2022年8月更新 / 2018年9月初出掲載

微量ミネラルであるセレンは、主にグルタチオンペルオキシダーゼという抗酸化酵素の構成要素として機能します。この酵素は、ビタミンEと共に作用してフリーラジカルによる細胞膜の損傷を防ぎます。セレンが不足すると、がん、心血管疾患、炎症性疾患をはじめ、早期老化や白内障形成といったフリーラジカルによる損傷の増加に関連する疾患リスクが高まると言われています。

セレンは抗酸化サポートを提供

その抗酸化作用により、適切なセレン濃度を維持することは、さまざまな疾患を予防する上で重要であると考えられます。この働きにおいて、セレン含有酵母にいくつかの利点があることを示す研究が一部あります。例えば、ある二重盲検プラセボ対照試験(医師・患者ともに、誰が本物のサプリメント・薬剤かプラセボを摂取しているかわからないように進行して効果を客観的に判定する方法)では、69人の健康な男性に、セレン含有酵母由来のセレンであるSelenoExcell(1日200または285μg=マイクログラム。mcgとも表記)あるいはセレノメチオニン(1日200μg)を9ヶ月間投与しました。その結果、血中セレン濃度は、セレノメチオニン投与群で93%、SelenoExcellの低用量群で54%、高用量群で86%増加しましたが、酸化損傷の標準マーカー(指標)に減少がみられたのはSelenoExcell投与群の男性のみでした。1

白内障形成の予防に期待が寄せられるセレン

適切なセレン濃度を維持することは、白内障の形成を防ぐ上で重要であると考えられています。研究では、白内障患者の水晶体中のセレン含有量は正常値のわずか15%であり、白内障患者の房水(ぼうすい。眼球の角膜と虹彩との間、および虹彩と水晶体との間を満たす液)中のフリーラジカルの量は正常値の25倍にも及ぶことが示されています。2

セレンと心疾患

セレンは、心疾患と脳卒中の予防に役立つと考えられています。これは、発症率が最も高いのが心疾患であるのに対し、セレンの摂取量が最も少ないためです。ただし、この関連性はがんのケースほど顕著ではありません。セレンの補給は、心臓発作の予防にプラス効果をもたらすことが示されています。ある二重盲検試験では、心臓発作を起こした患者81人が100mcgの(セレン含有酵母由来の)セレン投与群とプラセボ投与群にランダムに割り付けられました。6ヶ月後、プラセボ群では致死的な心臓発作が4件、非致死的な心臓発作が2件あったのに対し、セレン群に死亡者はなく、非致死的な心臓発作が1件みられたに留まりました。3

免疫機能の促進が期待できるセレン

セレンは、すべての白血球の発達と発現など、免疫系のあらゆる構成要素に影響を与えます。セレンが欠乏すると免疫機能が低下しやすくなる一方、セレンを補給すると免疫機能の強化や回復につながります。また、セレンが欠乏すると白血球と胸腺の機能低下により感染への抵抗力が弱まり、セレンを補給(1日200mcg)すると白血球と胸腺の機能が刺激されることが示されています。4

しかも、セレン補給による免疫機能強化の効果は、単にセレン欠乏患者のセレン濃度を回復させるだけではありません。その一例として、ある研究で血中セレン濃度が正常な人がセレンを補給(1日200mcg)したところ、腫瘍細胞を死滅させる白血球の能力が118%上昇した他、がん細胞や微生物を死滅させる強力な能力を持つことからナチュラルキラー細胞(NK細胞)と呼ばれる白血球の活性も82.3%上昇したことが報告されています。5

妊娠中のセレンの重要性

セレンが胎児の適切な成長と発達に不可欠であることを示す重要なエビデンスがあります。妊娠中、特に後期は血中セレン濃度が下がりやすいため、妊娠中の女性はセレンの必要量が増加するとみられます。低出生体重児はセレン濃度が非常に低い傾向にあります。6

セレンと甲状腺機能

セレンは正常な甲状腺機能に不可欠であり、甲状腺のセレン濃度が低いと甲状腺機能障害を引き起こしやすくなります。甲状腺は、セレン不足を防ぐために、他の組織とは異なる方法でセレンを蓄積、保持、再利用する働きがあります。なお、甲状腺のセレン含有量は血中セレン濃度と関係がなく、現時点で甲状腺のセレン濃度を反映するマーカーは存在しません。甲状腺にセレンを十分に供給するには、食事でセレンをたっぷり摂ることが最善の方法であると言えそうです。7

栄養補助食品に含まれるセレンの形態

広く販売されている形態のセレンには、亜セレン酸ナトリウム、セレノメチオニン、酵母由来のセレンがあります。ただし、亜セレン酸ナトリウムのような無機塩類は、セレノメチオニンやセレン含有酵母のような有機形態のセレンほど効果的に吸収されず、生物活性も高くないことが複数の研究で示されています。さらに、高セレン含有酵母(SelenoExcellなど)による利点がいくつかの研究で示されており、セレンサプリメントの好ましい形態とされています。1

通常、セレンの推奨摂取量は1日50~200mcgです。それ以上の用量(数ヶ月にわたって1日900mcg以上)を摂取すると、セレンは毒性を発揮するおそれがあります。

副作用

人体が必要とするセレンの量はごくわずかです。1日900mcgという低用量でも長期間摂取すると、人によってはセレン中毒の症状が現れることがあります。慢性的な毒性に伴う兆候や症状としては、うつ病、神経過敏、情緒不安定、吐き気・嘔吐、呼気や汗のニンニク臭などが挙げられる他、極端な例では脱毛や爪の脱落もみられます。