作し、異常があったときだけ通知してくれる
不規則な心拍の通知の仕組みはというと、「最低65分以上の時間をかけて5回の心拍リズムのチェックを行い、不規則な心拍リズムが検出されるとユーザーに通知します。」となっている。常時見張っているのではなく、65分に5回程度計測、という仕組みのようだ。
”不規則な心拍“は心房細動が原因の可能性がある。
心配ならば医師の診察を受けよう。また、不規則な心拍が通知されなくても、なんらかの体調異常を感じたときは、Apple Watchのデータとは関係なく医師の診察を受けるようにしよう。
健康は生活習慣の改善で
心電図が出力したPDF
今回追加された機能は心疾患の診断を受けている人にはありがたい機能だが、健康を増進するための機能ではない。不健康な状態を素早く検出し、早めに医師の診断を受けることで、さらに悪い状態になることを防ぐための機能だ。それで健康になるわけではない。もともと健康ならば関係ない機能だし、この機能のお世話にならないような健康状態を維持することの方が重要だ。
健康になりたければ、努力して生活習慣を改善し、定期的に健康診断に行く。これしかない。もちろんこれでも病気になることはある。生まれつきの体質など不平等なこともあるし、年を取れば健康は徐々に失われていく。健康とはそういうものだ。少しでも健康になりたいならば、少しでも正しい努力を積み重ねていくしかない。
そうした健康にApple Watchが役に立たないかというと、そんなことはまったくない。運動習慣の維持や睡眠の改善などの生活習慣の改善には、Apple Watchは大いに役に立つ。むしろ健康増進にもっとも役に立つデバイスのひとつですらあると思う。
その上で、新機能の心電図アプリや不規則な心拍の通知機能は、これまで得られなかった形で「安心」を付け足してくれる機能と言える。とくに不規則な心拍の通知機能は、心疾患の診断を受けてない人や健康診断で「要経過観察」などと言われた人が日常生活の中で、自身の心疾患の徴候に気づくきっかけにもなりうる。定期的な健康診断に加えて心電図アプリや不規則な心拍の通知機能を利用することで、健康悪化のサインを見逃さず、何かあってもすぐに対応できる体制を整えていこう。
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